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その31 いろいろと回収してみる



 港で、大の字で横たわること、しばし。



「……あー、アルミラのこと、忘れてた」



 思いだして、つぶやいた。

 魔力の使い過ぎか、むちゃくちゃダルイけど、放ってはおけない。

 これだけの騒ぎを起こしちゃったんだから、アルミラも心配してくれてるだろうし。


 しかし動くのもしんどい。

 とてもじゃないけど飛んで行けそうにない、と思ってると、思いついた。



「水竜の甘露。あれ、疲労とか怪我の回復の効果があるっぽいし、試してみよう」



 ネックレスを口元に押しつけ、甘露を出す。

 こくり、こくりと飲み下すと、体がスッと楽になる。

 それだけじゃない。すこしだけ体に力が――魔力が戻って来たのを感じる。



「よし!」



 と、身を起こす。

 あたりを見れば、アニキをはじめ、港の人々が、私と開きになった怪物ザメを見てぽかーんってなってる。



「えーと、アニキ」


「……お、おお」



 声をかけると、アニキが応じる。

 さすがにアニキはまともに受け答え出来そうだ。



「あのサメ、すぐに回収するから、もう船を出しても大丈夫だから、船主さんたちにそう言っといて」


「ああ、わかったぜ」



 必要なことだけ言い残して――飛ぶ。



「おおおおっ!?」



 アニキの驚きの声は、あっという間に聞こえなくなる。


 そのまま、怪物サメのところへ飛ぶ。

 真っ二つになった怪物ザメは、切断面を上にして、ぷかぷかと海面に浮いている。



「おお、みごとに開きになってる」



 歓声を上げて、近づいていく。

 怪物ザメのサイズは、守護神竜アトランティエの倍近い。

 だけど、たぶん魔力とかは劣ってる。竜とサメだし。あと手ごたえ的にもそんな感じだった。



「じゃあ、回収だ……さあ、サメさんサメさん、この中に入って……」



 魔力を意識して、訴えかける。

 全長50メートル近いサメの開きは、みるみる縮んでいき、ネックレスの中に吸い込まれた。

 ついでに、あたりに広がってる怪物サメの血も回収する。ひょっとして美味しいかもしれないし。


 でも、このネックレスの中身って、いったいどうなってるんだろう。

 水竜やらサメやら、その血やらで、いろいろカオスな感じにごっちゃごちゃだけど。



「……と、それよりアルミラアルミラ。どっちの方角だったっけ?」



 我に返って、見回す。

 竜帆船のサイズは十メートル。

 それなりに大きいけど、水竜の皮を使ってるから、青い。

 帆だって薄緑色の風竜の翼だ。海と同化してすっごく見えにくい。



「うーん。これ、見つかるのかな? あー、携帯があったらなあ……だったら、アルミラに話して、港に帰ってきてもらえば済むのに」



 文明の利器を恋しく思いつつ、竜帆船を探して回る。

 すると、白い帆を持つ巨大な船が目にとまった。



「――と、あれは」



 見覚えがある。ユリシス王国の軍船だ。

 舳先がぶっこわれてて、ちょっと傾いてるけど、なんとか無事っぽい感じだ。



「どうしよう……捕まえるか、放っておくか……」



 なんとなく見られてる気がするので、バタバタはためく貫頭衣の裾を押さえながら、考える。


 こいつらを捕まえれば、外交交渉なんかは上手くいく……んだろうか。

 なんというか、いまの水の都って、他国とのパイプなんかも潰れてるだろうし、そんなとこにこんなの拾ってきても、扱いかねる案件な気がする。


 それに、守護神鮫アートマルグが死んだ。

 ユリシス王国の偉い人たちも、言葉だけでその事実を信じられるはずがない。

 帰りついた彼らが派手に喧伝してくれるなら、別にほっといてもいいかって思う。



「あ、でも……」



 と、思いつく。

 あの美少女勇者ファビアさん。あの子だけは持って帰ろう。

 けっこう要人っぽいし、かなりの戦力だ。わざわざ戻してやることもないだろう。


 思い立って、すぐに行動に移す。

 空中を軽やかに滑って、船の上へ。

 見回すと、最初の振動の吐息で気絶してた人たちも、だいぶ復活してるっぽい。



「――っ貴様!?」



 勇者ファビアが身構える。

 他の人たちも戦闘体勢……だけど、だいぶ腰が引けてる。



「貴様、アートマルグ様はどうした!?」


「真っ二つ」



 素直に答えると、兵士たちに動揺が走る。



「馬鹿なことを……人間が幻獣に勝ったとでもいうのか……?」



 いや、私が人間かどうかってのは、かなり意見が分かれるとこだと思うけど。

 まあ、直に倒すとこ見てないんじゃ信じられないかもしれないなあ。

 やっぱり、兵士たちは国に帰した方が、いろいろとはかどりそう。



「証拠、見せる?」



 私は笑顔で、ネックレスを手に取る。



「――出てきて。守護神鮫アートマルグのお肉」



 言葉に、応えて。

 海中に、怪物ザメの開きがふたつ、浮かんだ。


 おそろしいまでの沈黙が、船上を支配した。

 なんというか、国が滅んだ、みたいな絶望の表情だ。

 まあ、実際守護神獣って国に等しい存在なんだろうけど……と、水の都の大惨事を思い出しながら、考える。



「わたしたちを……どうするつもりだ……」



 蒼白の表情で、ファビアがかろうじて問いかけてきた。



「キミだけ捕虜にする。あとの人は帰っていいよ……一応言っとくけど、交渉の余地はないから」



 にこりと微笑む。

 というか、交渉の駆け引きとか苦手です。



「……わかった。この身はなんなりと。そのかわり、仲間たちは無事に帰してくれ。約束を、お願いする」


「わかった。約束したよ」



 答えると、ファビアはほっとした様子。


 うーん。オールオールちゃんもそんな感じだったし、神竜アトランティエも契約にこだわってたけど、ひょっとして幻獣って、契約とか約束に縛られたりするんだろうか?


 まあ、いまはそんなこと相手に聞いても仕方ない。

 むしろヤブヘビになりかねないから、またアルミラに聞こう……と、いい加減アルミラを探さなきゃ。



「じゃあ、しばらくここに閉じ込めるよ」



 私は怪物ザメの死体と、それに続いてファビアを、ネックレスに回収する。

 息とかできるのか心配になったから、念のため、一度出して、無事そうだったので、あらためてファビアさんを閉じ込める。



「じゃあ、国の偉いさんたちによろしくね?」



 最後に、残った兵士たちに微笑みかけて、私は船から飛び立った。


 それから、小一時間ほどかけて、やっと竜帆船を発見したので、そこでアルミラと合流して港に戻った。


 事態を把握してなかったアルミラに、道すがら説明をすると、なんだか思いきり頭を抱えてたけど、文句は開きになったサメに言ってください。





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