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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その54 チンピラさんと王子様



「厄日だ……今日は厄日だ……」


『見知らぬ人! 女神殿に関わったが最後であーる! あきらめるのであーる!』



 ぶつぶつつぶやきながら、肩を落として部屋に入るホルクさんと、それを励ますニワトリさん。



「ニワトリさん。べつに羽根を通して話を聞いてる分にはいいけど、あんまり話に入って来ないでほしいんだけど」


『コケケケッ!? それは無体なお言葉! 余は寂しいと死んじゃうんですよ?』


「……食べるよ?」


『余はいい子です! 大人しくしてます! コケッ!』



 とりあえず、ニワトリさんは静かになった。

 暇な時ならいいんだけど、プライベートに干渉されるのもアレだし……なによりニワトリさんの会話、とりとめもないことが多いから、話が進まない。



「あ、ホルクさん。いつもすみません」



 部屋に入ると、給仕さんがホルクに頭を下げた。

 ファビアさんは、誰だこいつ的な表情で、それでも会釈。

 クレイジー料理人ロザンさんはそのクレイジーさをいかんなく発揮中だ。


 具体的には、神牛の肉を食べて悶絶してる。

 もはやみんな慣れてるのか、給仕さんすらロザンさんを介抱するそぶりもない。



「えーと……」



 ファビアさんに、ホルクのことを紹介しようとして、どう紹介したものかと迷う。



「……チンピラのホルクさん」


「待て待て! お前その紹介はないだろ! というかそっちの嬢ちゃんも人間の屑を見るような目はやめろ! いや、オレが屑なのは否定しねえけど、初対面の人間相手にしていい顔じゃねえぞそれ!」



 ホルクさんの熱い要望があったので、自己紹介は彼に任せることにする。



「えーと……」



 私と女の子二人の視線を浴びながら、ホルクさんは言葉を探すように目を泳がせる。



「壁の外――下町でなんでも屋みてえなことやってる、ホルクだ。よろしくな」


「……あんまり変わらない?」


「ちげえよ!? たしかにオレはロクデナシだが、ロクデナシなりにちゃんと働いてるんですよ!?」



 熱く主張するホルクさん。

 普段は自虐みたいに「チンピラ」とか「ゴロツキ」とか言ってるのに。



「えーと、こっちはファビアさん。ワケあってうちで預かってるけど、ユリシス王国の、由緒正しき名家出身の勇者さん」


「こっちも厄ネタかよォ!? しかもユリシスの勇者って……オレのさっきのちんけなプライド賭けた自己主張が馬鹿みたいじゃねえかよ! そりゃ貴族様から見たらチンピラもオレみたいなのもたいして変わらねえよ!」



 悶絶するホルクさん。

 ちょっと面白い。



「ホルクさんには、店主が特に頼んで、特別な食材を狩ってきてもらってるんですよ」



 見かねたのか、給仕さんがホルクの紹介をしてくれる。


 特別な食材、と聞いて、私は静かに居ずまいを正した。



「――特別な食材って?」


「なんで無駄に本気で顔作ってんだよ……」



 ホルクがあきれ顔でつぶやいた。

 ファビアさんは悟りの境地。給仕さんはなぜか顔が赤い。



「……魔獣だよ。客によっては使うみたいでな。この辺じゃそれほど数は多くねえんだが、最近数が増えてるみてえでな、いい金になってる」


「へえ。魔獣を狩るんだ? ……一人で?」


「ああ――まあ、専門職ってわけじゃねえんだがな。一応余芸程度にな」



 ちょっと驚いた。

 魔獣を狩るのは領主や騎士団の仕事だ。

 そのかわりが出来るくらい強いってのは、素直に意外――というか。



「アルミラに聞いたことあるんだけど、魔力の素養を持つ人が、魔獣退治を請け負う稼業につくこともあるって……ひょっとしてホルクさんって……」


「ああ、どういうわけだか、オレにはそんな才能があったみたいでな。ありがたいんだか迷惑なんだか……」



 言いながら、ホルクさんはズダ袋の口を広げて、私に見せる。

 袋の中に入っていたのは、かなり大きな円盤状の物体だ。



「大きなスッポン?」


「ああ、羅盾鼈らじゅんへいっていう、スッポンの魔獣だ。沼や池に潜み、硬い甲羅で獲物に体当たりを仕掛けてくる厄介なやつだが、魔力に耐性のあるやつにとっちゃ美味い食材だし、甲羅は鍋なんかに最適だ」



 羅盾鼈。

 その名前には、聞き覚えがある。



「ロザンさんに聞いた気がする。鉄なんかより高温に耐える鍋の素材……だったよね?」


「ああ、高温に耐えるだけじゃなく、火の熱をよく伝えるらしい」



 カンカン、と羅盾鼈の甲羅を叩きながら、ホルクは言う。

 甲羅は大きな中華鍋くらいはありそうで、なるほど、いい鍋の素材になりそうだ。



「それに、味もいいらしい」


「……ひょっとして、ロザンさんのよく出すスッポンのスープって……」


「いや、もしかして隠し味くらいには使ってるのかもしれんが、食って体調を崩すようなものを、旦那は客に出さねえよ」



 尋ねると、言下に否定された。


 言われてみれば、そうだ。

 ロザンさんの食に対するこだわりは本物だから……うん。私は魔獣を食べても平気だし、私に対しては普通に出してるかも。


 まあ美味しければ問題ないです。



「……と、その羅盾鼈だけど、鍋に加工するのってどうやってやるの?」


「ん? そりゃあ腕のいい魔獣鍛冶に頼めばいい。水の都にも――」



 言いかけて、ホルクさんはぴたりと言葉を止める。



「――ああ、いや、気のせいだ。オレは知らん。オレが知らんということは、この都にはたいした鍛冶屋はねえってことだ。ローデシアは魔獣鍛冶の本場だから、そっちに行きゃ見つかるんじゃねえかな?」



 早口にまくしたてるホルクさん。


 ああ、そういうことか。

 彼の態度を見て、察した。



「なるほど。ホルクさんの知り合いに、腕のいい鍛冶屋が居るんだね。で、その鍛冶屋さんに迷惑かけたくないから、知らんぷりしてる、と」


「なんでこんなときだけ察しがいいんだよ!?」


「アルミラさんにも変に頭がいいって言われてます」


「アルミラの嬢ちゃんも災難だなオイ――ってのはともかく、嘘をついてスマン! オレが悪かった! でも、マジで勘弁してやってくれ! 並の魔獣ならともかく、幻獣の加工なんて厄ネタ、まともな神経じゃ耐えられねえよ!」



 平謝りにあやまるホルクさん。

 うん、鍛冶屋さんを庇ってるんだろうし、いいんだけど……あらためて、私と普通の人の感覚って違うんだなって思う。


 やっぱり、あれだ。

 クレイジー料理人ロザンさん並にマッドな魔獣鍛冶を、見つけなきゃいけないってことだ。どこかに落ちてないかなあ、マッド鍛冶屋さん。



「おい、もういいよな? 用事は済んだし、オレはもう帰るぜ!」



 ホルクさんがあわてて席を立つ。

 スッポンを引き渡してないし代金も受け取ってないし、あきらかに用事が終わってるようには見えない。

 彼の表情からは、これ以上厄介事に巻き込まれたくないっていう切実な思いが、ひしひしと伝わってくる。



 ――でも。



「――待って、ホルクさん」



 呼びとめると、ホルクさんはビクッ、と肩を跳ねあげた。



「……なんだ」



 ものすごく嫌そうにこちらを振り返るホルクさんに、満面の笑みを送って、私は尋ねる。



「キミの親友がいま困ってるみたいなんだけど、その技能を活かす気はない?」



 返事は聞いてません。







 給仕さんに、神牛料理の目処が立ったら連絡するよう、お願いした後。

 嫌がるホルクさんを引き連れて屋敷に戻り、すぐさま執務室の扉を叩く。

 入室を促されて、部屋に入ると、いつも通り、王子様は椅子に座って黙々と書類に目を通していた。



「やあ、王子様」


「これは、タツキ殿……と、めずらしい顔だな」



 腰を浮かして会釈したエレインくんは、ホルクの姿を見て眉をひそめた。



「はん。別に会いたくて来たわけじゃねえがな」



 チンピラっぽくそっぽを向くホルクさん。

 妙に険悪というか、落ち着かない空気が部屋に漂ってる。



「んー? なんだか仲悪い? 幼馴染なのに」


「アンタなあ……前に、オレにとってこいつはやなヤツだって言ったろ?」



 ホルクさんが、王子様に聞かせるように言う。



「こいつを庇ったせいで、姉貴が死にかけたんです。良く思えるわけがない」



 エレインくんだって負けてない。

 わざとらしくどっかと椅子に体重を預けながら、悪態をつく。



「もう……そんなこと言わずにさ。王子様、いま魔獣討伐の手が足りなくて、困ってるんでしょ?」


「なるほど、こいつを連れてきたのは、それでですか」



 私の話を聞いて、エレインくんは深く息をつく。



「たしかに、いまは猫の手でも借りたい時期です。この男がどうしても、というなら、騎士に取り立てて、使ってやっても構いませんが」


「冗談じゃねえ! オレは餌をねだる犬猫じゃねえんだ! 騎士なんぞクソ食らえだぜ! ……ま、そっちが頭を下げてどうしてもって頼むんなら、この都を愛する義侠の徒として、助けてやるのもやぶさかじゃねえが」



 二人はそう言って悪態をつく。



「……実はキミたち、すっごく馬が合うよね」



 でなけりゃいくら困ってるっていっても、街のチンピラを騎士にしようなんて言葉が出てくるはずがない。

 チンピラさんにしても、ハードルすっごく上げてるけど、結局、王子様を助けるって選択肢を、捨て去ってはいない。



「誰が!?」


「こんなヤツと!?」



 声を揃える二人。

 もう結婚しちゃえばいいんじゃないかな。



「でもまあ、アトランティエの人たちが、魔獣で困ってるのは、たしかなんだよね? だったら、王子様も、変な意地を張らずにさ――ホルクさんも、王子様のためじゃなくていい。義侠の徒っていうなら、みんなを助けるつもりがあるなら、私からのお願い、受けてくれないかな?」



 じっと二人を見て、頭を下げる。



「……タツキ殿、どうか頭をお上げになって下さい。少し意地を張りすぎました」


「あんたにも、アルミラの嬢ちゃんにも恩がある。頼まれれば嫌とは言えねえよ」



 二人はそれぞれの言葉で、譲歩の意を示す。

 それから、おたがいまっすぐに視線を交わして。



「よう。昔のなじみだ。一度だけ手を貸してやるぜ」


「手を借りよう。目いっぱい押しつけてやるから、せいぜい働け」



 ふいに、ほほを緩めた。

 不敵な笑みを交わす二人。

 なんというか、わだかまりがすこしだけ、溶けたのかな?



「あ、ホルクさん、狩った魔獣、私に下さいね――エレインくん、その分のお金、出してもらっていいかな?」



 おねだりすると、「台無しだ」みたいな顔された。






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