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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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外伝その1 王様を励まそう



 水の都アトランティエ。

 アトランティエ王国の都たる、西部最大の巨大水運都市。

 守護神竜アトランティエの怒りに触れ、中核区域が崩壊してから、すでに一年近く。

 市街の復興を優先したため、後回しになっていた王宮の再建も始まって、水の都は往事の姿と繁栄を取り戻そうとしている。


 さて、そんな水の都の一角、とある有力貴族の別邸の片隅で、ひとりの青年がうなり声を上げていた。



「ああああああ……」



 うなりながら机に突っ伏す、見るも哀れな青年の名は、エレイン・ランドルホフ。

 15歳の若さで西方の雄、アトランティエ王国の王座にある、金髪の美丈夫だ。



「ああああああ……」



 机の上には、書類の山が積み上がっているが、エレインの手は一切動いていない。

 そのことに対して、ちょっぴり危機感を覚えながら、女神タツキは少年の姿を黙って見守る。眠れるファラオのポーズで。



「……」


「ああああああ……」



 この状態が良くないことは、タツキもわかっている。

 しかし同時に、青年の気持ちも痛いほどよくわかるのだ。わりと自業自得だけど。


 うなる国王と見守る女神。

 そんな状態が、かなり長く続いたあと。


 ふいに、何者かが部屋の扉を叩いた。

 返事も聞かずに入ってきたのは、ボサボサ髪で、目つきの悪いチンピラめいた青年だ。



「よう――と、まだヘコんでるのかよ……」



 青年――ホルクは、エレインの姿を見ると、ため息をついた。

 エレインがまだ王族と認められておらず、神殿に預けられていたころからの腐れ縁で、だからだろう。王となった現在も遠慮がない。



「チンピラさん、ちょうどよかった」


「おい待てあんた、チンピラさんってなんだチンピラさんって」


「ホルクさん、ちょうどよかった」


「言いなおしても聞き逃せねえよ!? 別にあんたが頭の中でオレをどう呼ぼうがかまわねぇが、最低限外面くらいは繕ってくれよ女神様だろぉ!?」



 猛抗議するホルクに、女神様はにっこりと笑って勝利ニケのポーズを返した。ポーズに意味はない。そして抗議しても無理だ。うっかりはいつでも女神様について回る。内心チンピラって呼ぶのを訂正する気はないってことだけど。



「ちょうどよかった。エレインくん、今日も朝からこんな感じなんだけど、なんとかならないかな?」



 言って、タツキは微笑んだ。

 万人が見惚れる極上の微笑みに、ホルクは押し黙った。

 抗議しても無駄だと悟っただけとも言う。



「自業自得だろ? ……と言うには、チトかわいそうか」


「うんうん。金髪アルミラさんの破壊力はヤバい。尊い」



 ホルクの言葉に、タツキは激しく同意した。


 女神タツキの巫女、アルミラは、ホルクとエレインの、共通の幼馴染だ。

 幼いエレインにとっては姉のような存在で、親身になって世話を焼いていた。


 そんな彼女が、数日前、黄金色の髪になって帰って来た。

 女神タツキの血を精製した丸薬を呑み、変異したからであって、別に染めたわけじゃない。

 だが、黄金色に輝く髪は神々しいまでに美しく、そのうえアルミラはもともと文句なしに美少女である。しかもたゆん。衝動的に告白させるだけの暴力的魅力が、彼女にはあった。



「反則だぜ……髪の輝きで下半分・・・がくっきりと影になってんだよ」


「ものすごく……強調されてました」



 なんのことかはあえて言うまい。



「だいたい、金髪ってのがいけねえ。どだい男ってのは金髪に弱えもんだ」


「私も金髪だけど。アルミラとおそろいのゴールデンカラー」


「おいやめろよ。あんたにとっちゃあ素朴な疑問なんだろうが、アルミラの嬢ちゃんあたりに聞かれたら、オレまで大惨事になりそうな質問だからなそれ!?」


「解せぬ」


「解せよ! 自衛しなきゃならん身にもなってみろよ! それに話しかける時いちいち近いんだよ! アルミラの嬢ちゃんとかリディの小せえ嬢ちゃんとか、地味にすっげーにらんで来るんだからな! あと聞き流すんなら聞き流していいから変なポーズ取るのやめろよ!」


「静かなるファラオのポーズ、だめなの?」


「なんだよ静かなるファラオのポーズって!? というかなんだよファラオって!?」


「……現人神あらひとがみ的な王様? 永遠に眠ってる系の」


「死んでるじゃねーか!?」


「死んでる人のポーズです! ミイラだけど!」


「なんでそんな縁起でもねえポーズ取るんだよ!?」


「情熱の発露なので!」



 ホルクの抗議に、胸を張って答える女神様。その胸はなだらかだった。



「……もういい。話が進まねえ」



 疲れたように、ホルクが肩を落とす。

 抗議する無駄を悟っただけとも言う。



「えーと、なんの話してたっけ? いっしょにロザンさんのお店に行こうって話だっけ?」


「そんな話ひとかけらもしてねえよ誘うならアルミラの嬢ちゃんにしろよいちいちオレを巻き込むなよっ!!」


「じゃあ、たまにはエレインくんを誘ってみようかな?」


「コイツを励ますんじゃなかったのかよ追い打ちにしかならねえよ!?」



「解せぬ」と、タツキは小首をかしげる。



「美味しい料理じゃ励みにならない?」


「……自分を差し置いて、とかいってアルミラの嬢ちゃんがよけいに怒るんだよ。励ますんなら、嬢ちゃんを怒らせない方法で考えてやってくれ――いや、考えるな。そっとしてやってくれ悲惨な未来しか想像できねえ」


「でも、このままじゃ国の運営に支障出るし。というかもう出てるし」


「ほんとにな。こいつも、思ってる分にゃ構わねえのに、なんで口に出して言っちまったんだか」


「ほんとにね」



 ホルクの視線が全力で「お前が言うな」と語っていたが、女神様はどこ吹く風だ。というか気づいてない。



「でも、アルミラさんの機嫌を取る方法かあ……」


「いや、小細工するんじゃなくてだな……あんたが取り成してくれりゃ一発じゃねえか?」


「いや、アルミラさん、今回は本気で怒っちゃってて、何度か言ったんだけど、それだけは聞いてくれないんだ」


「マジか……あぶねえ……」



 なにが危なかったのかは言わぬが花だ。

 まあホルクも紙一重だったのだろう。恐るべきは金髪たゆんである。



「ああああああ……」



 机に突っ伏しうなる青年王に視線をやって、二人は同時にため息をつく。



「エレインくんには、せめて政務が執れる程度には復活してもらわないと」


「まあ、それだな。アルミラの嬢ちゃんのことは、まあ根気よく謝り続けるしかねえとして、こいつには早く復帰してもらわねえとな」



 とはいえ、その方法が思いつかないから困っているのだ。



「……ホルクさん、経験上、こういう時に元気出すにはどうしたらいい?」


「いや、まず自分で立ち直ろうって気を起こさねえことには、どうしようもねえんだが……まあ、酒飲んで騒いで女――たっぷりと寝れば、それなりに元気が出るんじゃねえか? コイツここ数日ろくに寝てねえだろ?」


「ああ、たしかに。無理に政務執ろうとして、かえってなにも手についてないみたいだし、一度ぐっすり寝るのがいいのかも――そうだ! 適任者がいた!」


「……オイ、いやな予感しかしねえぞ……」



 ホルクの言葉もどこ吹く風。

 善は急げと部屋の窓を開くと、女神様はあっというまに空に舞い上がった。







「――と、言うわけで、連れてきたよ! ふっかふかの羽毛布団!」


「コケッ! 我が盟友タツキ殿の頼みとあらば、余は一肌でも二肌でも脱ぐぞ! であーる!」


「冗談かよライムングの神鳥様じゃねーかっ!?」



 半日後、タツキが抱えてきた毛玉のようなニワトリの姿に、ホルクは全力で突っ込んだ。



ふかふか羽毛布団でぐっすり眠れたせいか、政務が執れる程度には回復した模様。

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