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その29 敵が攻めて来てたっぽい



「誰だ貴様は!? この船をユリシス王国の軍船と知っての狼藉か!?」



 兵士っぽい人が、剣を手に怒鳴りつけて来る。

 なんだかいきなり茹だってて意味不明です。


 というか。



「ユリシス王国?」


「貴様、さてはアトランティエの者かっ!?」



 尋ねると、いきなり襲いかかって来た。

 よくわからないけど、剣を振り下ろしてきたので、手の甲で払う。


 ぱきん、と乾いた音。

 折れた剣先は海の彼方へ。


 うん、なんだか空気が凍った。

 切りつけてきた人は、唖然呆然。完全に固まっちゃってる。



「えーと……とりあえず、“わーっ”!」



 と、振動の吐息ブレスを放つ。

 あとの展開見えてたし、一斉に襲って来られると怖いし。


 吐息ブレスを食らって、甲板の上にいた連中は一斉にぶっ倒れた。



「よし、手加減バッチリ。気絶で済んでる……と」


「う……う……」



 おお、何人かは意識があるっぽい。

 さすが兵士だ。ただの荷役夫とかとは違う。


 そして。



「――貴様、何者だ」



 私の攻撃にも、元気いっぱい、平気そうな女の子が一人。







 年のころは十七、八か。

 麦わらみたいなボサボサの金髪に、空色の瞳。

 不思議な色の直刀を手に、皮の鎧に身を包んだ凛々しい美少女戦士。



「ちょっとだけ、強い?」


「――貴様」



 女の子が目を細める。

 どうも冗談が通じないっぽいので、真面目に名乗る。



「私はタツキ。アトランティエから来た。あなたは?」


「ファビア・マクシムス。ユリシス王国騎士にして……勇者だ!」



 女の子――ファビアは名乗った。



「勇者? 勇者ってなに?」


「……冗談を言ってるようには聞こえんな。教えてやろう」



 なぜだかため息をついてから、ファビアは二度、三度、剣を素振りする。

 おや、なんだか剣に魔力が集まってる気が。



「幻獣種の力を持つ者。その中でも、武器をとっての戦いを業とする――それが、勇者だっ!」



 ファビアが剣を振う。

 その剣先から、水が――いや、水の刃が迸る。やば。


 とっさに跳びあがる。

 間一髪、水の刃が足元を過ぎてく。

 さすがに大けがはしないだろうけど、喰らうと痛そうだった。形状的にも。



「――その身体能力……貴様、アトランティエの勇者か」


「まあ、似たようなものだけど」



 ファビアの問いに、ほほをかきながら答える。

 実際、女神だの野良神だの言われてるけど、カテゴリとしては超強い勇者とか魔法使いになるのかもしれない。



「ならば捕まえて、水の都の内情を吐かせてやる!」


「いや、それ無理」



 斬りかかってくるファビアの剣を、力を込めて振り払う。

 今度は音もしなかった。ファビアの、素材不明な直刀の半ばが、一瞬にして消失した。



「ば、馬鹿な……神器を素手で砕いた……だと?」


「殺さないよう手加減した剣じゃ、私を傷つけられないよ」


「……貴様は」


「キミにもわかりやすいように言うとね――私は、水の都の新しい守護神獣だよ」



 微笑んで、地を蹴る。

 バキ、と音がして甲板が砕ける。

 その音を、追い越して。私はファビアに肉薄する。



「――!?」



 彼女が身構えるより早く、拳を送る。

 体に突き刺さった拳は、皮の鎧を破り――やば、手加減手加減。拳を引く。



「くはっ!?」



 よし。悶絶してその場で崩れ落ちたけど、気絶してないし死んでない。セーフセーフ。



「よしよし、おーい、喋れる?」


「き、貴様……」


「うん、喋れるね。じゃあ、話を聞かせてくれるかな?」



 私は彼女たちがやって来た事情を尋ねる。

 軍を整えて攻めてきた、ってのは、なんとなくわかるけど、理由とかを聞いといた方がいいだろうし。



「誰が――」


「キミが喋らなくても無駄だよ? 他に聞く人には事欠かないし。一人目のキミが喋っとくのがお得でおすすめだよ?」



 当たり前だけど非協力的だったので、脅してみる。

 暗に、死ぬまで痛めつけて吐かせるってほのめかしたけど、やる勇気はないので、お願いだから折れてください。


 しばし、じーっと見つめる。

 間が持たなかったので、モナリザの頬笑み。

 特に意味はなかったけど、それが怖かったんだろうか。



「……わかった。話す」



 ファビアが、がくりとうなだれた。

 折れてくれた。ほっ。







 事情を聞いて、いろいろとわかった。


 ユリシス王国ってのは、水の都アトランティエと並び称される、大陸西部第二の港湾都市を擁する強国だ。


 攻めてきた理由は単純。

 水の都崩壊の第一報を聞き、この好機にアトランティエを占拠して、名実ともに西海の覇者となるため、らしい。



「なるほど」



 まあ、納得だ。

 都の崩壊を聞いてから軍を整えたにしては、妙に早い気もするけど、不自然てほどじゃないだろう。


 でも、ちょっと疑問もある。



「こんな人数で水の都の征服、できると思ったの?」



 やたらと大きな船だけど、乗ってるのはせいぜい200ほどだろう。戦闘員だけならもっと少ない。

 水の都の人口は、軽く万を越えてるっぽいので、この数で占領ってのは、ちょっとムリ目だと思う。


 ど素人の私がそう思うくらいだ。

 ユリシス王国の偉いさんだって、わかってないはず、ないんだけど。



「それは……」



 と、言いさして、ファビアは言葉を止めた。


 理由は、私も理解した。

 船を包む空気が、あきらかに変わった。


 そして、次の瞬間。



 ――海が、震えた。



 そうとしか思えない、重く、低い音が、船を震わせた。


 思わず息をのむ。

 海の下に、なにかが居る。

 私の生存本能にびりびりと訴えかけて来る、なにかが。


 再び、うなるような重低音。

 海面から、なにかがせり上がって来た。

 ヨットの帆……いや、それよりはるかにでかく、肉厚の――背びれが。



「グオオオオオッ!?」



 海をひときわ大きく震わせる咆哮とともに、水中から現れたのは。

 とてつもなく巨大な――怪物ザメの姿だった。





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