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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その55 幼馴染の三人組



 ――どうしよう。



 心の中で冷や汗をかきながら、考える。


 場所は執務室。

 いつものごとく、王子様は机に座っている。

 つい先日、魔物退治を請け負うことになったチンピラのホルクさんは、扉横の壁にもたれかかってる。


 二人とも、ついさっきまでは、憎まれ口をたたき合いながら、仲良く雑談してた。

 それなのに、アルミラさん(猫)が私を探してやってきた途端、空気がおかしくなったのだ。



「あら、どうしたんですの、ふたりとも?」



 てってって、と私の足元にやってきたアルミラさんは、二人を見て首を傾けた。



「いや姉貴、なんでもないよ」


「そうさ、別に何でもねえ」



 二人とも、おたがいを牽制するように横目で見ながら、アルミラに声をかける。

 アルミラは、それにまったく気づいた様子もなく、のほほんと雑談を始めた。

 空気が軋んでるので、私はファラオの体勢で、静かに気配を消した。


 うん。なんとなく察してはいる。

 これはあれだ。三角関係とかそういうやつだ。

 恋愛感情が入ってるのかは微妙だけど、そんな感じ。


 三人の関係は、すっごいややこしい。

 それぞれから聞いた情報を、ちょっと頭の中で整理してみる。



 ――ちいさいころの三人は。



 エレインくんとホルクさんは、幼馴染。

 幼いころ、神殿に預けられてた王子様は、よく神殿を抜けだして、彼と遊んでたらしい。


 エレインくんとアルミラは、姉弟のような関係。

 神殿の先輩だったアルミラは、エレインくんを何くれと世話焼きしてたみたいだし、神殿を抜けだした王子様を探しに行くのは、決まってアルミラだったみたい。


 で、ホルクさんにとってアルミラは、友達の姉。

 いっしょに遊んでた王子様を迎えに来るアルミラと、しょっちゅう顔を合わせてただろうし、時にはいっしょに遊ぶこともあっただろう。



 ――で、成長してからは……



 エレインくんは、神殿を出て、王室に迎えられた。

 ホルクさんとは住む世界が変わり、アルミラとは気軽に出会うことが出来なくなった。

 おまけに、アルミラの婚約者が、半分しか血が繋がってない兄だというのだから、王子様は、王室に何もかもを奪われたように感じたんじゃないだろうか。そりゃあ性格も歪む。


 ホルクさんは、エレインくんとの接点が切れた。

 それでも、アルミラとは時々顔を合わせてたみたい。

 だけど次第に身を持ち崩して、かなり刹那的な生活を送ってた。

 金を貰えば人でも殺す、みたいなことを、アルミラに言ったんだとか。

 本当かどうかはわからないけど、きっと縁を切って身を引くつもりで言ったんじゃないかなって思う。


 アルミラさんはアルミラさんで、わりと凄絶だ。

 天真爛漫に信じてた婚約者との関係は、突然現れた一人の娘によって破壊された。

 あがけばあがくほど泥沼にはまり、アルミラは自らの行いのつけを、己の命で払わされることになった。

 その過程で、ホルクさんはアルミラを諭すことが出来ず、協力するも失敗。エレインくんもなんとかアルミラさんを助けようとしたみたいだけど、おそらく立場が邪魔して身動きが取れなかった。


 エレインくんは、ホルクさんがヘマしたおかげでアルミラが処刑されることになったことを、許せない。

 でも同時に、なにもできなかった自分も許せないで居るんだと思う。


 ホルクさんは、自分のミスで死なせるところだったアルミラに負い目がある。そしてそれ以上に、住む世界が違う二人に対して、わざと距離を置いてるとこがある。


 そしてアルミラさんは、すべてを吹っ切って第二の人生を歩んでる。王子様にもホルクさんにも、一切のわだかまりなしだ。

 それはそれでどうよって気もするけど、王室もかつての恋敵も物理的に吹っ飛んじゃったせいで、かえって吹っ切れちゃったのかもしれない。



「どうしたんですの、タツキさん? なにかお悩みですの?」



 と、足元からアルミラが声をかけてくる。

 気配を消してた気になってたけど、私は武術の達人でもなんでもない。

 三人からすれば、話しかけるなオーラを放ちながら黙ってただけに見えただろう。


 ……ふむ。



「アルミラ、ちょっと聞いてみていい?」


「なんですの?」


「アルミラってさ、いま好きな人いる?」



 尋ねると、王子様とチンピラの耳がピクリと動いた。



「居ますわ!」



 アルミラさんが、尻尾をぴん、と立てながら言う。

 王子様たちは興味がない、という風にそっぽを向きながら、すっごいこっちを意識してる。



「へえ? だれだれ?」


「タツキさんですわ!」



 やばい。

 アルミラさん天使か。



「ありがとう! 私も好きだよ!」


「ふふ、いっしょですわ!」



 猫のアルミラさんを抱え上げて、笑顔を向けると、アルミラも笑顔を返す。

 うむ、素晴らしきかな両想い。いや、おたがいラヴじゃなくてライクだけどね。アルミラさん大好き。


 で、こっそり聞いてた二人はというと、密かに胸をなで下ろしてる。



「……そういえば、二人は好きな人とか居ないの?」



 私はちょっと意地悪な質問を投げてみた。

 この際、全部吐き出した方がわだかまりも解けるんじゃないかな?



「へっ、獣道に女は似合わねえよ」



 と、ホルクさんは鼻を鳴らした。

 まあ、無理してるわけじゃなくて、本当にそう思ってるんだろう。

 人生裏街道な感じだし、またそのことに誇りを持ってそうだしね。



「獣ならここに」



 猫のアルミラさんを示すと、微妙に動揺した。うむ、修行不足です。



「ホルク。ワルになりきれないのにワルを気取るのは、悪い癖だな」



 王子様がうれしそうにちょっかいをかける。

 ホルクさんは、忌々しそうに目を眇めた。



「うるせえ。そういうテメエこそどうなんだよ」


「ボクは、特定の女性はいないね」



 余裕を持って答える金髪イケメン。

 まあ望めば女に困ることはないんだろうなあ。まだ14歳だけど。



「……最低ですわ」


「まて姉貴、違うぞ! 不特定の女性とつき合っているという意味で言ったんじゃない! というかそんな暇なんてない!」



 アルミラさんの生ゴミを見るような目に、エレインくんはあわてて自己弁護した。

 まあ、たしかにエレインくんの日常は、常軌を逸した量の仕事に埋め尽くされてて、女をつくる暇なんて一切ない。


 でも、ホルクさんが王子様をニヤニヤ笑いで見て、エレインくんはエレインくんで、なにやら必死にアイコンタクトを送ってるので、なにかアルミラさんに言えない弱みがあるっぽい。



「そういえば、リディちゃんが居るでしょ? ライムングの太守の孫娘の。あの子とか、エレインくんの好み的にどう?」



 ふと思いついて、尋ねてみる。

 あの娘はあの娘でいろいろ難があるけど、年齢とかはつり合ってる。



「どうもなにも、あの娘はタツキ殿にべったりすぎて、どうにも……いや、タツキ殿が特にと勧められるなら、悪い条件ではありませんが」


「ごめん。婉曲なお願いとかじゃなくて、純粋にどうかなって思って聞いただけだし、他意はないからそんな悲壮な顔しないで」



 私が言うと、王子様はあからさまにほっとした表情になる。


 そんなに嫌なのか扉を開きし者リディちゃん。

 実はパパのマルコイさんとか、こっそり期待してそうなんだけど、脈はなさそう。たぶん私のせいですごめんなさい。



「そうでしたか。いや、つり合いがいいとは申しますが、ボクとしては、もうすこし年上の方が好みなので」



 それは、たぶんアルミラを意識して、なんの気なしに言ったんだろうけど。

 アルミラの視線が、絶対零度にまで冷え込んだ。



「……やっぱり血ですわね。兄弟そろって年上好きとか」



 年上の女に婚約者を奪われたアルミラさんの、地雷案件だった。

 というか、エレインくんのお兄さん、アルミラの中では、好感度が反転して超マイナスになってるっぽい。当たり前といえば当り前だけど。



「――!? まて姉貴、違う!」


「タツキさん、そろそろ失礼しますわね? お部屋でお待ちしてますわ。ホルクも、せいぜい仕事に励みなさいまし」



 とっとっと、と扉まで歩いて行く。

 ホルクが、タイミングよく扉を開くと、アルミラはそのまま外に出て行った。王子様はガン無視だった。


 がくり、と、机に突っ伏すエレインくん。

 ホルクさんも、さすがに同情を隠しきれない。



「えーと……」



 元凶の私は、どうしたものかと考えて。



「とりあえず、ごめんね? アルミラには上手く言っておくから」


「いえ、タツキ殿。お願いだからそっとしておいてください。事態が悪化する未来しか見えません」



 うん。責任感じて言ったのはいいけど、私もそんな気がします。





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