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その14 アウトローに混じってみた



「……アルミラに困ったことがあったら、力になっておくれ。それが代金だよ。頼んだよ、野良神」



 別れる時、魔女は、こそりと私に耳打ちした。

 アルミラを心配してるんだろう。まあ、いろいろと理由があるんだろうけど、やっぱりツンデレな幼女だった。


 魔女の家を出ると、日はすっかり高く昇ってる。



「昼過ぎくらいか……アルミラ、なにか食べてから戻る?」


「この姿だと食べる時、ちょっとアレなんですけれど……タツキさん、お腹がお空きなんでしょう? どこかで食べましょう」



 そんな話をしながら、貧民街を歩く。

 しかし、どうも騒がしい。さっきから、吠えるような雄叫びや、悲鳴めいた声が聞こえて来る。



「なにやら騒ぎが起こってるみたいですわね……一度オールオール様の元に戻りましょうか?」


「いいよいいよ。どうせ実害ないし、いざとなったら跳んで逃げよう」


「危険意識が常人離れしすぎですわ……」


「まあ、声のする方はなるべく避けてこう」



 裏通りをすいすいと歩き、とくに問題もなく大通りまで出てこれた。

 それから、アルミラの案内で、通り沿いの酒場に足を踏み入れる。


 ピュウ、と口笛が歓迎した。

 雑然とした店内、頑丈なテーブルに乱雑に置かれた料理。

 客層は、明らかに悪い。身なりが整った人は皆無で、人相もとことん悪い。


 それに輪をかけて、調理場に立っている店主っぽい人の人相が悪いのは、どうなんだろうと思う。



「――帰んな。ここは嬢ちゃんみたいな娘の来るとこじゃないぜ」



 渋かっこいい。

 そして店主さんの一言で、絡んで来そうになった二、三人の男が舌打ちして足を止めた。


 客層が悪いなりに、規律が取れている。

 なんというか、荒くれ者たちの酒場って感じで、すごくいいと思います。


 まわりに構わずカウンターに座って、店主さんに微笑みかける。



「ミルクと、なにか食事をいただけます?」


「……うちには女子供に出すモンはねえんだが……嬢ちゃん、ワケありだな……ふん、食べてきな」



 ミルクと、それから野菜やらなにやらをドロドロに似た、粥っぽいものが出て来る。

 一見アレな感じだけど、匂いはこれを一級品の料理だと訴えている。



「ありがとう」


「礼はいらねえ、代金もいらねえ。さっさと食って帰っちまいな」



 この近辺にはツンデレしかいないんだろうか。



「ありがとう、でも、この猫にも、なにかが欲しいんです。お金は払いますので、いただけないでしょうか?」


「……同じのでいいんなら出してやるぜ。あと、オレが金は要らねえっつってんだ。しつけえと怒るぜ」



 テーブルの上に、粥を入れた皿が置かれる。

 足元のアルミラの前に皿を置いて、もう一度礼を言うと、ミルクを、そして粥を口にする。


 おいしい。

 ミルクは、牛乳じゃないっぽいけど、なんのミルクなんだろう。ちょっとトロっとしてて濃い感じ。

 お粥のダシは魚の……これは骨か。野菜やキノコの類をドロドロになるまで煮込み、小麦粉で溶いて粥に仕立てた、滋味豊かな感じだ。


 それを、ゆっくり、ゆっくりと味わって、微笑む。

 自然と笑みがこぼれるような、幸せな味だった。



「御馳走様です」


「食ったらとっとと帰んな。嬢ちゃんみてえなのは、ここの野郎共にゃ毒だぜ」



 そこまで言われると、さっさと退散するしかない。

 もういちど店主に頭を下げて、私は店を出た。







「――いい店だったね、アルミラ」


「ええ、口惜しいですけれど、あの男が住処にしてるだけのことはありますわ」


「あの男、って?」



 と、聞きかけて、ふいに、声をかけられた。

 振り返ると、建物の陰に、見知った顔がある。


 アルミラが尻尾を膨らませた。



「えーと……ホル、ク……さん?」



 そこに居たのは、チンピラの人だった。

 そういえば、このあたりの酒場で泊まってるって言ってた。

 というか、アルミラの言動を考えると、さっきの酒場に泊まってるのか。



「昨日の今日で名前忘れんなよ。傷つくぜ……」


「あなたの名前など、タツキさんにとっては有象無象のひとつですわ! 名前を覚えてもらおうなんて、おこがましいにもほどがありますわ!」



 大通りを折れて建物の陰に入ると、とたんにアルミラが大声を張り上げた。



「……なんでオレは知りあいに声をかけただけで、こんなに罵倒されてんだ」


「すみません。私の記憶力が怪しいだけです……」


「いや、あんたが謝る必要はねえよ。それより、どうもこっちの方はきな臭い。宿は壁ん中に取ってんだろ? 早めに帰った方がいいぞ」


「なにかあったんですか?」


「この辺の顔役に、ノラップってヤツが居る」


「……ノラップ?」



 なんか、ものすっごく聞いたことがある名前だ。



「そのノラップの一家が、どうも潰れたらしくてな。街の均衡が崩れちまって、空いたシマの奪い合いで、今、この辺は抗争のまっただ中だ」



 思わず、肩に乗るアルミラと顔を見合わせる。

 完全に私たちが原因だ。



「まあ、それはいいんだが、国の連中がな……近々神殿のほうで大事な儀式があるんだが、その前にかなり本気で鎮圧に乗り出してくるだろうぜ。巻き込まれると厄介だ。二、三日、宿に篭もってた方がいい」


「なるほど、ありがとうございます。まあ、知らん顔してた方がよさそうだね……じゃ、アルミラ、早めに帰ろうか」


「はいですわ!」



 通りに引き返して、宿に戻ろうとした、その時。

 ちょうど門から、馬に乗った騎士っぽい人たちが、大勢の兵士を連れて出て来るところだった。



「あらら、うわさをすれば」



 と、思わずチンピラの陰に隠れる。

 推定騎士の指揮で、兵士たちは何隊かに別れて、ぱらぱらと散っていく。


 なんか、微妙にまとまりが悪そうだと思ったけど、チンピラさんが「都の衛士は、あいかわらずキビキビしてやがる」って吐き捨てたので文化の違いを痛感してる。


 兵士たちの一団が街中に散った後、やっぱり鎧を着込んだ小集団がゆっくりと門をくぐって出てきた。

 中でも目立ったのが白馬に乗った騎士で、その豪奢な出で立ちは、遠間から見ても目を引く。



「はっ!」



 声を上げ、大通りを駆けてゆく騎士主従。

 気のせいか、その視線がちらとこちらを向いたような気がする。


 通りすぎていった騎士の背を見やって、ホルクは舌打ちした。



「いけすかねえ野郎だが、さすがに鼻が利きやがる。素早いぜ」


「知りあい?」


「腐れ縁だ。ガキの頃はつるんでもいたが……今はどっちかっつーと嫌な奴だ。借りもあるしな……ほれ、ヤツは女好きだ。目をつけられると厄介だぜ。早く帰んな」



 ホルクはそう言って急き立てる。


 立派な騎士とチンピラさんが、昔つるんでたとか、いまいち想像できない。

 でもまあ、私も男に言い寄られるのは勘弁だし、それが権力持ってる相手だと、厄介だ。なので忠告に従って、とっとと帰ることにした。


 


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