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その43 西の館でお泊まりしよう



 西の館は、文字通り太守の館の西にあった。

 来客用の施設なのか、人こそあんまり居ないけど、建物の立派さは、太守の館と同等だ。


 そのなかでも、案内された部屋は、ひときわ立派で、ロイヤルな雰囲気にあふれてる。



「これって王族とかそれクラスの人用の部屋なんじゃ……」


「申し訳ありません! うちではここが最上級なんです! 屋敷自体がお部屋だと思って我慢していただけたら!」


「いや、格式が低いことに文句言ってるんじゃないからね!?」



 むしろ立派すぎる。

 水の都の私の部屋とかエレインくんの部屋なんか、ここに比べたら悲しくなってくるくらいだ。エレインくんなんて執政で王子様なのに。



「えっと、それじゃあ……」


「私は部屋の広さとか立派さはあんまり気にしないよ。お風呂と美味しいご飯さえあれば、わりと満足」


「お風呂ですか……準備させますね。食事も、出来るだけのものを用意します! 他にはなにかありませんか?」



 リディちゃんが前のめりになって尋ねて来る。

 なんというか、頑張ろうって気持ちがストレートに伝わってきてほほえましい。


 というか、なんか近い。

 身長は私より拳ふたつくらい小さいので、ほとんど見上げるような感じ。



「とくにはないかな? なにか思いついたら、呼べばいい?」


「はい! あたしは隣の部屋に控えてますから、呼んでいただけたら飛んでいきます!」


「えーと、気負い過ぎじゃない? 侍女とかに任せればいいんじゃないの?」


「無理です! うちの侍女は、かなり教育が行き届いてると思うんですけど、女神様の前じゃどうしても気おくれしちゃいます! 不調法がないように、あたしがやらなきゃ!」



 やる気すごすぎだ。

 まあ、気持ちはうれしいんだけど。



「そういえば、食事ですけど、なにかお嫌いなものってありますか?」


「なんでも食べます」



 リディの問いに、私はにっこりと微笑んだ。







 夕食は、なんというか、すごかった。

 部屋のおっきなテーブルに、いろんな料理がずらり。

 豚肉と菜の炒め、魚の煮つけ、蟹の酒蒸しなどなど、量質ともに満足がいくものだ。



「もうおなかいっぱいですわ……」



 人間に戻ったアルミラさんも、満腹で早々にリタイア。

 リディちゃんもいっしょに食事に付き合ってくれたけど、細身な見かけそのままに、かなり小食だったので、テーブルの料理はすべて私が平らげた。



「……あの、料理、足りなかったでしょうか?」



 あんまり奇麗に平らげちゃったものだから、リディちゃんが不安そうに尋ねてくる。



「ううん? 満足だよ! すっごく美味しかった!」



 笑顔で応えると、彼女はほっと胸をなで下ろした。

 まだ子供なんだし、そんなに気を遣わなくてもいいのに。



「――そういえば」



 食後のお茶の時間、リディちゃんが何気なしに尋ねて来る。



「女神様って、なにが好きとかって聞いていいですか?」


「うーん……なにが好きって言われると……食べること?」



 ドラゴンの肉とか。フカヒレとか。焼き鳥とか。



「夕食もすっごくたくさん食べられましたもんね! 納得です!」



 うんうん、とうなずく金髪少女。



「じゃあ、リディはなにが好き?」


「え、あ、あたしですか? あたしは……その、かわいいものが好きなんです……」



 顔を真っ赤にしながら、リディちゃんは言う。

 そういえば出会った時もかわいいって言いながら抱きつかれた気がする。



「かわいいもの?」


「はいっ! 子猫とか、子犬とか、かわいい子供とかっ!」


「えーと、そのカテゴリに私入るの……?」



 なんか全力で主張するんだけど、なんというか、反応に困る。あとなぜか子猫なのにスルーされてるアルミラさんとか。



「いえ、女神様は違いますっ! 信じられないくらい美しくって、それでいてかわいくてらして……!」



 なんというか、夢を見るようになってる。

 こういうとき、どんな反応をすればいいのか。

 とりあえず小さな女の子が道を踏み外すような事がないように気をつけたい。



「なんだかわたくしよりお友達っぽい会話ですわ……」



 あとアルミラさん妙な拗ね方しないで。

 というか、お願いだから会話に入ってきてください会話が不穏な雰囲気になってきてるから。







 お茶の時間も終わって、お部屋でのんべんだらり。

 旅で疲れてたのか、アルミラさんは先に眠っちゃった。

 でも、猫慣れしすぎたせいか、人間形態でベッドの上で丸まってるのはどうかと思います。

 あと、とってもガードが緩いので……ありがとうございます。



「……」



 うむ。ありがとうございます。



「女神様」



 と、ドアがノックされたので、びくってなった。

 リディちゃんの声だ。すっごくびっくりした。見られてたのかと思った。



「入っていいよ」



 椅子に深めに座りなおしてから、答える。

 扉が開いて、金髪少女がそろりと入ってきた。



「女神様、お風呂の用意ができましたけれど……」


「うん。入ります。アルミラさんアルミラさん、寝てないでお風呂ですよ!」



 寝ちゃってるアルミラさんを、無理やり起こそうとする。

 でも、本気で疲れちゃってるのか、アルミラさんは起きない。悲しい。



「どうされますか? あとにされます?」


「いや、先にお風呂に入るよ。さっぱりしてから寝たいし」



 ちょっとしょんぼりしながら返事する。



「わかりました。じゃああたしがお背中をお流ししますね!」



 ……おや?







 湯気の立つお風呂。

 肩までつかると、心地よい温かさとともに、疲れが流れ落ちていく。あんまり疲れてないけど。


 そして。



「お湯加減はどうですか? お背中をお流ししましょう」



 笑顔で尋ねて来る金髪少女。

 その、幼さの残る体は、残念なことに薄い単衣で隠されてる。


 期待してたお背中流しと違う。

 というのは、残念だけど、まあいい。

 なんというか、私が見る以上にリディちゃんが私の体を見て来るので、素直に喜べないというか、なんか怖い。


 まあ、断るのもあれだし、背中を流してもらうことにする。



「女神様の肌……すごい……きれい……」



 リディさんが、私の体を洗いながら、うっとりとつぶやく。

 なんというか、これ、本当の神様だったら罰のひとつも与えていい状況じゃないかって思う。

 けど、まだ小さいんだし……いや、小さいっていってもオールオールちゃんよりはおっきいけど。



「おみ足、失礼します……」


「うん」



 まあ、視線とか表情はあれだけど、体を洗う行為自体は、すっごい誠実にやってくれてる。

 かなり心地いい感じだけど、垢とか汚れってないから、あんまり洗う意味はないのかも。気持ちいいからいいけど。


 全身くまなく洗ってもらって、もう一度湯船に浸かる。



「どうしよう……もうこの手洗えない……感触を忘れたくない……」



 リディちゃんが怖いことつぶやいてるけど、本当にどうしよう。


 とりあえず、女神様命令でむりやりいっしょにお風呂に入ったので、金髪少女の衛生問題は解決されました。



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