表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/125

その17 神殿に竜がいるっぽい



 アルミラが神殿に居たってことを、はじめて聞いた。

 考えてみれば、私はアルミラの素性について、あんまり聞いてない。


 でも、あらためて聞こうって気にもなれない。

 私があんまり詮索してほしくない性質たちだからってのもあるけど、さっきのやりとりを見るに、もう吹っ切れてるっぽいし。



「スヤァ……ですわ……」



 まあ、当のアルミラは……なんというか、平和そうで大変けっこうだと思います。







 そんなこんなで、アルミラとゴロゴロしていると、昼になった。

 食事の時間だ。おばちゃんに食事を持ってきてもらうよう、頼みに行く。


 階段を下りると、昼間から酒場は騒がしい。

 いつもはもうちょっとお上品な雰囲気なんだけど、今日はまるでお祭り騒ぎだ。



「今日はなにかあったんですか?」



 食事の配達をお願いしながら尋ねると、おばちゃんはにこりと笑って答えてくれた。



「今日は神殿で、めでたい式典があるんだよ。新しい巫女様が、守護神竜様の血を受けるとか。だから、街中お祭り騒ぎさ。お嬢様も、よければ見て来るといいですよ!」


「そうだったんですか……ありがとうございます!」



 笑顔を返して、部屋に戻る。

 ほどなくして、おばちゃんが食事を運んできてくれた。

 お祭りサービスなのか、いつものより盛りも品数も多い。



「しかし、その細っこい体のどこに、これだけの料理が入ってくんだろうねえ」


「ははは、根っからの食いしん坊なもので」



 本当はアルミラと分けてるんだけど、ドラゴンの肉をトン単位で食べた実績があるので、嘘は言ってない。



「まあ! うちの料理を気に入ってくれてありがとうね。うれしいよ」



 と、おばちゃんが一階に戻ったので、食事タイムだ。

 肉やら魚介やら、ワングレード違う感じの料理が並べられてる。

 アルミラさんのお着替えタイムが済むのを待ちかねて、食事を始める。



「今日はごはんが豪華ですのね?」


「なんか神殿でめでたい式典があって、今日はお祭りなんだって。守護神竜が巫女様に血を授けるとかなんとかって言ってたけど、アルミラ、守護神竜ってなにか、聞いていい?」



 私が尋ねると、アルミラは「う……」と言葉を詰まらせる。

 それから、ものすごくためらいがちに口を開いた。



「……守護神竜というのは、この水の都アトランティエを守る水竜様ですわ」


「水竜が居るの!?」


「食べないでくださいましね!?」



 思わず舌なめずりすると、アルミラは戦慄の表情を浮かべて必死に止めてきた。

 やばい。あの岩礁に居た水竜アルタージェの味が鮮明に――我慢我慢……あ、生ベーコン美味しい。


 ……うん、あれだ。

 この反応が怖くて、アルミラは守護神竜のこと、黙ってたんだな。



「……神竜様の血を受けるってことは、巫女様ってのは竜の力を得るってこと?」


「ですわ。このアトランティエでは、代々そんな感じで神竜様の庇護を受けておりますの」



 なるほど。

 竜が守る都市。おまけに竜の血を受けた巫女は、魔法を使えるようになる。

 アトランティエ王国が西方でも強いっていうのは、このあたりに理由があるのかもしれない。



「巫女様って死ぬまで巫女様なの?」


「だいたい十歳から二十過ぎまで務めて、次の巫女と交代する感じですわ」


「……巫女ってことは、全員女?」



 男か、そうでなくても鍛えられた戦士が血を受けたら、戦争とかでも役に立つんじゃないかって思ったけど、アルミラはかぶりを振る。



「巫女は、あくまで神竜様にお仕えする役ですので。この街を出ることすらないのですわ」



 どうも、それほど人間に都合よくはいかないらしい。

 まあそうだろう。守護する方もなにかメリットがないと、こういう関係は築けないだろうし。


 若い巫女さんにかしずかれるのがメリット、なんて言うと、神竜様が変態っぽいけど。



「なるほどなあ……巫女になるのに条件ってあるの?」


「特には、ですわね。神殿に務める者の中で、筋目のいい娘が選ばれる感じですわ」


「出自が関係あるんだ?」


「竜の力を得るわけですので、やっぱり出自の怪しい者は困るんですわ。そのまま王族の方と縁を結ぶ場合も多いですし……神竜様の都合ってより、こちらは王室の都合ですけれど」



 なるほど。

 納得のいく理屈だった。


 竜の血を受けた娘を、定期的に一族に迎える。

 その血が流れる者には、やっぱり竜の力――つまりは魔法の力が宿るんだろう。


 そうやって王族の中で竜の力を維持しつつ、婚姻を介して貴族にもその力を分け与える。

 そうして支配体制を固めることこそ、王室が竜の庇護を受ける、最大のメリットなのかもしれない。



 ――でも。



 と、私は昨日聞いた物語を思い出して、疑問に思う。

 あの話では、王子様と恋仲になった町娘が、箔付けのために巫女様になってたけど。



「……巫女様ってさ、清らかな乙女が求められるんだよね? 私の世界だとそうだったけど」


「こちらでもそうですわ。ですので、幼い娘が巫女に選ばれるんですの。出自を選ぶのも、王室の都合だけでなく、もとはそのためってのもあるんじゃないでしょうか? 食い詰めた若い娘が、日々の糧を得るために体を売る、なんて珍しくありませんし」



 おや? いまけっこう衝撃的なことが耳に入った気がする。



「体を売るの? 10歳でも?」


「はい」


「うわあ……」



 ロリコン大歓喜な倫理観か。

 ……私はロリコンじゃないけど。

 下限が十四歳くらい。オールオール様はちょっとアウトです。


 じゃない。

 あの物語が実話なら、つぎに巫女様になるのは、けっこういい年の町娘だ。しかも王子様と恋仲の。


 ……いや、すごくプラトニックな関係だったって可能性もあるけど。

 というか、王族なんだし、さすがに竜とのつき合い方は心得てるだろうし、大丈夫だと思うけど。



「……もし、巫女になる人が、清らかじゃなかったら、どうなると思う?」


「それは……」



 アルミラは、口を開きかけて。


 突如起こった、町全体を震わすような怒号に、私たちは思わず顔を見合わせた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ