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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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その13 魔女のお家を訪ねよう



 翌日、アルミラといっしょに、朝早くに宿を出た。

 魔女オールオールの話を聞きに、壁の外縁部に向かうためだ。


 門を出て、アルミラに案内され、複雑な路地裏を歩いて行く。

 途中、何人かチンピラに襲われたけど、チンピラがアルミラに吹っ飛ばされただけで、とくに害はなかった。



「最近は物騒ですわね。以前はこんなこと、めったにありませんでしたのに」


「ごくたまにはあったんだ……」


「そこはまあ、このあたりには食い詰めた方も多いですし……」



 深く聞くと深刻な問題がありそうだけど、とりあえず降りかかる火の粉は無視するのみだ。

 下手に払っちゃうと物理的に消し飛んじゃうし。



「と、話してる間に着いちゃいましたわ。ここですわ」



 と、アルミラが前足で指し示したのは、路地裏にひっそりとたたずむ、ひときわおんぼろな石造りの家だ。



「……ここが、魔女さんの家?」


「はい。オールオール様のお家ですわ……失礼いたします」



 と、アルミラが、扉の隙間から家に入っていく。

 私も続いて、「お邪魔します」と言いながら、扉を開いて家の中に入った。







 魔女オールオールの家は、外観よりはすこし広い。

 ただ、古びた雰囲気は外観通りで、粗末な調度と、魔術に使うのだろう。よくわからない液体やら動物の干物やらが所狭しと並べられている。



「おや」



 と、声がする。

 薄暗い家の、一番奥。

 ゆり椅子に揺られながら、魔女オールオールはそこに居た。



「アルミラ、それに野良神様じゃないかい、どうしたんだい?」



 一見銀髪幼女な魔女は、無表情で尋ねてくる。

 それはそれで、妙に可愛くはあったけど、それなりに雰囲気を持っている。

 子猫は物怖じせずに彼女の前、テーブルの上にひょいと飛び乗って、私の方を振り返る。



「タツキさん、ネックレスを。鱗をお渡しします」


「うん」



 ネックレスをテーブルに置くと、アルミラは中から竜の鱗を何枚か取り出した。



「おや、依頼かい? それならそうと早くお言いよ」



 とたんに相好を崩す魔女オールオール。

 現金な幼女だ。にっこにこの笑顔がかわいいからいいけど。



「さて……このあたしに、いったい何をお望みだい?」


「タツキさんに、お知恵を」



 きりっ、と表情をつくった魔女の問いに、子猫が答える。



「うん? この野良神様にかい?」



 オールオールは小首をかしげた。

 その仕草は、やっぱり妙に幼い。



「ええ、タツキさんは、異なる世界からの客人まろうどなのですわ。過去に同じようなことが無かったか、あちらとこちらを行き来する方法はあるのか……教わりたいのですわ」


「……なるほどねえ」



 アルミラの話を聞いて、幼女は深いため息をついた。



「まったく、また厄介なことに巻き込まれてるね。本当に業の深い娘だよ……まあいい、お代は貰ったんだ。答えてあげるとしようかね――野良神様よ」


「はい」


「昔から、異なる世界から人や神が来る、という話は、ある。だがそれは偶然だよ。何者かが意図的に世界と世界をつなげたって話を、あたしは聞いたことがない。この魔女オールオールの力と知恵を尽くしても、おそらくは無理だ。そして、偶然帰れる可能性に期待するのは、天から金貨が降って来るのを待つに等しい」


「なるほど……帰れる可能性はほぼ無い、と」


「落ち着いてるね」



 幼女は意外の表情。

 まあ、幼女にして見れば、引導を渡したつもりだったんだろうけど。



「正直、戻れる可能性は低めかなって思ってたので」



 まあ、言われたからって、そう簡単にあきらめるつもりはない。

 けど、腕利きの魔法使いに聞いても手がかりすらないってのなら、早期の帰還はあきらめて、じっくり腰を据えて探すしかないだろう。



「タツキさん、お力になれなくて申し訳ありませんわ」



 アルミラが、申し訳なさそうに頭を下げた。

 べつにアルミラが悪いわけじゃなかったけど、それであわてたのは魔女オールオールだ。



「お待ちよアルミラ。それじゃあこのオールオールが不甲斐なかったみたいじゃないかい」


「でも、事実ですし」



 なにやら、孫に不甲斐ないとこを見せてしまって焦るおばあちゃん、みたいな図になってる気がする。

 見た目は幼女と子猫だけど。



「まあ、これだけの答えのために、竜の鱗は貰いすぎだねえ。かといって、このオールオール、一度もらったお金は返さない。だから世界を渡る方法、探してやろうじゃないかい――ただし、期待するでないぞ。正直望み薄じゃ」


「さすが陋巷の魔女、オールオール様ですわ!」


「ははは、そうだろうそうだろう。もっと褒めておくれ!」



 アルミラにまんまと乗せられてる気がするけど、それでいいのか銀髪幼女。







「あのー、ちょっと聞いていいですか」


「なんだい?」



 手を挙げて質問すると、銀髪幼女は揺り椅子に体を預けて尋ねて来る。



「そもそも、魔女ってどんな人なのかって、聞いていいです?」


「ああ、そのあたりの知識もないんだね。それほどの力を持っていて……危なっかしいね」


「そうなんですわ!」



 と、アルミラが横から割って入った。



「――力は、間違いなく規格外ですわ。なのに、タツキさんには魔法に関する知識がまったくありませんの! いつ暴発するかひやひやものですわ!」


「おお、そうなのかい……はあ、なら、そのあたりも教えてやろうかね。かわりに報酬をいただくよ」



 幼女がちゃっかり報酬を求める。

 ちゃっかりでもないのか。魔法を教わるんだから、それなりに高額の謝礼が必要なのは当たり前だ。



「なら、アルミラ、また竜の鱗を出してくれる?」


「竜の鱗はもういいよ。そう簡単に金には変えれないからね」



 私の言葉をさえぎって、幼女は首を横に振った。


 鱗がダメなら、角か牙がいいかな?

 なんて事を考えていると、幼女が先に口を開く。



「……そうだねえ、あたしが困った時、一度だけ手を貸してもらおうかい」


「え? オールオール様がお金以外を?」


「アルミラ! 人を守銭奴みたいにお言いでないよ!」



 心外だと全力で主張する銀髪幼女。

 でも、それに関しては、彼女の素行のほうに問題があるんじゃないかって思う。







 魔女オールオールが困った時に一度だけ、力を貸す。

 魔法を教わる報酬としてそれを約束すると、幼女はこほん、とかわいく咳払いして、話を始めた。



「さて、魔法というのはだ、いろんな事が出来る。風や火を起こせるし、物を縮めたり、納めたり、いろいろだ」



 揺り椅子を揺らしながら、幼女は言葉を続ける。



「しかしな、これは本来、人間が持っておらん力なんだよ」


「人間は、魔法を使えない?」


「ああ、だが、人間の中には、このオールオールやアルミラのように、魔法を使える人間がいる。なぜだと思う?」


「……ひょっとして、竜の肉を食べたり?」



 竜の肉を食べた人間は、竜の力を得る。

 その力、とは、怪力だけじゃない。風を起こすような、魔法の力もあるはずだ。



「半分正解、かね。そう、魔法の力の源は、竜をはじめとした幻獣種から得たものなんだよ」


「半分?」


「幻獣種の血肉を取り込んだ者以外にも、魔法が使える人間はいる……彼らの子孫さ」



 私が首を傾けると、魔女はそう説明した。


 なるほど。

 なら、私の答えは、正解というには足りなかったかもしれない。



「……なるほど。直接は食べてないけど、幻獣種の要素を、血を介して受け継いでる。そんな人間が居る、と」


「そうだよ。魔女とか魔法使いとか呼ばれているがね、正直ピンキリだよ。血が薄かったり、血が濃くても幻獣種の要素を受け継いでなかったり、受け継いでいても、当の幻獣種が弱くてたいした力を使えなかったりで、まともな魔法使いってのは少ない。その数少ない魔法使いでも、先祖がえりを起こしてオリジナルに近い力を持つ、稀なる者が、この陋巷の魔女、オールオール様さ」



 オールオールはゆり椅子の上でのけぞる。

 なんというかこの幼女、尊大だったり横柄に見せようとすればするほど、妙なかわいらしさを発揮してる気がする。



「――野良神様よ、あんたには、このオールオールをはるかに凌駕する魔法の力が備わってる。力がありすぎて、下手に練習もできんのがアレだが……そうさね、あんたの内側に意識を向けてみな? 偉大な力を感じるはずだよ」


「力を……はい」



 オールオールの言葉に従い、意識を内に向ける。

 するとたしかに、なにかとてつもない力が自分の中にあるのを感じる。



「非常時には、その力に意識を向けて、言葉を発しな。力は応えてくれるはずさね」



 その場で試そうとして、幼女と子猫に全力で止められた。

 もふもふふにふにで、なかなかいい感触でした。






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