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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その44 焼き鳥さんに会ってみよう


 西の館に泊まって、翌朝。

 朝を告げる鳥の声とともに、目を覚ます。なんだかすっきりだ。


 気持ちよく起きると、先に目を覚ましてたアルミラさんに服装を整えてもらう。

 訪問先なので、あんまりだらしないところは見せられないし――ねえ、アルミラさん?



「まさか寝入っちゃってたなんて……不覚でしたわ……」



 意地悪く言うと、アルミラさんの顔が真っ赤になる。

 かわいいからイジっただけで、別に責める気はないというか私もだらっとしてたい。あとアルミラさんとお風呂に入りたかった。


 そんなことを考えてると、隣の部屋からノックの音。

 リディちゃんだ。



「はーい」


「女神様、朝食の準備が出来てますけど、いつお持ちいたしましょう?」


「すぐに持ってきて!」



 頼むと、あらかじめ準備がしてあったんだろう。

 ほんとうにすぐに、リディちゃんが朝食を運んできてくれた。でも、リディちゃんはやけに疲れてる感じだ。



「どうしたの? なんだか疲れてない?」


「いえ、その、なんだか昨日はもやもやしちゃって……よくわからないけど、ぜんぜん眠れなかったんですよ。ちょっと気を張っちゃってたのかも」



 ……この娘が道を踏み外さないことを、切に祈ります。







 朝食後に、リディちゃんを通して面会の申し込みがあった。


 ライムング太守イザーク。

 四角いマルコイさんのパパで、リディちゃんのお爺さんだ。



「神様と神様のお話を邪魔する気はなくて、とりあえず挨拶だけでもさせてもらえたらってことです」



 取り次いだリディちゃんはそう説明した。

 まあ、こっちに来た目的は焼き鳥さんに会うことであって、太守さんと話をすることじゃない。

 というか政治向きの話とか、エレインくんの頭を飛び越してやりたくない。責任むっちゃ重いし。


 そのあたりは太守さんも承知してて、だから「挨拶だけ」なんだろうって思う。

 エレインくんが言ってた、古狸って評価は気にかかるけど、わりと気遣いが出来る人っぽい。



「わかった。会うからお爺さんにそう伝えて」


「はい!」



 私が言うと、太守さんに伝えるためだろう。

 リディちゃんは疲れた顔を輝かせて、部屋を出て行った。


 ほどなくして。

 リディちゃんとともに、部屋を訪れてきたのは、初老の男だった。

 クセのある白髪に、柔和な笑いじわをたたえたまる顔。丸っこい体型は、全体的に四角い息子マルコイさんとはまるで逆だ。


 というか狸だ。

 いや、体型が古狸ってオチはないだろうけど、体型も狸なのはたしかだ。

 リディちゃんがどちらにも似なくてよかった……というかひょっとして、太りやすい体質なの気にして食を絞ってる? いけませんよ! まだ小さいんだからたくさん食べなきゃ!


 なんて考えてると。



「守護女神様、はじめまして。ライムング太守イザークであります。お目にかかれて光栄であります」



 太守さんが、まるっこい体型に似合わない機敏な動きで敬礼する。

 あんまりに速かったので、隣のアルミラさんがびくってなった。猫っぽくてかわいい。



「はじめまして。アトランティエの守護女神タツキです……ええと、これ以上は私がなに言っても政治的圧力になりそうなんで、下手なことは言わない方がいいかな?」


「で、あれば、女神様と拙者が面会した、この一事のみで……もっと言えば女神様がこの地を訪れたという事実が、とんでもないメッセージであります。我々に関しては、どうかお気遣いなきよう」



 あ、そういえばそうか。

 王権と結び付いた守護神獣が、他の土地を訪れる。

 よく考えたら内向きにしろ外向きにしろ、これ以上に強いメッセージってあんまりない気がする。



「女神様、まずはお礼を。孫娘リディアに目をかけていただいて、ありがとうございます」



 太守さんが深々と頭を下げる。



「うん。リディちゃんは頑張ってくれてるよ」



 社交辞令じゃない。

 ちょっと情熱過剰だけど、リディちゃんは頑張ってると思う。すごくいい子だ。

 だからお爺ちゃんは、彼女が道を踏み外さないように、しっかり見ていてください。



「それから、ごはんも美味しかった」


「なにぶん時間がありませんでしたので、遠方より食材を調達することもかなわず、地元のもので出来る限りの用意をさせていただきましたが……気に入っていただけたなら、なによりであります」



 むしろそれがよかったのかもしれない。

 日本と比較して物流が半分死んでるこの世界で、遠くから高級食材を調達しようと思うと、どうしてもめずらしさと引き換えに、鮮度が犠牲になりそうだし。


 魔法使いなんかに頼めば、保存とかもできそうだけど、コスト激高になりそうだしね。



「そういえば、太守さん。ちょっと聞きたいんだけど、いいかな?」


「はっ、なんでありますか?」



 ふたたび、太守さんは直立不動。

 その動きは、丸っこい体型のせいで、どこかコミカルだ。



「アトランティエに使者として来たマルコイさんは、私がこのライムングに来ることを歓迎するような感じだったけど、なぜかって聞いていい?」



 尋ねると、太守さんはものすごく困った顔になった。



「……ここで誤魔化せば女神様に対して不誠実。されど真実を告げれば、守護神鳥ドルドゥ様に対して不誠実……お察しいただければ大変ありがたいであります」



 あー。

 なんとなくわかった。

 エレインくんも言ってたけど、太守さんと焼き鳥さんとの間に意見の相違があるやつだこれ。

 で、マルコイさんが、私がライムングに来ることを望んでたってことは、太守さんたちはアトランティエ側。焼き鳥さんは、その動きに反するような意志があるのかも。



「ともあれ、午後には守護神鳥ドルドゥ様とお会いいただけます。それからであれば、実のある話も出来ようかと存ずるであります」


「了解……太守さんの言うように、まずは焼き――守護神鳥ドルドゥさんに会おう」



 展開次第では、焼き鳥さんを食べられるかな、なんて期待しながら、私は心からの笑顔で言った。







 そして午後。

 私とアルミラは、リディちゃんに先導されて、守護神鳥ドルドゥの住まう神殿に向かった。


 神殿は、太守の館の裏手に存在する。

 館の敷地内を、太守たちに見送られながら、神殿の中へ。

 石造りの神殿の扉をくぐると、広間があり、そこを通り抜けると、さらに奥へと続く通路があった。



「守護神鳥ドルドゥ様はこの奥です。すみません。ドルドゥ様から人払いを申しつけられているので、あたしとアルミラ様はここで……」


「わかりましたわ。タツキさん、行ってらっしゃいまし」



 アルミラさんの、「わたくしはなにがあってもタツキさんについて行きますわ」みたいな覚悟完了な笑顔が怖い。

 さすがにあっちから喧嘩売ってこない限り、食べたりしません。たぶん。


 通路を渡り、その先にある、きんきらに装飾過多な扉を開く。


 目の前に階段があった。

 階段というか、大理石の石段か。

 けっこう急な段が、かなり高いとこまで続いてる。

 その先にある異質な気配の主が、守護神鳥ドルドゥなんだろう。


 というか、ちらっとトサカが見えてる。



 ――ちょっとネタバレしすぎじゃないですかね?



 なんて考えながら、石段を登っていく。

 だんだんと、守護神鳥の全身が見えてくる。

 そして、石段を登りきったところで、その全貌が明らかになった。


 台座にたたずむは巨大な鳥類。

 20mは越えてそうな巨体は、真っ白い羽毛に覆われている。

 長大な尾羽は、女の人の長髪を思わせる繊細さで、台座にまで流れてる。

 そして、猛禽を思わせる凛々しげな瞳と、鈍器を連想させる、尖った嘴。深紅に彩られた顔……そしてトサカ。



「……やっぱニワトリだこれ」



 白い巨体を見上げながら、思わずつぶやく。

 ちょっとまるっこくてぽわぽわだけど、まんまニワトリだ。


 私のひとりごとが耳に入ったのか。

 守護神鳥ドルドゥはカッと目を見開いて、嘴を開く。



「ニワトリではなーい! 余が蒼の都市ライムングの守護神鳥ドルドゥであーる!」



 間近に顔を寄せて、猛主張するニワトリ。

 ヒナ鳥が餌を求めるかのような、凄まじい勢いだった。






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