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その26 ちょっとおかしな料理人



「ドラゴンの肉……?」



 ホルクが眉をしかめた。



「……おい、それオレが聞いて大丈夫な話か? 消されたりしないか?」



 まあそんな反応だよね。

 守護神竜アトランティエのお肉です、なんて言ったら脱兎のごとく逃げ出しそう。

 客観的に考えたら王室の特秘事項だ。それを一般人が知っちゃうとか、完全に消される案件としか思えない。



「大丈夫だよ……まあ、それで、ここにその肉塊があるんだけど」



 と、ペンダントから、試食する時に切り分けた小さめの肉塊を取り出す。



「おい、出すなよ。オレを巻き込むなよ……」



 ホルクさんがおびえてるけど、私は無実です。

 というか、私が王子様のところに居るって知ってるんだろうし、ばれても大丈夫だって信じてくれればいいのに。


 いや、実際、あんまり広まっちゃうとまずいんだろうけど。



「火がむちゃくちゃ通りにくいし、普通の包丁だとちゃんと切れないしで、どうやって料理したらいいかって思ってるんだけど」


「おい何事もなく話を続けようとするな」


「ホルクさんは美味しい料理屋さんとか知ってるし、そういうのにもくわしいんじゃないかなって」



 じーっと見つめながら、お願いする。

 ホルクは全力で視線を反らしてたけど、根負けしたのか、深ーくため息をつく。



「……まあ、魔獣なんかを料理する奴なら、知ってなくもない」


「魔獣料理!?」



 ガタッ、と立ち上がる。



「とりあえず落ち着け!」



 スチャッ、と着席する。

 いまの私はとっても大人しい子なのではやく教えてくださいはやくーはやくー。



「……で、まあ、市場に食材として出回るなんてめったにない。そのへんの理由は……おい、アルミラの嬢ちゃん、他人面してないで助けろ」



 私が食い入るように見つめてると、ホルクがアルミラに助けを求めた。



「仕方ありませんわね」



 と、伸びをしてから。

 猫のアルミラは椅子に乗って机につかまり立ちして、口を開いた。



「魔獣とは、魔力を持つ獣のことですわ。タツキさんから見れば等しく無害かもしれませんが、人にとっては脅威ですの。しかも、魔力を体内に取り入れる行為は、人間にとってやさしくはありません。魔力を持つ人間――王族や魔法使いにとっては、逆に魔獣の魔力は取り込みにくく、淡すぎます。味はいいので、珍重はされるのですが……」


「どうしたのアルミラ?」



 なんだかもじもじし始めたアルミラに、首を傾ける。



「いえ。タツキさんにじっと見つめられて、ふわふわした気持ちになって来ただけですわ。お構いなく」


「……うん」



 心静かに、乗り出した体を元に戻す。



「お話の続きですけれど、そういうわけで魔獣は、狩るのも難しいですし、それが市場に流されることは、あまりありませんの。ですので、魔獣を料理できる民間の料理人なんて――」



 アルミラの言葉をさえぎって。

 いきなり個室の扉がバーン、と開かれた。

 飛び込んできたのは、白衣を着て包丁を手に持った、50がらみの精悍そうなおっちゃん。



「ワシの店で、ワシの知らない食材の匂いを撒き散らしてるのは誰だぁーっ!?」



 顔を真っ赤にして怒鳴るおっちゃん。



「――変人しかいないと」



 私の言葉に、ホルクとアルミラはそろってうなずいた。







「……えーと、あなたは?」



 乱入してきたおっちゃんに尋ねる。



「ワシか、ワシはロザン! この店の主だ! ――っこれかあっ!?」



 肉に突っ込んできたので、全力ガード。

 お肉は絶対に渡さない!



「ぐわあああっ!? 肉ぅ……肉ぅ……!!」



 うわ、全力で阻んでるのにそれでも肉を求めてもがいてる。



 ――怖い怖い、この人怖い!



「ロザンの旦那、落ち着け! こっちのお嬢ちゃんは、旦那にこいつを料理してほしいんだとよ!」



 ホルクが勝手に言ったけど、オッサンのもがく手が止まったのでナイス!



「ほう、ほうほう……小娘、おめえさん、なかなか見どころがあるじゃねえか!」


「タツキさんに、なんてもの言いしてますの!?」



 ふしゃー、とアルミラが尻尾を膨らませて威嚇するけど、いまはオッサンを刺激しないでください。実力差がどれだけあってもアレな人は怖いです。



「あらためて、自己紹介させてもらおう。ワシはロザン。この店の主にして、美食の究極を追求する男だ!」


「うわあ、濃いなあ……」


「そうだ! だから普段は表に出ん! 料理は舌だけじゃねえ! 心で食うもんだ! 嫌いな奴と食う飯はどんな美味いもんでもマズイ! 美女と食う飯は一人で食うより確実に美味い! だから客には気分良く食ってもらう! こんな暑苦しいオッサンが表に出てちゃあ飯がまずくなるってもんだからな!」



 がっはっは、と笑うロザン。

 なんというか……言ってることはすっごいわかる。

 料理もおいしいし、この人になら、私の大切な大切な肉を預けても、いいかもしれない。



「わかりました。ロザンさん。この、水竜の肉、調理してもらえますか?」


「――っ!?」



 おお、おっちゃんが絶句した。

 でも、それも一瞬のこと。表情が、すぐに不敵な笑みに変わる。



「……っくっはは! この水の都で、あろうことか水竜の肉を調理させようってか!? ……いいじゃねえか。燃えてきたぜ!」



 あ、すごい。この人つきぬけてる。

 ホルクなんて青い顔の仏様みたいな表情になってるのに。



「――よし、肉を見せてくれ、いいな!」



 おっちゃんの求めに応じて。

 私は大事に抱えてた肉を、皿に乗せて押し出す。


 その肉を、おっちゃんは指先で軽く押した。



「ふむ……なるほど、おもしれぇ身質だ。味は……」


「と、ちょ――」



 止める間もなく、おっちゃんは指先についた血を舐める。



「――ぐほおっ!?」



 ちょ、鼻血吹いた!?

 普通の人間にとっては毒にすらなるのに、このひと躊躇なくいった……



「おい、ロザンの旦那、大丈夫かよ」


「竜の血肉は人によっては毒なんですわよ! 気をつけてくださいまし!」


「――っ馬鹿野郎! たかが死ぬ可能性くらいで料理を極めることをあきらめられるか!」



 気遣うホルクたちを振り払って、おっちゃんは叫ぶ。


 なんという料理馬鹿。

 というか心なしかオッサンの耳、尖ってる気がする。

 そういえば幻獣種を食べると獣になったりする可能性もあるんだっけ。


 こんなことにならなくてよかった。

 いや、よく考えると、おっちゃんなんかより、よっぽどアレな変化してる気がするけど。



「どうですか? 普通の包丁じゃまともに切れないし、火も通らないんですけど」


「ひっでえ冷質の肉だ、多少火であぶったくらいじゃ話にならねぇだろうよ……いまある厨房の道具じゃあ焼くのは無理だな」


「ステーキはむりかあ……」



 しょぼーんとなる。

 そんな私に、おっちゃんはにやり、と不敵な笑みを浮かべ、言った。



「待ってな嬢ちゃん。焼くことが出来ねえなら、出来ねえなりの料理を作る。それだけのことよ!」



 なんというか、狂気じみた笑みだけど、美味しい料理がたべられるなら問題ありません。





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