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その36 幼女先生に教えてもらおう



 なんというか、守護神竜アトランティエの悲しい黒歴史が掘り起こされちゃったことはさておき。


 そういえば、と、思考の逃避過程で思い出す。

 オールオールちゃんに、非常に大事な用事があったのだ。



「ねえ、オールオールちゃん――ちゃんじゃないや、さん」


「……あたしのことを、いったい心の中でなんて思ってるんだい?」



 非常に納得いかなそうな表情だけど、納得してください。



「私に炎の魔法、教えてくれない? 水竜とか料理できるヤツ。報酬は化物ザメアートマルグの歯で」


「よしきたまかせておきな!」



 すがすがしいほどの即答だった。







「――さっきも言ったように、魔法は魔力を介して思いを成す、その法だよ」



 オールオール先生の講義は、その場で始まった。

 私はあわてて背筋をぴんと伸ばす。アルミラも右に倣った。

 クレイジーコックはマイペースに怪物ザメを解体してるし、ファビアさんはそっちを見てるので、生徒は二人って感じだ。いや、アルミラさんもどっちかというと先生側なんだけど。



「だが、無から想像する、というのは、かなり熟練が必要だ。とくに、お前さんのような強い魔力を持ってると、ね」



 言いながら、オールオールちゃんは懐から灯明を取り出した。

 いまどうやったんだろう? まあ、どう考えても魔法なんだけど。


 ともあれ、私の目の前に、灯明が置かれた。



「――火よ、灯れ」



 銀髪幼女の言葉に、応じるように。


 燈心に、火が着く。

 受け皿に満たされた油が、日の光を照り返して光ってる。

 火自体はあんまり目立ってない。ぼんやりと光ってて、文字通り昼間の行燈だ。



「おお! この火を使って何かすればいいの? もえさかれー! とか?」


「ちょっとお待ち! あんたに遠慮なく力を使われちゃ、灯明が一瞬で燃え尽きちまうよ!」



 全力で止めにかかるオールオールちゃん。

 まあそうなるよね。


 それから、銀髪幼女は全力全開、って感じで灯明に魔法をかける。言葉の内容的に耐火魔法っぽい。



「魔法は縁を通じて行うと、格段に行使しやすくなる。あんたが水や風の魔法を、さしたる練習もなしに使えるのは、水の性質を持つ水竜、そして風の性質を持つ風竜の魔力を持ってるからさ」


「うん。それはアルミラから聞いた。でも、火とは縁がないから、触媒として灯明の火を使う。そういうことだね?」


「ああ、その通りだよ。じゃあ実際やってみようかね」


「了解!」



 と、気合を入れて。

 火をじっと見つめる。

 風にゆられてゆらゆらと揺れる灯明。



 ――風、じゃま。



 と、魔力を意識しながら思ったのが悪かったのか、ぴたりと風が止んだ。



「野良神様よ……」


「ごめんなさい」



 銀髪幼女のジト目が痛い。

 雑念を払いのけて、もう一回。


 火に、集中して。

 魔力は、最大限に絞る。



「――火よ、燃え上がれ」



 灯明の火が、三倍ほどに膨れ上がった。



「おお、やった!」



 自分を燃やしてないし、ちゃんと火を制御できてる。

 これはかなりの快挙っぽい。触媒の火がなかったら、火点を調整できる気がしないけど。



「じゃあ、次だよ。魔力をゆっくり大きくしてごらん」



 水の魔法の練習でもやったやつだ。

 練習方法は、どんな属性でもそんなに変わらないのかも。


 威力を、上げる。

 じりじりと、じわじわと。

 炎が、急にデカくなったり暴れたりする。

 まあ一応、総体としては制御できてる範囲内に入るんじゃないだろうか。



「暴れ馬みたいな魔力のせいか、安定しないね」



 やっぱりそうですか。

 なんというか、ムンクみたいな揺れ方してるもんね。


 なんて思ってたら、炎がムンクの形になった。

 なにこれ不気味。



「ひっ!?」



 と、アルミラとか、ファビアさんが無駄に精神ダメージ負ってる気がする。ごめんなさい。

 そういえばロザンさんは延々とこっちになんて気にせず作業してる。すごい集中力だ。


 と、雑念はさておき、火に集中する。

 イメージで形を変えれるのなら、あれだ。いろいろロマン的なことが出来る。



「火よ、小さくなって……」



 魔力を絞りながら、私はドラゴンをイメージする。


 小さな、ドラゴンの形をした炎が生まれた。



「おお!」



 と、オールオールちゃんが歓声を上げる。

 炎のドラゴンを、ぴょこぴょこと動かす。



 ――おいしそう。



 じゅるり。

 イメージした瞬間、炎は制御を失って垂直に燃え上がり、そして消えた。全力で逃げてったようにも見えるから不思議だ。



「……うーん。どうもドラゴンだと食欲が混じって来ちゃうな」


「さらっと恐ろしいことを言ってるね……」



 まあ、私もアレなこと言ってる自覚はある。

 でも、イメージが重要ってわかったから、ちょっと試してみたいことが出来た。


 さっきまでやってたのは、あくまで炎を広げたり大きくしたりすること。

 ドラゴンステーキを作るには、温度を上げなきゃいけない。

 温度を上げようと思ったら……完全燃焼とか?


 あれだ。ガスコンロとかの火。

 ああいう青い炎って、赤い火より高温だったはずだ。



 ――青い炎。より高温の炎。もっともっと、ドラゴンを焼けるくらいに。



 集中し、魔力を絞って、命じる。



「――炎よ、燃えろ」



 炎が、変わった。

 燈心から吹きあがる炎は、青く長く尾を引き、冴えた輝きを放ち始め――あ、消えちゃった。


 普通の炎より、格段に制御がしにくい感じだ。

 たぶんろうそくの火とは質が違うから、イメージに頼る部分が大きいんだろう。



「ふむ、なにをしたんだい?」


「ろうそくの芯、石窯のおき火……より熱い炎は、青みを帯びる。それをイメージしたんだけど」


「驚いたね。あっさりと“青の炎”まで進むなんて……いや、知識の違いゆえ、かね。違う発想からそこに到達したってのは、ちょっと面白いね」



 口ぶりからすれば、こういう魔法はもうあるみたい。



「でも、制御がかなり難しい。要練習だよね、これ?」


「そうだね。しばらくは重点的に火の魔法の練習をするといい。あと、触媒なしに“青の炎”は止めなよ? あんたの魔力で、制御に失敗して暴発すれば、風竜の衣でもひとたまりもないからね。いや、あんた自身すら、火傷しかねない」



 風竜の衣より丈夫なんだ、私。

 というのはさておいて。私でも火傷するってことは、ドラゴンだって炙れるかもしれない。

 練習はこの方向でいいだろう。いや、この練習しかしたくない。一日も早くドラゴンステーキを食べなくちゃ!

! テンションあがってきた!


 そのためには、単純な火力だけじゃ足りない。

 必要なのは、繊細な火加減ができる制御能力だ。

 ぶっぱなすだけと料理に使えるまでに魔法に習熟するのは、難度が格段に違う。

 一朝一夕にはどうにもならないのは当たり前だから、ただひたすら反復練習するしかない。

 望む領域にまで到達するにはどれくらい時間がかかるか。ひょっとして火竜とか火の幻獣を狩って食べて火の魔力を手に入れた方が早いかもしれないけど、あきらめない。

 私はこの戦いに勝利して、ドラゴンステーキを手に入れるのだ。勝利ニケのポーズ!


 ……なんだかみんながかわいそうな目で見てる気がするけど、私は元気です。





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