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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その39 ま四角なのにまるっこい



 翌日。

 王子様から、政務の同席を求められた。

 わりと急いだ感じで、この慌ただしさはひさしぶりだ。



「すこし、すこしお待ちを、ですわ! お衣装を整えますので!」



 公務の場に出るので、アルミラさんが張り切ってしまった。

 しばらく子猫形態のままで居ると言ってたことも忘れて、人間に戻って着付けをしてくれる。


 それから、しばらくして。

 満足げなアルミラさんに見送られて、私は応接の広間に向かった。



「いつもの執務室じゃないの?」


「はい。女神様。本日は遠方よりの来客ということで、殿下は応接の間にてお会いになられるということです」



 案内してくれた執事さんに尋ねたら、そんな答えが返ってきた。


 広間に入ると、両脇に6人ほどが並んでる。

 全員が、アトランティエの要職にある人たちだ。

 まあ、旧重臣の方々が死んだために、新しくその地位についた新人ぞろいなので、あか抜けなさを感じるのは御愛嬌。

 でも、完全に傾いてたアトランティエを支えてる人たちなので、5年も頑張ればみんな貫録つくと思う。まだ若い人も多いし。



「お呼び立てして申し訳ありません。タツキ殿」



 笑顔で迎えたのは、奥にでん、と座る、最年少っぽい金髪美青年、エレイン王子だ。

 14歳だし年齢的には美少年だけど、すくすく育ってて子供には見えない。



「うん。今日は物々しいね。誰と会うの? 遠くから来るって話だけど」



 微妙に拝みつつ、挨拶してくる偉いさんがたにうなずきながら、王子様に尋ねる。

 エレインくんは、真面目な表情で答えた。



「蒼の都市ライムング。アトランティエを支える最重要都市からの使者ですよ」







「蒼の都市、ライムング……」



 つい先日、聞いた名前だ。



「ライムングは、大河クーの上流にある都市の名です」



 わからないと思ったのか、エレインくんが説明してくれる。内容は、アルミラさんが言ったのとおなじだ。


 あらためて、考える。

 水の都アトランティエのそばを流れる、大河クー。

 アトランティエは、そこに面する港を持っている……ってことは。


 私が顔を向けると、察したんだろう。

 エレインくんは、静かに首を上下させた。



「アトランティエ王国が大河クーを握っていられるのは、河口をアトランティエ、上流をライムングが押さえているからです――つまりライムングは、水の都の河川利権の要、なのですよ」


「なるほど……そこを押さえてる諸侯が、使者を寄越してきた、と」


「その通りです」



 エレインくんがうなずく。

 うん。思ったより重要な案件だ。



「アトランティエ王国の盟下にはありますが……ライムングの太守は古狸といううわさです。そんな男が、この時期に送ってくる使者。なかなか怖いですよ」


「うわぁ……」



 話に聞くだけで逃げたくなる。

 まあ、私に出来るのは「エレインくん頑張って」と心の中で声援を送るくらいだけど。



「と、うわさをすれば……来たようです」


「とと」



 あわてて姿勢を正す。私はファラオ……


 直後、部屋に入ってきたのは、四角い男だった。


 四角い。

 固太りで寸詰まり、いかり肩。

 とっても角ばった体に、四角い顔が乗っている。髪型のせいか、見事な四角顔だ。



「蒼の都市ライムング太守、イザークが長子、マルコイと申します。エレイン殿下、お初にお目にかかります」



 ――四角いのに丸いの!?



 心の中で突っ込んだけど、口に出すのは自重。

 でもヤバイ。ツボに入った。笑いそう……モナリザ、モナリザの微笑みというところでいかがでしょうか!?


 マルコイさんが、けげんな表情でこっち見てるけど、気にしないでください。私はただのファラオなので。



「これは、マルコイ殿、水の都へよくぞ参ってくれた。執政エレインだ。そして――」



 ちょっとエレインくんこっち見ないで!



「こちらが、我らが盟を交わしし女神タツキ殿である」



 ちなみに盟を交わしたってのは、水竜貰うかわりに水の都を守るってあれだ。


 四角いマルコイさんがこっちを向く。

 悪いけどこっち見ないで、いまツボに入っちゃってるから!



「人の姿をした、幻獣……うわさは耳に入っておりましたが……タツキ様、マルコイでございます。どうぞお見知り置きを」



 四角いマルコイさんがつぶやく。

 わりと素直に信じてるのは、本当に素直なのか、それとも慎重に下調べした結果か。



「はい、よろしく」



 考えても仕方ないので、ニコッと笑う。

 やめて、ちょっと赤くなるのやめてまた変な笑いが出てくるから。


 私の紹介の後、水の都の偉いさんがたが、それぞれ挨拶をして、話は始まった。


 そのやりとりを聞きながら、考える。

 四角いマルコイさんも、さすがライムングの使者だ。

 人当たりやわらかながら、なかなか厳しいことを主張してくる。



「エレイン王子の執政としての手腕、また女神様の実力は、素晴らしいものです。ですが、王不在の状況を、いつまでも続けていられません」


「そのとおりだ。ボクも早いうちに、玉座に座ろうと考えている」


「しかし、無礼を承知で言わせていただきますが、エレイン王子は庶子、加えて水の都アトランティエの象徴ともいえる守護神竜は失われました。王位につくのは結構。ライムングも後押しをいたします。ですが、王との関わり方、盟に関しては、形を変える必要があるのでは?」



 どうやらこのあたりが、ライムングが求める所っぽかった。

 王を首座に置き、その盟下に諸侯が収まる。だけど、力関係を諸侯――いや、ライムングにとって有利なものにしたいというところだ。



「そうは思わない」



 エレインくんは強気だ。



「アトランティエ王国の守護神竜アトランティエ、ユリシス王国の守護神鮫アートマルグ。すでにふたりの幻獣が滅びた。アトランティエは動揺し、ユリシスの力は大きく減じられている。このうえ我が国の王権を揺るがせば、西部の騒乱は、混迷を深めることになるだろう」



 乱世になるからむしろ強力な王権が居る、って主張だ。

 でも、マルコイさんも譲らない。



「で、あれば、ライムングは神鳥ドルドゥを頂いております。守護神竜様亡き今、古き盟約を頂くドルドゥ様を前に押し出してこそ、諸侯も纏まるのでは?」



 鳥が居るのか。おぼえた。

 ぎらりんと目を輝かせて、いまの情報を心に刻み込む。

 そして、抗弁しようとしたエレインくんを制止して、前に出る。チャンスだ。



「――それは、アトランティエの神は私じゃ頼りないってこと?」


「女神様、いえ、そんな、めっそうもない」



 アウェーなので、マルコイさんも、強くは出れないみたい。

 もっと強く出てくれた方がやりやすいんだけどなあ。と、そんなことを考えながら、私は提案する。



「なら、実際会って試してみようか? 私が焼き鳥――じゃない、神鳥ドルドゥに認められれば、ライムングの太守も文句言わないよね?」


「タツキ殿、穏便に……盟下にある都市の守護神獣なんですから、食べたりしないでくださいね」



 エレインくんが冷や汗をかきながら、小声で釘をさす。



「……かじるくらいならいい? ちょっと味見するだけだから」



 あ、エレインくんが頭を抱えた。



「……えーと、我が盟約の女神様は、こんな人なのだが」


「女神様とて、なにも戦いをお望みではありますまい。女神様、むしろこちらからお願いしたい。よろしければ、一度ドルドゥ様にお会いになって下さいませんか?」



 ……ふむ?

 相手の意図は、あとでエレインくんに聞くとして。


 考えながら顔を向ける。

 王子様は、こくりとうなずいた。

 ゴーサインが出たので、私は四角いマルコイさんに笑顔で言った。



「かじってもいいですか?」


「やめてください」



 わりと真剣な声で止められた。





 

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