外伝その9 いっしょにたべよう!
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目が覚めると、目の前にもこもこの塊があった。
まどろみのなかで、ぼんやりと考える。
……もこもこだ。ふかふかだ。やわらかそうだ……美味しそうだ。
「……いただきます」
かぷっと齧りついた、瞬間。
「のおおおおん!?」
と、やけに間延びした悲鳴が上がった。
◆
「ひどいでおじゃるひどいでおじゃるひどいでおじゃる!」
ペンギンさんが全力で抗議する。
「ごめん……だけど血は出てないし。甘噛みだったし」
「ちっとも甘くないでおじゃる! とっても痛かったでおじゃる!」
「ごめん……でもね、ペンギンさん。寝ぼけててね。夢うつつでね、目の前に美味しそうなお肉があったら……とりあえず齧りつくでしょ?」
「そんなわけないでおじゃーる! いっしょにしないでほしいでおじゃーる!」
ペンギンに理性について物申される女神様が居るらしい。
いや、私のことだけど。でも私の主張に間違いはない。悪かったとは思ってます。ごめんね。
「ほんとにごめん。こんどおいしいお魚御馳走するから」
「ほんとでおじゃるか!? ぐぁぐぁぐぁ!」
喜びのあまり野生化して踊るペンギンさん。
提案しておいてなんだけど、他神に理性を説いておいてそれはどうなんだと思わなくもない。
「おさかな! おさかな! 素晴らしきかな川の幸! でおじゃる!」
なんで川、と思ったけど、そういえばこのペンギンさん、YAMA育ちなんだった。
前世的には海か動物園で、海の魚を食べたことあるんだろうけど、幻獣化する前のこと、あんまり覚えてそうな感じじゃないし。
「んー、でも川かー。青の都市だとそっちがメインだったけど、アトランティエじゃ海の魚が多いし……ひさしぶりにそっちに行くのもいいかもね」
と、思い立ったら吉日。食べたくなってきたので、アルミラさんに断りを入れて、早速ライムングに向かうことにした。
「ギャワワワワ!?」というペンギンさんの悲鳴を聞きながら高速で飛ぶこと一時間ちょっと。青の都市の街並みが見えてきた。
「――タツキ殿! よく来てくれたのであーる!」
太守の館の庭に降り立つと、気配を察知したのか、ニワトリさんがトットット、と駆け出てきた。
「むむっ?」
「ほむ?」
ニワトリさんとペンギンさんの視線が交わる。
そして。
「コッコッコッコ――コケーッ!!」
「グァッグァッグァッグァ――グァーッ!」
共鳴するように、おたがい威嚇。
どこかで見た光景だ。おなじ鳥類なのになぜ仲良く出来ないのか。
「はーい、ふたりとも、仲良くねー」
むんずと両方の首根っこをつかんでつり下げる。
「コケッ!? しかしタツキ殿、こやつが!?」
「グァグァッ!? 止めないでほしいのでおじゃーる!?」
「――食べるよ?」
「はい! 余はいい子です! コケッ!」
「麿も雅を忘れたりはしないでおじゃーる! グァグァ!」
笑顔で諭すと、ふたりは声を揃えた。
◆
「さて、本日青の都市に来たのは、川魚を食べるためです!」
「コケッ!」
「グァグァ!」
場所は港から少し離れた大河クーのほとり。
私が先生口調で語ると、ペンギンさんとニワトリさんは直立姿勢で返事する。かわいい。
「太守さんに頼んで料理人も調理場も準備万端! あとは魚を漁るだけ!」
「自分で漁るのでおじゃるか!?」
私の言葉に、ペンギンさんが驚いた表情で尋ねてくる。
「うん。漁りたての新鮮なやつを食べたいからね!」
「だからといって自分で調達することはないのではないか? であーる! 人手を使えばよいのではないかと思います! コケッ!」
「うん。人手は使うよ……いや、この際は人手というのか鳥手というのか、はたまた手羽先というべきか……」
「……なんだかとっても嫌な予感がするのであーる!」
「ニワトリさん、ペンギンさん、私の故郷には鵜飼いって漁の仕方があってね?」
「ウ……カイ?」
「なんだか響きだけで不穏な感じがするのであーる!」
私の言葉になぜか怯えるふたり。
……ちゃんと説明した方がいいかな?
「えーと、鵜飼いっていうのは、鵜っていう鳥を使って魚を漁る方法でね? こう、鵜が、漁った魚を呑みこんじゃわないよう、喉のところを紐で縛って……」
「コケーッ!!」
「殺されるでおじゃーる!?」
身ぶりを交えて説明していると、二人は急に悲鳴をあげて逃げだした。
なぜいきなり悲鳴を上げたのか。
なぜ必死かつ全力で逃げ出したのか。
説明が足りないせいで、私がふたりを絞め殺そうとしていると誤解したんだと思い至る間に、ふたりはあっという間に港の方へ逃げ込んでしまった。
港はちょうど船がついたところだった。
タイミングが悪いというべきか、白船だ。
大河クーの貴婦人とも呼ばれる、ライムング自慢の魔力を帯びた大船。積める荷も多い。荷降ろしやら何やらでごった返す人の数も、通常より多い。
そこに幻獣ふたりが突っ込んだのだからたまらない。
しかもそのうちひとりは、この青の都市ライムングの守護神獣ドルドゥだ。一瞬のうちに、港は大騒ぎになってしまった。
――あ、やばい。
これ私が追ったらさらに大混乱になるやつだ。
放置したらしたで問題な気がするけど、先に誤解を解いとかないとふたりはやみくもに逃げて混乱に拍車をかけてしまう。
――ならどうする?
簡単だ。私たち幻獣は、習性として嘘をつかない。
ふたりを食べる気なんてないと言えば……言えば?
「……やばい。ふたりとも友達だし好きだし、間違っても殺す気なんてないけど……ちょっと食べたいかも」
いや、突っ込みどころ満載なのは自覚してるけど、ちょっと齧るくらいは……
しばし悩んで、ふと我に返って、気づく。
ニワトリさんとペンギンさんを、すっかり見失ってしまったことに。
結局、ふたりを落ち着かせて捕獲――合流するのに、半日ほどかかった。
◆
「――さあ、いろいろあったけど、魚も調達できました!」
太守の館、賓客をもてなす西の館で、私とニワトリさん、ペンギンさんは食卓を囲む。
「おっさかな! おっさかな! でおじゃる!」
ペンギンさんはうっきうきだ。
よっぽどお腹が空いてるのだろう。よく考えたら昼ごはんを食べそこなったのだから当たり前だ。そういえば発見した時、屋台で干し魚をもの欲しそうにじっと見てたねキミ。
「……けぷ」
一方ニワトリさんはなんだか満腹の様子だ。
こちらは発見した時、町の人から餌付け――もとい献上品の魚をその場で食べていたのだから、当たり前といえば当たり前か。こんちくしょう。
「コケッ!? なんだか寒気が!?」
「ダイジョウブ。リョウリ ガ アル カラ タベナイヨ」
お腹が空いているせいで多少言動が怪しいけど他意はない。
なのでそんなに怯えないでほしいんですけどニワトリさん。
「グァ! グァグァグァ!」
と、料理が運ばれてきたのを見て、ペンギンさんが歓喜の声をあげる。
川魚の塩焼きに蒸し焼き。
立派な鯉の煮つけやフライ。
果てはパイ包みや、なにやら魔力を帯びた皮ごと焼いたもの。
美味しそうな匂い。それだけで涎が溢れてくる。
やばい。これぜったい美味しいやつだ。空腹は最高の調味料とはいうけど、最高の調味料を加えた最高の料理だ。美味しくないはずがない。
「いただきますっ!」
幸せな気持ちで、料理に手をつける。
歓喜の声とともに、なぜか祝福があふれた。
……まあ迷惑かけたし、祝福のひとつやふたつ、いいよね?
ひとしきり、料理を堪能して。
その日はそのまま西の館でお泊まりした。
◆
次の日。
目が覚めると、目の前に白いもこもこの塊があった。
まどろみのなかで、ぼんやりと考える。
……もこもこだ。ふかふかだ。やわらかそうだ……美味しそうだ。
「……いただきます」
かぷっと齧りついた、瞬間。
「コッケェェェェェッ!!?」
と、けたたましい悲鳴が上がった。
あけましておめでとうございます!
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