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その49 とりあえず一件落着っぽい



「ほえー……」



 お肉を食べた幸せにひたる。

 やばい。ビーフやばい。ドラゴンもはんぱなくやばいけど、ビーフは下手に日本に比較対象があるだけに、ヤバさが際立つ。さいきょうだ。



「女神殿、タツキ殿……」



 なんだかニワトリさんが喋ってる気がするけど、耳にはいらない。聞こうという気力さえ湧かない。

 いまはただ、この幸せな感じにひたすら浸ってたい。



「女神殿! タツキ殿! なんだか顔が女神にあるまじきとろけかたしてますよ! コケッ!」



 ほえー。



「……コケーッ!!」


「――っうわ!?」



 耳が、耳がキーンってなった!



「なにするの!?」


「余が話しかけても無視するからであーる! あんまり無視すると余は寂しすぎて死んじゃいますよ! コケッ!」



 いや、そんなこと主張されても、反応に困るんだけど。



「――もとい、日も傾きはじめたのであーる! そろそろ帰らないと日が出てるうちに帰れないのであーる!」


「うそ、私そんなにぼうっとしてた?」



 たしかに、よく見れば日はかなり西に傾いてる。

 まあ、ここまでの移動、戦闘とその後始末、それから試食。費やした時間を考えれば、そりゃあ日も傾くはずだ。



「ビーフは無事回収したし、戻る……その前に」



 なんとなく、出来るイメージがあるので、試してみる。



 ――陽炎。



 を、纏うイメージ。



「おおっ!?」



 ニワトリさんが驚いてるので、出来てるっぽい。

 ……なんだか視界がゆらゆらしてるだけに見えて、私主観ではイマイチな感触だけど。



「じゃあ――炎!」



 不安だったので、炎の魔法を使ってみる。

 これまで触媒なしだと起点が作れず、自分を焼いてたんだけど、炎はちゃんとイメージした場所に巻き起こった。



「ふむ……喰うことで他者の権能を我がものとする。女神殿の権能は、もしや“食”に関係するものであるか」


「自覚とかないけど、そうなのかも」



 指摘されて、私が私でなくなった時の事を思い出す。

 あのとき、私を支配していたのは、純粋な食欲だった。

 それが原因で、こんな感じになっちゃったのかもしれない。



「と、あんまり考え込んでも仕方ないか。早く帰ろう」



 のんびり考えてると、日が暮れちゃう。

 日が暮れると、夜の空を飛ぶってのは無理だし、日が暮れても帰って来なかったら、アルミラたちが心配するだろうし。



「コケッ! 疲れてるであろう? 余が乗せて帰ろうか? であーる!」


「ありがとう! だけど、大丈夫。魔力もそこそこ回復してるし……それに、もうひとつ、試してみたいことがあるんだ」


「コケッ?」



 私の言葉に、神鳥ドルドゥは、こくりと首を傾けた。







「コケーッ!?」



 悲鳴が尾を引く。

 景色が後ろにぶっ飛んでいく。

 速い。速すぎて制御がまったく出来てない。やばい。



「ココココッ、コケーッ!?」



 私の腕の中で、ニワトリさんは悲鳴をあげっぱなしだ。


 私が試したのは、赤の神牛ガーランの奥の手。

 足に火輪を纏っての、高速の突進術。あの巨体さえ宙に浮かせるほどの推進力だ。上手く使えば超高速飛行が可能になる。そう思って試したんだけど――やばかった。


 魔法自体は完璧だ。

 わりとイメージだよりだけど、上手く行使出来てる。

 にもかかわらず飛行が制御できてないのは、ひとえにヤバすぎるスピードのせいだ。


 火輪の飛行魔法を使う時、その方が想像しやすいので、足の後ろから炎がゴーッと出てるイメージでやったんだけど、これがトンデモない加速を産んだ。


 あわてて風の結界を張って、細かい制御に風の魔法を使って、飛行は安定した。

 だけど早すぎて、とてもじゃないけど細かい操作は出来ない。まるでロケットだ。



「ギャワワワワ!?」



 ニワトリさんがニワトリらしからぬ悲鳴を上げてる。


 この速度は本当にヤバい。

 通常移動で使うには、私にもかなり負担がかかる。

 神牛がやってたみたいに、戦闘でのみ使うのがよさげだ。

 それはそれとして、今回はスピードに慣れるためにも、目的地までロケット移動です。



「さあ、もう一息、行くよニワトリさん!」


「もう少し余に手加減してくれませんかね、であーる!?」



 で。

 あっというまに蒼の都市ライムングに到着した。


 速いのはいいんだけど、速過ぎてものすごく神経をつかうね、これ。しかも魔力の消耗も激しいし。

 着地しようと思ったけど、このまま着地とか、地面にクレーターを作る未来しか見えないので、ロケット噴射を中止して、風の飛行魔法に切り替える。



「えーと、神殿は……」


「この足元あたりであーる!」



 ニワトリさんが手羽先で指し示す。

 ゆっくり高度を落としていくと、見覚えがある建物群が目に入る。

 着地点を微調整しながら、さらに高度を落としていくと、神殿の前に大勢の人が集まってるのが見えた。



「あれは……」


「どう見ても余たち待ち、であるな」



 ニワトリさんがつぶやいた。






 領主の館の裏手に建つ、神殿。

 その敷地内に集まる人々の群れを、慎重に避けながら、ゆっくりと降りていく。


 なんだかすっごい勢いで見上げられてるので、ちょっと恥ずかしい。

 女神ローブはバタバタはためいてるけど、一応中は見えないはずです。


 と、アルミラとリディを見つけた。

 あと、丸っこい太守さんと、四角いマルコイさんも。


 知り合いが固まってたので、そのそばに着地する。



「ドルドゥ様」


「おお、ドルドゥ様!」



 と、ニワトリさんに対する歓声が、まわりから湧き上がる。



「コケーッ!」



 ニワトリさんがひと鳴きすると、歓声が止んだ。

 魔法か、それとも一喝しただけか、ともかく素晴らしい。



「みなのもの、聞けい、であーる!」



 抱っこしてるニワトリさんが、群衆をゆっくりと見渡す。

 なんか威厳あるっぽい感じだ。いや、守護神鳥なんだから、実際威厳があるんだろうけど。



「――まず、神竜アトランティエ殿との盟約は、女神タツキ殿に引き継がれたことを、みなに伝える、のであーる!」



 歓声がさざめく。

 アトランティエとライムングの、守護神獣間の関係は、これまで通り、ということだ。


 これには太守をはじめ、首脳陣と思しき連中が、安堵のため息を漏らした。

 やっぱりそれが問題だったみたい。懸案事項が解決したっぽいので、あとはまあ、エレインくんと太守さんがうまく綱引きしながら話をまとめてくれるだろう。安心だ。



「つぎに、余の長の宿敵、赤の神牛ガーランは、女神タツキ殿の手で討たれた、のであーる!」



 ニワトリさんの言葉に、どよめきが走る。

 歓声と動揺が半々って感じ。まあ、百年単位でにらみ合っていた幻獣だ。

 いきなり死んだって言われても、すぐには信じられないのかもしれない。



「にわかには信じ難いであろうが、事実である! 女神タツキ殿は優れた守護神である! その女神殿が守護するアトランティエとは諍いなきよう、この守護神鳥ドルドゥはライムングの子らに願うものである!」



 ニワトリさんの声に、一同しん、と、静まりかえる。

 太守イザークさんが、みなを代表して前に出た。



「守護神鳥ドルドゥ様、それこそが、我らライムングの民が望むものであります」


「ならばよし! コッケー!」



 ニワトリさんが、気持ちよさげに鳴いた。

 まあ、なんだかんだで一件落着したっぽいのでよし。


 ……と思ったら。

 みんながこっち見てる。


 ニワトリさんじゃない。

 視線はその上、私に一点集中だ。


 あれだ。なにか一言しゃべらなきゃいけない雰囲気だ。

 こういうの苦手なんだけど、どう考えても逃げ場なんてない。なにかいいこと言って締めよう。



「……ライムングに祝福を!」



 モナリザの微笑みを浮かべて、声を上げる。

 なんだか魔力を使っちゃった実感があったけど、気にしちゃいけない。


 群衆はテンション最高潮でバンザイし始めたので、締めとしては大丈夫だったと思います。






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― 新着の感想 ―
[一言] ジッサイ、祝福を施してる可能性がある
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