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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その25 おいしいレストランを探そう



 ざわ……ざわ……


 どよめきが聞こえる。

 水の都を走る水路クリーク沿いに、冗談みたいに大勢の人が並んでる。


 ……船を行く私の姿を見るために。



「アルミラさん、むっちゃ目立ってるんだけど……」


「タツキさんのお姿、本当に神々しいので、仕方ありませんわ」



 猫のアルミラに相談すると、そんな答えが返ってきた。

 まあ、鏡で姿を見た今ならわかる。そりゃ注目するよ。

 いまさらだけど、顔くらい隠しておけばよかった。



「……これ、やばくない?」



 視線がすごい。

 人がどんどん増えてくる。

 なんか押し合いへしあいだし拝んでる人も居る。なんだこれ。



「我慢ですわ。あんなの有象無象にすぎませんわ」


「いや、神竜の巫女様やってたアルミラさんほど視線慣れしてないから」



 というかあの水竜のでっかい目で、日常的に見られてたら、群衆の視線なんてなんともないんだろうな。

 私はヤバすぎて、逆にだんだん気分がよくなってきた。


 そんな間にも、船は進む。

 他のゴンドラ船が、うちの船を避けてく。

 なんだか偉い人になった気分だ。ひれふせー!



「身分を隠す必要なんてない。最初から貴人だって示したら、ひと目をはばからなくていいし、遠慮とかもしなくていい……すっごい快適!」


「ですわ」


「やばいあの王子様天才か」


「あの子はこういう、なんかズルイ感じの事だけは得意なんですわ」



 あいかわらずアルミラさんの弟評は辛い。

 君主としても、かなりいい線行ってそうだって思うんだけどな、エレインくん。



「と、そんな場合じゃないですわ。食事はどこへ行きましょうか?」


「うーん……ひさしぶりに、あの宿の料理が食べたいなあ」



 泊まっていた宿の料理とおばちゃんを思いだしながら、つぶやく。

 なし崩しに引き払うことになっちゃったので、挨拶がてら、顔くらい見せに行きたい……んだけど。



「でも、こんな格好で行くと、全力で引かれそうでやだなあ……」


「引かれそうというか惹かれそう、ですけれど……いずれにせよ、ものすごく恐縮されそうですわね」



 うん。今回はあきらめよう。



「じゃあアルミラ、ほかに美味しいお店、知らない?」


「うーん……少々お待ち下さいまし。わたくしも、あまり存じておりませんので――船を南に向けてくださいまし」



 アルミラが船頭に頼むと、船は進路を変える。

 それから、屋台街の裏手の、比較的人の少ない一角に船をつけて、アルミラは陸に上がった。



「少々お待ちを。くわしい者を連れてまいります」



 そう言って駆けていった子猫を、待つことしばし。


 屋台街から美味しそうな匂いが漂ってくる。

 ……うん。なんというか……辛抱たまりません。

 こんな場所でアルミラの帰りをずっと待ってるなんて、苦行すぎる。



「船頭さん船頭さん、ちょっと食べ物を買ってきてくれません?」



 なので、船頭さんにごねて、屋台で買い物してきてもらっちゃった。

 できれば私が行きたいんだけど、水路沿いにできた人だかりに飛び込んでく勇気はない。

 いや、どうこうされる気はしないけど、手加減をしくじって人死にが出たら、パニックになりそうだし。



 ――でも。



 心の中でつぶやく。

 船頭さんが買ってきたのは、パンに焼き肉を挟んだもの。

 お礼を言って受け取り、回りの人たちの視線を一身に集めながら、口に運ぶ。



 ――これはなにかのプレイなんだろうか。



 冷や汗をかきながら、もふもふと食べる。

 肉は、脂身は少ないけど、しっかりした赤身肉。

 霜降りの美味しさとは違うけど、ザ・肉って感じで、食べ甲斐があって美味しい。


 衆人環視の下なので、お上品に食べ終えて、それからまた、アルミラの帰りを待つ。

 飽きて人混みが減らないかな、と思ったけど、入れ替わり立ち替わりで結局辺りは混雑したままで、そんな人々の目線にも、ようやく慣れ始めたころ、やっとアルミラが戻って来た。



 ――なんか変なのを連れて。



 年のころは、15、6くらい?

 フォーマルっぽい感じの、見るからに上等の服を着てる。

 でも、髪はぼさぼさなのを無理やり撫でつけてる感じ。目つきに至っては完全にチンピラ。全体的にすっごいちぐはぐな感じの人だ。



「……だれ?」


「ホルクだ」



 アルミラが口を開く前に、変な人が名乗る。

 おお、チンピラさん。言われてみればそれっぽい……かも?



「ホルク?さん、なんか若造りしてない?」


「若造りはしてねえよ。オレはもともと15だ」



 おお? と思ったけど、そういえば金髪王子様、エレインくんの遊び友達だったんだ。

 エレインくんが14だから、そんなものなのかも。



「タツキさん、このホルクが店まで案内してくれますわ。この男、下町だけではなく、都中の美味しい店なども、よく知っておりますの」


「食べ物だけじゃない。都の事情に一通り通じてるだけだぞ、一応」



 アルミラの言葉を、ホルクが訂正する。


 でも、あの料理がおいしい宿を定宿にしてるあたり、グルメでもあるんじゃないかって思う。



「じゃあ、お願いしますね」


「……まあ、先導役を務めさせてもらうぜ」



 頭を下げると、ホルクは所在無げに頭をかきながら、私の格好を見て。



「つーかその格好、何事だよ?」


「うん。どのみちどうやっても目立つんで、目立っても問題ない格好をしてみた。どう?」


「ヤベエ」



 胸を張って答えると、ホルクはそれだけ答えた。

 私がヤバい級の美少女なのには異論ない。







 ホルクに案内された先は、街中の一軒家だった。

 外には看板も何もない。だけど、内装はしっかりしていて、調度もかなり吟味されてるのがわかる。



「うわあ、お高そう……」


「ま、それなりに値は張るわな。だが味は保証するぜ」



 ホルクが太鼓判を押す。

 うむ。金に糸目はつけないので、美味しいのをどんどんもってきてほしい。


 個室に案内されて、席につき、待つことしばし。

 並べられた料理は、素晴らしいものだった。


 スープはすっぽん。

 ゼラチン質の身肉をたっぷりと煮込んて、それから濾したんだろう。一見具も何もない、淡黄色のスープなのに、味は濃厚で力強い。



「美味しい……」



 メインは鯛。

 種類は、日本ではちょっと見たことがない。

 揃えた両手に収まる程度の小柄な鯛が、焼いたか揚げたか。その上に軽く塩が振ってある。


 歯を立てるとさくりとした食感。

 やっぱり揚げてるのかな? 振り塩が引き立てた皮ぎしの濃厚な味と白身の淡白な旨味は極上だ。


 つけ合わせは、貴重であろう新鮮な野菜。

 日本で食べるのより癖が強いけど、逆に特有の旨味も強い。それが鯛とあわせるのにちょうどいい。



「ヤバい……」



 デザートはケーキ。

 というかケーキあるのか。

 舐めてみると、甘い。ちょっと甘さがとんがってるかな?

 でもひさしぶりの甘さだ。びっくりするくらい美味しく感じる……というか、これ、砂糖? なんか他のものが混じってる気がする。でもおいしい。



「いい……」



 ……うん。私に食レポは無理だ。

 というかアルミラさん(猫)、食べすぎです。あとホルクさんのケーキを肉食獣の目で見るのは止めてください。



「どうだ?」


「ありがとう。おいしかった。あと10人前くらい食べたい」



 ホルクに問われて、笑顔で答える。



「だろう?」



 ホルクも笑顔で返す。

 というかこのチンピラさん、なんでこんなお高そうなとこ知ってるんだろう。安くてうまいとこなら納得いくんだけど、けっこう不思議だ。







「……そういえば、ホルクとアルミラってどんな関係?」



 食後、ふと気になったので、ホルクに尋ねてみる。

 エレインくんとの縁だってのは想像がつくんだけど。



「……聞きにくいことを聞いてくるなあ」



 ホルクは眉をひそめた。



「いや、言いたくないならいいけど」


「いや――嬢ちゃん、話していいか?」



 ホルクはいまだケーキと格闘してるアルミラに尋ねた。



「よろしいですわよ。タツキさんがお望みなら、わたくしのどんな恥だって、隠すことなんてありませんわ」



 アルミラがさらりと重い感じで了承したので、ホルクは「それなら」と説明してくれた。



 昔、エレイン王子が神殿に預けられてた頃、王子様はよく神殿を抜けだして街で遊んでいた。

 そのとき遊び仲間になったのが、ホルクだった。その縁で、ホルクはアルミラとも顔見知りになった。


 だけどその後、エレインは王族として認められ、王宮に入った。

 一方、ホルクも身を持ち崩して、二人が住む世界は、交わらないものになってしまった。



「まあ、それでも、嬢ちゃんとはたまーに下町で顔を合わすこともあってな」


「エレインくんが居ないのに?」


「この嬢ちゃん、たまに神殿抜けだして、下町の味付けの濃い飯食ってるんだよ。エレインの野郎が居た間に、味を覚えちまったらしくてな」



 ぴーぴーぴー、とアルミラが口笛を吹く。

 猫なのに器用だ。マナー違反なので店の人に注意された。すっごい謝ってた。



「まあ、そんな感じで顔だけは合わしてたんだが……婚約者の王子様を奪われそうになって、嬢ちゃんが頭ゆだってた時に、相手の始末を頼まれてよ」



 うん。あらためて聞いても、なんで知り合いに頼んだ。



「いや、オレも嬢ちゃん脅すために、金さえもらえれば人殺しだってやる、みたいな話をしたのが悪かったんだけどよ。まさか頼むかって感じだったな……で、まあ、しくじっちまったっていう、オレにとってもクソ恥ずかしい話だ」


「うん。未遂に終わったってのは聞いた」


「ああ、失敗して、しかも嬢ちゃんが噛んでる証拠を残しちまった……いや、証拠は作られたのかもしれんが、どの道似たようなもんだ。で、嬢ちゃんが捕まっちまった」



「だが」ホルクは語る。



「嬢ちゃんオレの事一切漏らさなかった。自分は死ぬってのによ」


「責任は全部わたくしにありますわ。ホルクは、いわば道具にすぎません。道具を罰するのは道理が通りませんわ」



 アルミラが堂々と言う。

 チンピラさんへの気遣いもあるんだろうけど、結果すっごいプライドが高い人っぽい返答になってる。



「まあ、そんなわけで、俺にとってはデケエ借りのある恩人なんだよ」


「勝手に借りた気になってる、困った人なんですわ」



 ホルクとアルミラが、そろって言う。

 重い話なのに、完全に終わっちゃったこと、みたいな変な軽さがある。


 うむ……なんだか変な空気になっちゃってどうしよう。

 急いで話題を変えよう。このままじゃ重圧に耐えきれなくてロダンになっちゃう。


 ……そうだ。



「そういえばホルクさん、美味しい料理屋さんとかよく知ってるんだよね?」


「ああ」


「じゃあ、知らない? ドラゴンの肉を、料理できる人」





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