表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

51/125

その51 水の都に戻ったら



 白船は、大河クーをゆるゆると下る。

 蒼の都市ライムングを出て四日。すでに水の都アトランティエの街並みが、彼方に見えている。


 隣には、茶褐色の長髪を風になびかせるアルミラ。

 そして、にっこにこの金髪少女。ライムング太守の孫娘、リディア。



 ……どうしてこうなった。







 5日前。赤の神牛ガーラン討伐の翌日。

 水の都に帰ることを告げると、太守さんは大急ぎで船を用立ててくれて、次の日、出発になった。


 船は、例によってライムングの白船。

 四角いマルコイさんが、いっしょに行くことになった。

 守護神鳥ニワトリさんの腰が定まり、いろいろと建設的な話が出来るようになったためだ。


 それにリディちゃんがついてきた。

 名目上はマルコイさんに従って、ってことだけど、「私と別れたくない!」ってのが態度に出過ぎててつらい。あとかわいい。


 で、船の上でも停泊先の宿でも、いろいろとお世話してくれる。

 アルミラさんも慣れてきたのかあきらめたのか、破廉恥なこと以外には、あんまり目くじらを立てない。むしろこまめにリディちゃんの世話を焼いてる。


 もともと、神殿でも年下のエレインくんの世話を、好んでしてたみたいだし、お姉さん体質なのかも。お姉ちゃん私も甘えさせて!


 でも、そんなアルミラさんも、破廉恥なことには容赦がない。



「破廉恥はいけませんわ! 淑女たる者、たとえタツキさんが無防備でも……そんな――ああ、そんなことまで!? 破廉恥ですわ! いけませんわよタツキさん!」



 地味に、妄想力でいうとアルミラさんが一番破廉恥な気がします。神殿育ちのせいか、語彙は壊滅だけど。

 たぶんリディちゃんだって、そこまでヨコシマな妄想抱いてません……主に知識が足りないせいで。



「娘が申し訳ありません」



 いや、あなたは頑張ってますよマルコイさん。

 でも厳しいようでいて実は娘にダダ甘なので、わりと役立たずですマルコイさん。でもそういうパパは嫌いじゃないです。



『我が盟約の家の娘が、女神殿の元に望んで仕えるのだ。めでたいことだと思ってかわいがってくれるといいですよ! コケッ!』


「ニワトリさんは黙ってて」



 髪に差した純白の羽根から、無責任な声が飛んできたので、私は冷たく斬り捨てた。

 この小さな羽根は、別れる時、ニワトリさんが連絡のために、と、くれたものだ。“音”を司るニワトリさんの魔法がかけられていて、魔力を込めると通信機がわりになるのだ。



「――というか、普段は通信切っててよ。いきなり話しかけるとびっくりするから」


『羽根に常時魔力を注ぎ続けてる女神殿にも、非はあると思います! コケッ!』


「自分では注いでる気はないんだけどね……」



 どうも身近に置いてるだけで、それなりの魔力が羽根に流れちゃうみたいで、常時回線がオープンになるのが困りものだ。

 まあ、別に聞かれて後ろめたいことはないし、いいんだけど。万一なにかあっても、それをニワトリさんが広めるとは思えないし。というか広めたらシメます。



『心なしか寒気が、であーる!?』



 気のせいですよ気のせい。



「まあ、帰ったら魔女さんに頼んで、使いやすいようにカスタマイズしてもらうよ。素材を使いやすいように加工する。うん、文明っぽい」


『仮にも余の羽根なんだし、あんまり無残な姿にはしないでくださいね! コケッ!』


「大丈夫。私が身につけるものだから、カッコよく仕上げてもらうよ」


『余に対する思いやりは一切見られないが、結果がよければまあよいのであーる! かわいく仕上げてね? であーる!』



 いやです。

 かっこいい感じに仕上げてもらいます。







 まあ、いろいろとあったけど、白船はすでに水の都アトランティエの間近に迫ってる。

 アルミラさんは故郷が近づいて来るのを楽しそうに見てるし、リディちゃんは行き交う船の多さ、そして彼方に見える海に、目を輝かせてる。


 私も水の都を見やりながら、考える。



 ――とりあえず、帰ったら。



 まずは屋敷に戻って、向こうであった出来事を、エレインくんに報告する。

 その後の、政治的な話なんかは、エレインくんとマルコイさん、偉い二人に任せる。まあ、立ち会っとかないといけない場面もあるだろうし、それにはつき合うけど。


 そんな感じで、二、三日経ったら、念願のフカヒレタイムだ。

 その時たとえなにが起こってても、絶対にフカヒレは食べる。ついでに神牛の食材も、クレイジー料理人ロザンさんに預けよう。


 そうして、神牛料理が出来上がるのを待つ間に、銀髪幼女オールオールちゃんに、通信羽根の改良とか、他の素材でなにか面白いこと出来ないか、相談。


 思えばけっこうやることがある。

 けどまあ、趣味を優先させつつ、しばらくはのんびりアトランティエ王国の再興を手伝っていこうって思ってる。当分は食事に困りそうにないし。



「女神様、憂い顔もすてき……かわいい……」


「いえ、あれはきっとごはんのことを考えてるんですわ」



 アルミラさんの信頼が厚すぎてつらい。

 私だってごはんのことばっかり考えてるわけじゃないんですよ?

 考えてたこと、半分くらいはごはんのことだった気がするけどね!







 ほどなくして白船は港に着いた。

 街並みも懐かしいけど、それよりも自分の部屋が恋しい。

 なにしろ十日あまり屋敷を空けていたのだ。文字通り飛んで帰りたい衝動にかられながら、みんなと一緒に屋敷に戻る。


 マルコイさんは同行の人たちと一緒に、いくつかの客間に割り振られた。

 リディちゃんにも部屋は割り当てられたんだけど、部屋に戻るアルミラさんについて行っちゃった。


 私はエレインくんとお話だ。

 エレインくんも事前に情報が欲しいだろうし、私も自分がなにかやらかしてないか確認しときたい。心の安定のためにも。



「タツキ殿、ご無事そうで何よりです」



 執務室に入ると、エレインくんはもろ手を挙げて歓迎する。


 ものすごくほっとしてる感じだ。

 まあ、まかり間違って私になにかあったら、政権も国も吹っ飛ぶしね。

 なんてひねた見かたもするけど、この王子様、わりと気遣いとかしてくれるし、実際に心配もしていてくれたんだろうと思う……姉がわりのアルミラさんもいっしょだったしね。



「うん。無事に帰ってきた。それで、いろいろやってきた」


「い、いろいろですか……」



 まだ前置きなのに、王子様の顔が引きつった。



「うん。えーと……」



 口を開きかけ、ふと、気づいて。

 私は髪に飾ってた白い羽根を抜いて、執務室のテーブルに置いた。

 ニワトリさんに聞かれて困る事はないかもしれないけど、エレインくんが知らずに失言しちゃったら大変だし。



「それは……」


「守護神鳥ドルドゥさんの羽根」


「……もしや、ライムングの守護神鳥をお食べに……?」



 青い顔で、おそるおそる尋ねてくるエレインくん。

 姉弟そろって私に対する謎の信頼感が発揮されてる。



「まあ、これの話はあとでする。とりあえず守護神鳥ドルドゥさんに会って、お話してきた」


「ふむ……どんなお話をしたか、伺っても?」


「いいよ。えーと、あっちは守護神竜アトランティエが死んだから、アトランティエと交わしてた盟約が無効化した。だからそっちに従う必要はないって立場だった。だから私がその盟約を引き継いだ」


「なるほど。つまり」


「ライムングは、なんの障害もなく元のままってこと」


「ありがたい! 感謝します!」



 王子様が感激してる。

 いいね! もっと褒めて褒めて!



「あと、ライムングの守護神鳥ドルドゥに宿敵が居たってのは、知ってる?」


「幻獣ガーランですね。ダウの二重山に住まい、大穀倉地帯――黄金平原を狙ってきたという」


「くわしいね?」


「これでも、元騎士ですから。ガーランの魔力に感応した魔獣を討伐したという男の武勲話も聞いたことがあります」


「うん。なら、話が早い。それ、食べた」


「……はい?」



 あ、エレインくんがぽかーんって口を開けてる。



「音に聞こえた赤の神牛ガーランを? この短期間で?」


「飛んでいけば案外早いし、けっこう強かったよ」



 その事実がもたらす影響を考えてたんだろうか。

 エレインくんは落ち着きなく手を組みかえて……口を開いた。



「……お見事、ですが」


「やっぱり周囲に影響ある?」


「ありまくりですね……悪い方向にばかりではありませんが」



 エレインくんは、ちょっと疲れた顔で笑顔を浮かべる。

 大丈夫? 水竜の甘露飲む?



「――タツキ殿が、守護神鮫アートマルグに続いて、赤の神牛ガーランをも倒した。その事実は、野心ある諸侯の心に冷水をぶっかけるには十分な出来事です。そのうえライムングまで従うとなれば……」


「エレインくんは王様になれる?」


「なれますね。もうすこし先になると思っていましたが、どうやら西部諸邦の情勢もそれを許しません。国と、この都を保つためにも――このままの勢いでいきます」


「うん。私も手伝うよ。なんでも言って」



 覚悟の定まった王子様に、私は笑顔を向ける。

 王子様は、私の積極的な言葉に、すこし驚いて。



「……ありがとうございます。タツキ殿」



 両手を組み、祈りを捧げるように、頭を下げた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ