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その38 空の上からみてみよう


「あーとー二週間とちょっとでフカヒレー。待ち遠しいなーフカヒレー」



 くるくる回るよ!

 くるくるー。と、日課の火の魔法練習から帰りながら、空中でくるくる踊る。

 火の魔法と違って、水や風の魔法はすこぶる快調だ。火の魔法を練習し始めてから、むしろこっちのほうが上達したまである。魔力の精密制御+属性持ち補正=無敵って感じで。



「ただいまー」


「お帰りなさいまし」



 と、開けていた窓から自室に入り、着地すると、アルミラさんが出迎えてくれた。

 でも、なぜか子猫形態だ。



「……なんで猫?」



 問いかけると、なぜかぷるぷる震えだすアルミラさん。



「昨日の偽物騒動のせいですわーっ! あんなことになってしまって、わたくし屋敷の皆様にどんな顔して会えばいいんですの!? ムリですわ! しばらくこの姿で引きこもってますわ!」



 涙目で主張するアルミラさん。

 まあ、アルミラさんフィギュアを取り押さえる過程で、いろいろあったので、仕方ない。


 昨日のフィギュアさんおおあばれ事件は、本当にひどかった。本当にすみません。でも半分くらいはアルミラさんの自爆なんですよ。


 ともあれ、朝食にすることにする。

 アルミラは子猫のまま、テーブルの下で、もふもふとパンをかじってる。

 なんというか、アルミラが人間形態で居られる範囲が、だんだん狭まってる気がする。



「だいたい……タツキさんのわたくしに対するイメージは、ちょっとアレすぎると思うんですの!」



 食事を終えて。

 アルミラさんは机の下から抗議活動を行う。

 アルミラさんフィギュアの行動は、私のイメージが反映されたもので、それがあんな行動とっちゃったのだから、まあしかたない。



「でも、私のアルミラさんに対するイメージってそんなにアレかな……?」



 あらためて考えてみる。


 まず子猫だ。



「猫だって顔してますわ……」



 即座に言い当てられる。



「……アルミラ、読心術使えるの……?」


「タツキさんがわかりやすすぎるんですわ!」



 驚愕してると、アルミラさんに全力で突っ込まれた。



「あとは、お嬢様……みたいな物腰してるけど、かなりやんちゃで、しかもいろんな意味で好奇心強くてたゆん」


「たゆん……?」



 おっと。



「それから……耳年増だよね。というかえっちなネタに過剰反応するよね?」


「――っ!? ノーコメント! ノーコメントですわ!」


「あと、わりと第二の人生楽しんでる感」


「すっごく理解がされてて、うれしいやらはずかしいやらですわ!」



 ついにアルミラさんがギブアップする。

 よしよし。



「それらが反映されてデフォルメされてアルミラさんフィギュアになっちゃいました」


「――っ! そ、それにしてはあまりに破廉恥ですわ! わたくしはあんなに破廉恥じゃありませんわ!」


「それはきっと、私の心の中の、そうだったらいいなーって思いが反映されただけかと」


「タツキさんはわたくしをどうしたいんですの!?」


「いや、いまのままでけっこう満足なんだけどね」


「わたくしもですけれど!」



 なんだかよくわからないけど、ここは仲良しの握手していい場面な気がする。

 私が手を差し出すと、アルミラさんが、そっと前足を乗せる。


 ……お手だこれ。







 朝食後。

 どうせアルミラさんはどこにいても猫形態なんだし、昨日のことがあって気まずいので、私はアルミラさんといっしょに、空の旅に出ることにした。



「それってきっと素敵だと思いますわ!」



 ノリノリなアルミラさんを抱えて、空に向けて舞い上がる。

 普段はそんなに高く飛ばないけど、今日は観光なので、思いっきり高く飛んでみる。



「ふわわ、高いですわ!」



 手の中のもふもふが歓声を上げた、



「おおー、すごい」



 地上から見るのもいいけど、空からだと水の都の街並みが一望できる。


 田畑や小さな町が広がる、広大な平野。

 その、はるか彼方から流れて来る、大河クー。

 自然のものとは思えない、波消しの島に蓋をされた、半円形の港湾。

 そこに建ち並ぶ倉庫や街並み。二重の壁の真ん中部分がきれいにサラ地なのは、少し物足りなさを感じるけれど。



「これが、アトランティエなんだね」


「ええ。守護神竜アトランティエと、その巫女様が中心となって造りあげられた、水の都アトランティエ。わたくしの大好きな故郷ですわ!」



 手の中のアルミラが、目を細めながら声を上げた。


 足元を見る。

 チンピラのホルクさんや、場末の宿の渋い店主さん、陋巷の幼女オールオールちゃんの居る下町。

 海手の港では、きっと野生のアニキやその弟分、それに屋台のおじさんたちが頑張ってることだろう。

 そして壁の中には、いろいろとお世話になった宿屋のおばちゃんや、マッド料理人ロザンさんが居る。

 さらに内側、城壁の中の屋敷のひとつが、私が住んでる場所であり、そこにはアルミラの弟分、金髪美形の王子様、苦労人なエレインくんが政務をとってる。


 この街は、私にとっても、すごく大事なものなんだって、心から思う。

 だから、素直に口に出して伝えた。



「私もこの街のこと、大好きだよ」







 それから、船が港に出入りする風景なんかを楽しんでいると、あっという間に時間が過ぎた。

 日は高く昇ってて、もうすぐ昼って感じ。そろそろ戻ろうか、と、思いついて、ゆっくりと高度を下ろしていく。



「――ん?」



 と、妙なものを見つけて、目を凝らす。

 大河クーの上流、どこかの街に、真っ白い船が泊まってる。

 かなり遠いし、停泊してるから、どっちに行こうとしてるのかはわからないけど、へんてこな船だ。帆なんかも、真っ当な感じには見えないし。



「どうしましたの?」


「いや、上流のほうに変な船が……って、アルミラには見えないか」



 変な船、って言葉を聞いて、アルミラは耳をぴくりとさせる。



「変な? どのような船ですの?」


「えーと、船体が真っ白で、妙に平たい感じで、帆が普通のとは違う……ごめん、いまいち伝わらないよね」



 私に知識がないから、微妙に説明しにくい。

 でも、私のそんな説明に、アルミラはこともなげにうなずいた。



「ああ、では、それはきっと、ライムングの船ですわ」


「ライムング?」



 オウム返しに尋ねる。

 聞き覚えのない言葉だ。


 アルミラは、ぴこぴこと尻尾を振りながら、うなずいた。



「ええ。蒼の都市ライムング。大河クーの上流に位置する、アトランティエ王国の――重要都市ですわ」




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