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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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外伝その5 幼女と巫女とティータイム



 ――銀髪幼女が、金髪巨乳にもたれかかっている。ベッドの上で。



 アルミラの部屋を訪れ、そんな光景に出くわした女神タツキは、たっぷり数呼吸、扉を開いたままの姿勢で固まってから――叫んだ。



「たいへんだ! アルミラがオールオールちゃんに襲われてる!」


「ちがうわい!」



 廊下を駆け戻るタツキに、銀髪幼女が肉食獣のごとく飛びついてきた。



「わ、私まで襲う気だこの幼女!?」


「だから違うと言っとろうが! アルミラを診察してただけだよ!」



 動揺するタツキに、銀髪幼女は必死な表情で弁明する。

 しかし、タツキは驚愕したように冷や汗をうかべ、言った。



「お、お医者さんごっことはうらやまけしからん……!」


「ごっこじゃない! というか野良神様よ、いい加減あたしを幼女扱いするのはやめとくれ!」


「だって見た目完全に幼女だし……」


「それが見た目だけだってのは、他の魔女たちとも話してわかっとるだろうに!」


「正直リーリンちゃんだけはガチで幼女なんじゃないかって疑ってます」


「あたしも信じられないけどさ! ……いや、このままじゃろくでもないうわさ振りまくことになりそうだし、とにかく部屋に入っておくれ!」


「あーれー。さらわれるー」


「冗談でも止めとくれよ!?」



 棒読みで悲鳴を上げる女神タツキが、部屋の中へ引きずられるようにして入っていって、ぱたん、と、扉が閉められる。

 その光景を、呆然と見ていた侍女たちがどう思うかは、さておくとして。



「そういえば、アルミラを診てたって言うけど、どこか悪いの?」



 部屋に引きずり込まれたタツキは、床に寝ころんだまま尋ねる。

 銀髪幼女は深くため息をついた。



「なぜそれを最初に聞いてくれないんだい……」


「いや、あまりにも百合百合な光景だったのでつい……」


「ゆりゆり? ……アルミラのことだけど、経過を診てるだけだよ。素養があったとはいえ、野良神様の力を得て急激に変質したわけだからね。あの黄金色の髪が最たるものだけど」



 なるほど、とタツキはうなずいた。


 アルミラは、女神タツキの血から精製した丸薬を呑み、半ば人でないものへと変質した。

 名有りの魔女――半ば幻獣の域にある彼女達に近しい存在。黄金色に変わったアルミラの髪は、彼女がタツキの影響下にある、その証だ。



「オールオール様は、心配してくださってますが、わたくし自身は、とくに不都合は感じておりませんわ……強いて言えば、食事の量が増えたくらいでしょうか?」


「私の影響だ!」


「いや、そんな影響はないよ。この娘が食い意地張ってるのは昔からだし、単なる思い込みさね――だからほどほどにしておかないと、そのうち太るよ、アルミラ」



 銀髪幼女がばっさりと切って捨てる。



「もう! オールオール様は意地悪ですわ!」



 抗議のためか、アルミラはベッドに両掌を落とす。



「たゆん……」



 視線を上下させるタツキに、銀髪幼女が目を眇める。

 それに気づいたタツキは、幼女に菩薩の微笑みを返した。



「……私はバランス理論の人なので、体型相応というのはいいことだと思いますよ?」


「あたしは自分の胸に劣等感コンプレックスを抱いてるわけじゃないからね!?」



 あんまりな誤解に、銀髪幼女は猛烈に抗議した。



「――というか、いい加減床に寝転がりっぱなしはやめておくれ、野良神様よ」


「はーい!」



 ようやくの突っ込みに、タツキはうれしそうに返事して飛び起きる。

 ついでに勝利ニケのポーズを取ったが、いつも通りの奇行なので、誰も突っ込まなかった。



「ついでに、みんなでおやつの時間にしない? よく考えたら、そのために来たんだった」


「そうでしたの……では、なにか用意してもらいましょう」



 アルミラがぱたぱたと部屋を出ていく。

 部屋には黄金色の髪の女神と銀髪幼女が残された。



「でもホントは、アルミラみたいな体型がちょっとうらやましかったりするんだよね?」


「いいかげんあたしに妙な属性を張りつけようとするのはやめとくれ……」



 笑顔で押しつけてくるタツキに、オールオールは疲れたようにため息をついた。







 焼きたての、色とりどりの焼き菓子と、淡い魔力のこもった香草茶。

 テーブルに並べられたそれを囲むと、タツキは小さな歓声をあげて焼き菓子に手を伸ばした。こっそりとアルミラもそれに続いている。


 美味しそうに焼き菓子を貪る二人。

 その様はナッツを前にしたハムスターのごとし。

 銀髪幼女はため息をつきながら、香草茶に口をつけた。



「んぐっ――やっぱり作りたての美味しさはヤバい……」


「ですわー」



 香草茶で渇いた喉を潤すと、タツキとアルミラは二人してゆるゆるの笑顔になる。



「まったく、二人とも、あきれた食欲だね……」



 銀髪幼女があきれたようにつぶやいた。

 大皿に盛られていた焼き菓子の、半分近くが二人の腹に収まっている。



「まだまだですわー」


「いいかげんにしないと、本当に太るよ」


「ふ、太りませんわよ!? 食べた以上には動いておりますし! タツキさんの巫女ですし!」


「ありもしない加護に縋ってる時点で手遅れな気もするけどね」


「はうっ! ですわ!」



 銀髪幼女のド正論に、アルミラは小さな悲鳴を上げてのけぞった。強調されたその胸は豊満だった。



「エレインくんは痩せたのに」


「あっちはあっちで自業自得だけどね」



 タツキがつぶやきくと、幼女がこちらも切って捨てる。

 アルミラに振られて絶賛死亡中の、アトランティエの若き王は、その心労から満足に食事も取れず、やつれて来ている。



「エレインのくせになまいきですわー」



 ノックアウトされていたアルミラが、小さく呪詛の声をあげた。



「なんという理不尽な姉」


「……まあ、姉ってのはそういうもんだろうさ」


「おや、なにやら身につまされた様子」



 妙なところで鋭いタツキの言葉に、銀髪幼女は苦笑を浮かべた。



「……ま、長生きしてきたあたしにも、幼いころってのはあってね。姉のような人も居たのさ」


「へえ……どんな人かって聞いていい?」


「そうだね……やんちゃで、世話好きで、曲がったことを許さない。そんな人だったかね。あたしの見た目が幼女こうだからね。いらないと言っても無理やり親切を押しつけてきて、でもそれが不快じゃなかった……」



 好ましいものを思い出すように、銀髪の魔女の表情が緩む。

 その、表情のまま。彼女の口は、ひとりの女性の名を紡ぐ。



「――神竜アトランティエの初代巫女、アリエル。それがあの人の名さ」


「オールオール様!? は、初耳ですわよ!?」


「言ってなかったからね」



 がばっと復活したアルミラが詰め寄るが、銀髪幼女はしれっと返す。



「なんで教えて下さらなかったんですか!」


「こちとら王族に隔意あって陋巷ひんみんがいに引きこもってる身だからね。王室に嫁ぐ巫女のあんたに、あんまり共感されても困ると思ったのさね」



「理不尽ですわ」と抗議するアルミラ、のらりくらりと躱す幼女。

 そんな二人を見ながら。



「ああ、だから……」



 タツキは、いろんなことに納得がいった。


 彼女が、なぜ水の都に執着しているのか。

 彼女が、なぜこの地に住まう人々を愛しているのか。


 彼女にとって姉に等しい女性が愛したものだからだと、容易に共感できた。

 その女性が死んでからも、この地に縋りついている彼女の想いが、容易に想像できた。



 ――きっとそれは、未来の私自身の姿なんだから。



 言い合う二人に笑顔を向けながら。

 タツキは過去と未来に、静かに思いを馳せた。



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