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その42 蒼の都の金髪少女



 水の都アトランティエを発して4日。

 昼ごはんを食べて、しばらくすると、蒼の都市ライムングの姿が見えてきた。


 大きな城壁のある、かなりの規模の都市だ。

 船が盛んに出入りしてて、栄えてるのがわかる。



「すやぁ、ですわぁ……」



 アルミラさんは、旅の疲れが出てるのか、私の膝の上で居眠り中。

 あごのところをくすぐってやると、気持ちよさそうに喉を鳴らす。長期間猫のままのせいか、完全に猫化してる。


 そうしているうちに、船は港にたどり着いた。



「船をつけるぞ―っ!」



 掛け声をかけると、わらわらと人が出て来る。

 船の人たちもきびきびと接岸作業。ちょっと膝の上に猫が居るので、動けないけどごめんなさい。


 渡し板がかけられると、とっとっと、と軽快な足音。

 そのまま船に飛びこんできたのは、金髪の女の子だった。


 年のころは、13か14くらい。

 勝気に整った顔立ちには、幼さが残ってる。

 スリムというより細っこいって感じの美少女さんだ。



「お父さまーっ! お帰りなさいっ!」



 女の子は、マルコイさんの姿を見て、飛びつくようにして体を預ける。

 マルコイさんは、女の子を優しく抱きとめて――というか娘さん!? ぜんぜん似てないんですけど!?



「おお、リディ、ただいま! なんだ、わざわざ待っていてくれたのかい?」



 マルコイさんが、女の子を抱き上げてから、そっと地面に下ろす。

 女の子はにっこにこの笑顔だ。すごくいい親子っぽい。



「ふや……なんですの?」



 さすがに、騒がしくなってきたので、アルミラが目を覚ます。



「ねえお父様、水の都アトランティエはどうでした? 都の悪い巫女様が守護神竜様をそそのかして都を滅ぼしかけたってうわさですけど」


「ぐはぁっ!? ですわ!」



 即座に断末魔の叫びを上げた。

 アルミラさん、なむなむ……というか、そのうわさ、蒼の都市まで広まってるんだ。



「リディ、そんなことを軽々しく口にするものじゃないよ。たとえ与太話の類でも、君が口に乗せて出せば、真実味を帯びてしまうんだからね」



 四角いマルコイさんは、娘さんに優しく注意する。



「えー。じゃあ都の様子はどうだった? うわさの守護女神様には会えた?」


「ああ、守護女神様なら、あちらに」


「ん?」



 と、顔を向けてきたので、モナリザの微笑をうかべながら、首を傾ける。


 女の子は、こちらを見て、驚いたように目を見開いて。



「おおおおおお……」



 ふらふらと、なにかに憑かれたように歩いてきて。



「かわいいっ!!」


「きゅっ!?」



 いきなり抱きつかれた。

 なにごと!?



「かわいい! なんなのこのひと!? 信じられない! こんなひとが実在していいの!? あたしの妄想から出てきたの!?」


「こ、これ! 女神様になんて事を……!?」



 マルコイさんがあわてて止めようとするけど、女の子は止まらない。



「女神様!? この方が女神様なの!? 素晴らしいわ素敵だわ! 水の都はこんな方を守護女神に戴いてるだなんて……はっ!?」



 と、いきなり解放される。

 女の子は三歩下がって腰を直角にして頭を下げた。



「す、すみません女神様! あ、あたし、なんて失礼を!」



 顔は真っ赤だ。

 なにこのいきものかわいい。



「いや、いいけど……」


「ふ、ふ、ふざけんなですわーっ!」



 私の言葉をさえぎるように、膝の上のアルミラさんがいきなり怒声を上げた。



「うえっ!?」



 猫がいきなり喋ったからか、それともアルミラさんの勢いに押されてか、女の子が驚いて身を庇う。



「うちのタツキさんになんて無礼を働いてくれますの!?」


「め、女神様の使い魔さん!? ご、ごめんなさいっ!」


「アルミラ、そんなに怒らなくても……」



 あわててなだめるけど、アルミラさんの怒りは収まらない。



「だいたいなんですの! タツキさんをだ、抱きしめるだなんて……破廉恥ですわ! ええ、破廉恥ですとも! 破廉恥すぎますわ!」


「……ひょっとして、うらやましいんですか?」



 アルミラさんが両手をわきわきさせながら叫ぶ様子に、女の子は首を傾ける。


 あ、アルミラさんが凍りついた。



「そ、そそそそんな、わたくしは……わたくしがタツキさんを抱きしめるだなんて……破廉恥ですわ! そんな、そんなことは、破廉恥ですわ!」



 アルミラさんの語彙が壊滅してる。


 とりあえず、収拾がつかなくなった空気をなんとかするため、冷や汗をかきながら様子を見ていたマルコイさんに顔を向ける。



「マルコイさん、この子は……」


「申し訳ありません、娘が御無礼を。私の娘、リディアでございます」



 マルコイさんは、救われたように、女の子を紹介した。



「ライムング太守イザークの嫡子マルコイの娘で、リディアと申します! どうかリディとお呼びください! それから女神様、ごめんなさいっ!」


「うん。いいよいいよ。私が水の都アトランティエの守護女神タツキで、こっちは友達のアルミラ」


「うふふふ、ですわ……」



 私が紹介すると、アルミラさんが幸せそうにトリップを始める。お願いだから帰ってきて。



「あたしなんかに、お名前を教えていただいて、ありがとうございますっ!」



 顔を紅潮させながら、頭を下げる女の子――リディちゃん。かわいいなあ。

 と、ながめていると、マルコイさんがカクリと腰を曲げた。



「女神様、本来ならば、すぐに守護神鳥ドルドゥ様にお会いいただくところではございますが……」


「うん。私がいきなり言いだした話だし、守護神鳥あっちにも話を通しとかないといけないんでしょ? 待ってるよ」


「ありがとうございます。であれば、西の館にお入りになって、しばしおくつろぎください――リディ」


「はいっ!」



 マルコイさんが声をかけると、金髪少女が元気よく声を上げる。



「西の館のことは、君に任せたい。できるね?」


「はいっ! 女神様のお世話、しっかりとやります!」



 少女はびしっ、と手を上げた。







 蒼の都市ライムング。

 アトランティエ王国の水運の要として存在する、川辺の都市。

 建ち並ぶ町並みは、雑然として色彩豊か。規模こそ水の都に劣るものの、活気は負けてない。



「蒼の都市って言うけど、蒼くないんだね?」



 小船に乗って、水路を進みながら。

 流れていく風景を見て、リディちゃんに尋ねる。



「蒼は、大河クーの蒼。それを都市の名に冠するのが、ライムングの誇りなんです!」



 金髪少女が胸を張って言った。

 うん。ユリシスの女勇者、ファビアさんの嘆きの壁に比べたら、希望はあると思います。


 水路を奥へ奥へと進んでいく。

 なんだか見物人が増えてきた気がするけど、慣れっこだ。



「リディ。この地方の料理って、どんなのがあるか知ってる?」


「え? 料理ですか? そうですね、焼き魚とか、蟹とか、いろいろありますけど……あ、そうだ」



 リディちゃんがぽん、と手を打つ。



「この都市の料理って、ちょっと変わってまして……」


「うんうん」


「ニワトリは絶対に使わないんですよ」


「……うん」



 テンションと一緒に、がっくりと肩を落とす。

 教えてくれるのはうれしいんだけど、なにを食べないかよりなにを食べれるかで語ろうよ!



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