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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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40/125

その40 蒼の都市にいってみよう



 水の都アトランティエ、川手の港。

 桟橋が並ぶ港に泊められた船の中に、奇妙な船がある。

 白く塗られた、扁平な船体。そこから伸びる、奇妙な帆は……



「――鳥の、羽……?」



 風に揺れるそれをみて、思わずつぶやく。

 通常の船であれば帆があるべき部分には、巨大な鳥の羽根が立っていた。



「あれはライムングの守護神鳥、ドルドゥ様の羽根ですよ」



 ライムングの使者、四角いマルコイさんが説明する。



「あの羽根のおかげで、風がなくとも船は大河をさかのぼれます。ライムングでも特別な船なんですよ」


「へえ……ということは、私たちはあれに乗ってライムングに行くんだね?」


「左様です」



 マルコイさんと話していると、足元のアルミラさん(猫)がぷるぷると震えだした。



「す、す、す、ステキですわーっ!」



 と、唐突に叫ぶ子猫。

 その目は、きらっきらに輝やいてる。



「――喫水の浅い河船に、優雅にはためく神鳥の羽……真っ白い羽にあわせて、船も白く塗ってあるのが美しいですわね! 船影も、あくまで優雅……素晴らしいですわ!」



 アルミラさん大興奮だ。

 そういえば、船の構造とかにくわしかったし、好きなんだろうなあ。



 ……あ、すっごい速さで船に乗り込んじゃった。



「……では、守護女神様も」


「うん。蒼の都市まで、よろしくお願いします」



 頭を下げるマルコイさんに従って、私もライムングの白い船に向かった。







 大河クー。

 西部最大の巨大河川。

 川幅は、目算でも優に1kmは越えてる。

 水は、かなり澄んでて、砂利質の川底が、よく見える。

 河の流れがゆっくりなのか、ぱっと見水が動いてるようには見えない。


 大河を、白い船はさかのぼっていく。

 風は、前から吹いてる。逆風をものともしないのは、神鳥の羽根のおかげだろう。



「大河クーの貴婦人。ライムング太守が所有するこの白船は、人々からそう呼ばれております」



 マルコイさんはそう説明してくれた。


 心地よい風に、髪がなびく。

 すれ違う無数の船を、ぼうっとながめながら、思い出す。


 出発前の、エレイン王子との会話を。



「――まず、注意を。蒼の都市ライムングは、敵ではありません」



 エレインくんは、まず最初に念押しした。

 叩き潰していい相手じゃない、ということだ。


 理由は単純。

 アトランティエとライムングは、大河クーの利権を共有している。

 おたがいがあるからこそ、この巨大河川利権を掌握していられるのだ。


 ライムングの太守は古狸とはいうけど、だからこそこの事実を、痛いほどわかってる。

 ライムングが持つ河川利権を確保するためにも、アトランティエの安定は急務であり、その点において両都市は協力できる。


 もちろん、協力の過程でいろいろと政治的な綱引きはあるんだろうけど、そのあたりはエレインくんの領分だ。


 けれど、まあそんなわけで。



「焼き鳥食べるのはムリだろうなあ……ほんのちょっとでもいいから、かじらせてくれないかなあ……」



 鳥肉だ。しかも神獣だ。

 マズイはずがないから、心底惜しいけど、仕方ない。



「まあ、まったく望みがないってわけじゃないけど……」



 守護神鳥ドルドゥに会いたい。

 私のけっこう無茶な頼みを、マルコイさんはむしろ歓迎する風だった。



「ひょっとして、守護神鳥とライムングの間に、齟齬があるのかもしれません」



 とは、王子様の言。

 アトランティエとライムングの交渉において、守護神鳥の動きに何か不穏なものがあり、それを掣肘するために、私を利用しようとしてるんじゃないか、という予想だ。



「まあ、わざわざ戦争したいわけでもなし、穏便に済むなら、それでいいんだけど」



 と、そんなことをつぶやきながら、流れていく景色をぼうっとながめていると。



「――タツキさん」



 猫のアルミラが、とことことやってきた。



「アルミラ、船の見学はもういいの?」


「はいですわ! おかげさまで思いきり楽しめましたわ!」



 アルミラが猫の姿のまま、前足をぎゅっとする。

 本当に楽しそうなので、ほほえましい。



「よかったね。ライムングまでは、船でどれくらいかかるのかな?」


「夜は船を止めますし、5日くらいの旅ですわね。この船ですと、もうすこし早いと思いますけれど」


「すると、向こうに4、5日居るとして……帰ってくるころには、フカヒレが出来てるかもしれないね」



 そう。焼き鳥がなくても、私にはフカヒレがあるのだ。

 だからがまんできるよ。がまんできます。わたしはいいこです。


 ロザンさんの料理を思い出しながら、呪文のようにつぶやく。

 フカヒレの出来上がりが、本当に待ち遠しい。







 気がつくと、いつのまにか水の都が見えなくなっていた。

 時々小さな街が見えるけど、それ以外は本当になんにもない。いや、畑とかはあるし、ときどき動物も見るんだけど……と。



「そういえばアルミラ、このあたり、魔獣とかって出ないの?」


「出なくもありませんが、多くはありませんわ。人里に出てきた魔獣の討伐は、領主の領分ですし、領主にとっても死活問題ですので、たいていは速やかに討伐されますわ」



 なるほど。



「……ゴロツキを雇って魔獣を退治させる、とかは?」


「よほど手が足りなければ、そういうこともするようですけれど……普通の人間に、魔獣退治は手に余りますわ」



 うーん。なかなか厳しい。



「ただ、勇者や魔法使い……魔力の素養を持つ人が、魔獣退治を請け負う稼業につくこともあるようですけれど」


「ああ、そういうのもあるんだね。あと、ほかに戦力というと……騎士団が魔獣討伐を請け負うことは?」


「それも騎士団の主たる任務、ですわ」


「……つまり、守護神竜アトランティエによって半壊したいまの騎士団じゃ、満足に魔獣討伐出来てない?」


「ですわね。ただし、陸運、水運の保護は、国の威信にも関わる問題ですし、エレインも最優先で取り組んでいるはずですが」


「なるほど」



 なかなか頭の痛い問題っぽい。

 エレインくんが満足に寝れないはずだ。



「となると、さっきからこの船についてきてるあれも、魔獣って可能性、あったりする?」



 私は、岸を指さしながら、問いかける。

 巨大な真っ黒い豚が、「ぶもー!」と川岸を爆走していた。





物語が進み、すこし世界が広がりましたので、新たな地図を用意しました!


大陸西端部


挿絵(By みてみん)


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