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その16 金髪美形の弟くん



 朝、起きたら、すこし体が重い。

 昨日のお酒が残ってる感じ。やっぱりお酒、苦手かも。



「大丈夫ですの? 水竜の甘露をお出ししましょうか?」



 アルミラさんが天使過ぎてつらい。



「ありがとう。もらいます」



 アルミラは、ネックレスを咥えて、私の口元に押しつける。

 冷えた感触とともに、宝石から、ぽたぽたと水がこぼれてきた。



「ん、っく……」



 少しずつ飲むと、さあっとダルいのが消えていく。すごい。



「……ありがとう。楽になったよ」


「どういたしまして、ですわ。船底に溜まってる原液ですので、かなり効いてると思いますわ」


「水竜の結露水ってすごい……そういえば、私も水竜の力を受け継いでるんだから、似たようなこと出来るの?」


「たぶん、魔法を自由に操れるくらい熟練したら、出来るかもしれませんけれど……」


「唾液で怪我とか病気が治ったりしない?」


「唾液を――呑ませるんですの!? は、破廉恥ですわ! 破廉恥ですわ!」


「……いや、そんな発想が出て来るアルミラの方が破廉恥だと思う」



 指摘すると、アルミラは尻尾をぷるぷる震わせて、回答を拒否した。かわいい。



「……そういえば、タツキさん、今日のご予定は、なにか考えてらっしゃいますの?」



 と、アルミラが尋ねて来る。

 誤魔化す感じじゃなくて、純粋に思いついたって風なのがアルミラらしい。



「……うーん。ホルクさんにも出歩くなって言われてるし、今日のところは大人しくしとこうか」


「そうですわね」







 そんな感じで、今日一日、だらだらと過ごすことに決めた。

 朝ご飯を食べて、ベッドでごろごろと怠惰なライフをエンジョイしていると。



「お嬢様……!」



 日が十分に高くなった頃、宿のおばちゃんが、不安げな様子でやって来た。



「お嬢様……騎士様がお嬢様を訪ねてらっしゃったんだけど……お通ししていいかい?」


「えーと、心当たりはないですけど、とりあえず通して下さい」



 そう応えて、待つことしばし。

 入って来たのは、金髪イケメンの騎士。

 その装いには、どことなーく見覚えがある。



「……ひょっとして、昨日下町の方に行ってた方ですか?」


「そうだ。騒ぎを収めた帰りに、この宿の前で君を見かけてな。不躾だが訪ねさせてもらった」


「どうしてですか?」


「君――というか、君といっしょに居た猫に、ちょっと興味があってな」



 猫。アルミラのことだろう。

 ちょっと視線を奥にやったけど、居ない。素早く隠れたっぽい。



「猫に? なんでです?」


「それが、なんと言ったものか……知り合いかもしれんと思ったんだが」



 金髪の騎士は困ったように頭をかいた。

 知り合い、という言い方はおかしいように思うけど、獣に変えられるのは重罰者とか聞いたような気がする。たしか。


 この人が、アルミラになんの用があるのかわからないけど、とりあえず隠しといたほうがいい。



「いえ、町のはずれで仲良くなったんですけど、けっこう気ままに出歩いてるので、戻ってくるかわかりません」


「そうか……」



 適当な嘘をつくと、金髪は困った様子で部屋を見渡して。



「――ところで、あらためて見ると……君は、とんでもなく美しいな」



 ふいに、そんなことを言い出した。


 あれ?

 そういえば、チンピラさんがこいつは女好きだって言ってた気がする。

 ひょっとして、アルミラのことって、たんに私と会うダシだったりする?


 となると、ちょっとこの状況ってダメな感じがする。

 身の危険だからってぶっ飛ばしたら、指名手配とかされそうだし。



「……はあ」


「隠してはいるが、髪も美しい。まるで黄金そのものの輝きだ」


「……はい」



 できるだけ気のない感じで返事するけど、金髪はお構いなしだ。



「そして、肌も。すばらしい、まるで美の女神のようだ。ひょっとしてキミは、このボクに会うために生まれてきたのかい?」



 自意識過剰なことをほざいて、金髪は私を抱擁……する、ふりをする。

 あ、これって……



「ふぎゃー! タツキさんになにしますのこのおバカっ!」



 まんまと釣り出されたアルミラに、金髪は意地の悪い笑みを浮かべた。



「やっぱり居たか。彼女が部屋の中を気にしてたから、ここに居るんじゃないかとは思っていたが」



 ばればれだった。


 あー、アルミラごめん。

 でも見事にひっかかるアルミラもどうかと思います。



「ひさしぶりだな――姉貴」



 ……え?


 金髪の言葉に、私は思わず固まってしまった。







「姉貴? アルミラが? ……姉弟?」


「わたくしにこんな弟は居ませんわ! 神殿で後輩だっただけです!」



 私が顔を向けると、アルミラは全力で否定する。



「……神殿?」



 私が首をかしげると、アルミラは「はわわ」とあわてた様子。おや?


 その様子に、金髪はふう、とため息をついた。



「……ああ、ボクも姉貴もちょっとワケありで、子供のころは神殿に預けられていてな。姉貴には、そのとき姉がわりみたいな感じで世話になったんだよ」


「姉貴……」



 二人を見比べてみる。

 アルミラは、茶褐色の髪にブラウンの瞳の美少女だ。年のころは15、6ってところ。いまは猫だけど。

 金髪は、長身で華やかな、不幸になれって感じの美形だけど、全体的に体が鋭角でゴツイ。年のころは、20そこそこって感じだ。



「――ちょっとまって、アルミラっていくつなの? ひょっとしてすっごい若造りだったりする?」



 ちょっと焦って尋ねる。


 アルミラの師匠――魔女オールオールも、推定ロリババアだけど見た目は完全に幼女だった。

 あれくらいじゃなくても、「わたくし30歳ですわ!」とか言われたらちょっと、いや、かなりショックだ。



「わたくしは16ですわ」


「ボクは14だよ」



 二人は平然と答える。

 金髪の年齢が衝撃的だった。



「え、14? どう見ても20過ぎてるのに? というか14で女好きあつかいされてるの!?」


「……それを言った野郎には心当たりあるし、ヤツとはいずれ決着をつけなくちゃならんが、そのような不名誉を受けるいわれはないとは抗弁させてもらう。ボクはただ紳士なだけだよ……です」



 アルミラがものすごい勢いでジト目を向けるので、金髪の反論は先細りになる。



「――すくなくとも、オレはオヤジたちみたいに無駄に手を出すようなマネはしてないぞ。こう見えても純愛派だからな!」



 もはやどっちに言い訳してるのか分からない。



「まあ、それはどうでもいいとして」


「どうでもよくないんだけど姉貴!?」



 金髪のアルミラへの抗議は、完璧に無視される。



「なんでわざわざ会いに来たんですの? 放っておいてくれればよろしかったのに」


「いや……ごめん、姉貴が生きてるかもしれんって思ったら、とにかくひと目会いたくなって」



 金髪が言うと、アルミラはため息をついた。



「あのね、わたくしが生きてたところで、いまさら誰も得しないんですから、あなたもわざわざ関わらないでくださいまし。一応、形だけは、責任ある立場なんですから」


「ごめん。わかってるって。あいかわらずきっついなあ」



 うーん、蚊帳の外感。

 なにやらアルミラさんに関してすっごい重い事情がありそうだけど、微妙に修羅場の匂いがするので、下手に首を突っ込めない。


 なので、ただのオブジェですって顔をしておく。

 私はダビデ。私はダビデ。



「……それに、そのおかげでタツキさんと出会えましたし。いまはタツキさんとずっと一緒に居たいって思ってますし」



 いきなり流れ弾寄越さないでください子猫さん。


 アルミラの言葉に、金髪はたっぷり5秒、考え込んで。



「姉貴……同性愛はけしからんですよ?」


「同性愛じゃありませんわ! 忠誠心とか信仰心とかですわ!」



 いや、そりゃ魔女には野良神とか言われてるけど、勝手に信仰されても困るんですけど!?



「というか、タツキ……殿? 失礼だが、あなたはどういう方なんだ?」


「えーと……」



 自分の素性を考えてみる。


 異世界の一般人です。

 生贄の祭壇から来ました。

 ドラゴンの肉食べちゃった人です。



「……なに言っても胡散臭いという悲劇」



 私がつぶやくと、金髪は深いため息をついた。



「……まあ、詮索はよしとこう。人は良さそうだし、なにより美人だし……姉貴を支えてくれて感謝する。姉貴のこと、これからも頼む」



 金髪は、あらためて姿勢を正し、頭を下げる。

 それから、アルミラに無言で会釈して、部屋を出ていった。


 なんというか、微妙にいい人っぽい?



「……変な人だったね」


「まあ、おたがい関わらない方が幸せな間柄ですし……まあ元気そうでなによりですわ」



 アルミラがため息をつく。

 その姿は、ちょっとお姉ちゃんっぽかった。






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