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その24 おめかししてみよう



「ひまー」



 と、つぶやく。

 王子様が臨時政府にしてる館の一室に、このところ篭もりきりだ。


 原因は、この間の港の暴動騒ぎ。

 あれでかなり目立っちゃったせいで、お忍びで買い食いとか、どうやっても無理になっちゃったのだ。暴動を煽った野郎ふぁっく。



「アルミラさんアルミラさん、この状況なんとかならないかな?」



 と、側に居たアルミラに尋ねる。



「えっ? ええと、そうですわね……変装――は、どう隠しても目立つ気しかしませんし、いっそ屋台のほうをこちらに呼ぶというのはどうでしょう?」


「それは……屋台の人に迷惑掛けたくないし、やだなあ」



 心は小市民なので。

 私のハートは繊細なのです。たぶん。



「では、人に頼んで、いろいろと買ってきてもらいましょうか?」


「それも、なんというか、街を歩いて回る楽しみがなくなっちゃうというか……そうだ」



 と、手を打つ。

 アルミラが手にかけてる黒水晶の護符を見て、ちょっと思いついた。



「――私も猫になれないかな?」



 と、思いついて提案してみる。

 アルミラは不審そうに首を傾けた。



「猫に、ですの?」


「そう。猫なら人目を気にせずに、街中歩き放題でしょ!?」


「それは……そうですけれど……それだと、肝心のごはんが買えませんわよ?」


「あ……」



 ものすごく抜かってた。



「それに、タツキさんに獣化の呪いをかけられるほど強い魔力を持ってる方って、この水の都じゃオールオール様しかおりませんし、それほど力を使うとなると、報酬の方も、少々……」



 アルミラが言葉を濁す。

 そういえばあの幼女、金にうるさいんだったか。

 まあ、どのみち猫姿じゃ買い物できないんだけど。



「あ、オールオールちゃんに魔法をかけてもらうなら、認識阻害系の方がいいのかな? それなら買い物もできるだろうし」


「……ちゃん?」



 アルミラがものすっごく怪訝な顔になる。

 いや、外見年齢だとちゃんづけしてもおかしくないと思います。言動とかでも、けっこう。



「ともあれ、そういうことなら、わたくしがオールオール様をお呼びいたしますわ。ちょっとエレインに断って参りますわね」



 と、部屋を出ていったアルミラは、すぐに戻って来た。

 後ろには、なぜか王子様がついてきてる。



「あれ? 王子様、めずらしい。ヒマなの?」


「おかげ様で、すこしのあいだ席を空けるくらいは」



 王子様が疲れた笑みを浮かべる。

 ちょっとシブいって思っちゃった。王子様14歳なのに。



「タツキ殿、お忍びで街を出歩くのが難しくなったので、なんとかしたい。そのために陋巷の魔女様をお呼びしたい、という話ですが」


「うん」


「なにも忍ぶ必要はないですよ?」


「うん?」



 王子様の言葉に、私は首を傾ける。



「よい機会です。街の皆にも正式に、あなたの姿を披露すればいい……めいっぱい着飾って、堂々と、ね」


「それはいいですわ! タツキさん! タツキさんがおめかしするなんて素敵ですわ!」


「……うん?」







 目の前に大きい鏡がある。

 鏡の中に映るのは、ひとりの少女。

 おっそろしいまでに整った顔、輝くような黄金色の髪。

 すらりと伸びた手足。すらりとした胸。とんでもなく白い肌。ふわふわしてる風竜の貫頭衣。


 私のまばたきにあわせて、鏡の中の少女もまばたきしてる。


 ……私だ。



 ――好き。



 いや、私だ。



 ――結婚してください。



 いや、私だ。

 ……ちょっと混乱してしまった。落ちつけ私。



「……アルミラさん」


「はい、なんですの? タツキさん」


「私の姿は、絵とか彫像で残されるべきじゃないかな?」



 私が言うと、アルミラは、きらーんと目を輝かせた。



「はい、ぜひとも! すぐにエレインに言って都一番の芸術家を呼び寄せますわ――って、そのまえにお着替えですわ!?」



 アルミラさんが一人でバタバタしてる。

 いや、私もちょっとおかしくなっちゃってる気がするけど。



「――この、聖衣を! お召しになって下さいまし!」



 と、アルミラが勢いよく出してきたのは、アルミラとおそろいの、ギリシャっぽい巫女衣装だ。



「なんでこれ?」


「普通のドレスじゃ俗っぽすぎてタツキさんには似合いませんわ!」


「私はどっちかっていうと、その俗っぽい方がいいんだけど……まあ、アルミラに任せるよ」


「任されましたわ!」



 アルミラが意気揚々と着付けにかかる。

 私は女の子の着飾り方なんてくわしくないので、本職おんなのこのアルミラに一任する。

 それに、アルミラは元巫女だから、巫女衣装は専門分野だ。着飾り方なんかもお手のものだろう。



「といっても、お化粧も要らなそうですし、髪も……括ることすらもったいないくらい美しいですわね……本当に服を着せるくらいしか、やれそうな事がありませんわ……」



 なんだか愕然としてるアルミラ。

 いや、めんどくさいことしなくていいのなら、その方がありがたいんだけど。



「……ともあれ、服をお着せいたしますわ……その風竜の衣はどういたしましょう?」


「うーん。防御力高そうだし、着慣れたってこともあるし、できれば着てたいかな?」


「では、そのように……」



 私が両手をあげると、アルミラが衣を着せてくれる。

 あいかわらず、風竜の貫頭衣のせいで、衣のすそがふわふわと浮きあがってるんだけど、まあ問題ないだろう。



「むしろ神々しい感じがして、大変けっこうだと思いますわ!」



 ……うむ。

 鏡の中の超絶美少女が、裾がふわふわ浮いてる幻想的な衣を着てる。

 ギリシャ風なのも相まって、なんというか、本当にギリシャ神話の女神みたいだ。ギリシャ神話の女神ろくなやつがいないけど。いや、男性神もろくなやついないけど。


 というか。



「いまさらだけど、アルミラさん」


「はい、なんですの?」


「この格好で出ていくの恥ずかしい。恥ずかしくない?」



 なんというか、すっごい羞恥心が湧いてきたんですけど。



「ごはん」


「行きます」



 食欲には勝てなかったよ……





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水の都が食の都になっちゃう・・・
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