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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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116/125

その116(終) みんなでいっしょにお食事しよう



「みんなまだかなー」



 鼻歌を歌いながら、石造りのテーブルのまわりを回る。

 テーブルの中央には、魔力を吸ってだろう。白い光を帯びた花が活けられていて、見るだけで楽しい気分になってくる。


 ダビデ! ロダン! ファラオ――からのニケ!



「落ち着いてくださいまし、タツキさん」



 はい、大人しくしときます。

 アルミラに注意されて、一番奥の椅子――自分の席にちょこんと座る。


 石造りの空間。

 天井は高く、それを支えるのも、装飾の施された石柱だ。

 その中央に四角い石のテーブルがでん、と鎮座していて、テーブルやその周りには、灯明のように白く光る花が活けられてる。

 いつもなら川のせせらぎ、それか波の音くらいしか聞こえないけど、今日は心が躍るような音楽が流れてる。思わず鼻歌を歌いたくなるような。


 くん、と鼻を鳴らす。

 一足先に佳境に入ってるのか、奥の方からものすごくいい匂いが漂ってくる。


 みんなまだかな……はあはあ。

 もの欲しげに振り向くと、給仕さんとリディちゃんが、もの欲しげな感じでこっち見てる。

 リディちゃんは作業の途中だったのか、蓋のされた大皿を抱えてる。そしてその料理を狙って、ペンギンさんが背伸びしてる。



「はわっ! す、すみません! 女神様の表情に見入っちゃってて――料理はもうすこしお待ちくださいね!」


「いや、気にしないでいいよ。でも給仕さんはちゃんと働いてください。ペンギンさんはつまみ食いするな齧るよ」


「麿だけ厳し過ぎないでおじゃるか!?」



 リディちゃんは子供だけど給仕さんはいい年の大人だし、ペンギンさんにいたっては、つまみ食いとかふざけたことしてるのが悪いんですよ。







 大山脈から帰ってきて、半年が経った。

 ローデシア王も決まって守護女神お披露目式も無事終わり、しばらくは三大国を転々としてたんだけど、西部諸邦の政情もだいぶ安定してきた。


 そして、大山脈で回収した幻獣たち。

 アトランティエに戻った時、ロザンさんに預けてたんだけど、その料理の工夫がついに出来た。

 新たに10近い幻獣料理が味わえるのだ。これは大々的にお祭り騒ぎにするしかないって決めて、各国から親しい人間を呼び寄せたのだ。


 みんなすでに水の都アトランティエには入ってて、あとはこの神殿に集まるだけ、なんだけど。



「――おや、あたしが一番乗りだったかい」



 最初にやってきたのは、幼い姿の銀髪少女――陋巷の魔女オールオールちゃんだ。

 大山脈で、異世界との繋がりを研究してくれてるから、地味に一番遠くから来てる。


 黄金竜の神域一帯から、西部に繋がるルートは、あらたに祝福して安全を確保した。

 そんなに広い範囲じゃないけど、それでも魔力を根こそぎ持ってかれるあたり、地脈の集積地は伊達じゃないです。



「オールオール様。遠方より来ていただいてありがとうございますわ」


「なになに。野良神様やアルミラの頼みじゃ仕方ないさ」



 アルミラの言葉に、相好を崩すオールオール。

 この子に会いたい一心で来たのが見え見えですこの孫馬鹿幼女。



「タツキ殿、お待たせしてすみません」


「よお、来たぜ……っと、まだ婆さんだけか――シビビビビッ!?」



 続いてやってきたのはアトランティエ王エレインくんと、チンピラのホルクさん。

 ホルクさんは来て早々オールオールちゃんの電撃を喰らってぶっ倒れちゃったけど、たぶん自業自得だと思います。



「大丈夫ですの?」



 ぶっ倒れたチンピラに、アルミラがちょっと心配そうに声をかける。

 エレインくんには視線もくれない。



「姉貴――」


「あら王様、御機嫌麗しゅう。間もなく皆到着いたしますので、お席でお待ちくださいまし」



 エレインくんは泣きそうだ。

 まあ、それも、実は自業自得な事情がある。

 私印の丸薬を呑んで黄金色の髪になったアルミラさんを見たエレインくんは、なにを血迷ったのか、いきなりプロポーズをかましたのだ。


 まあ、エレインくんは元からアルミラに好意を持ってたわけだし、私のために勇者になったり大山脈に特攻したりと、いろいろと無茶をする彼女に、この機会に想いを伝えたかったのかもしれない。


 だけど客観的に見て、きっかけが金髪化とかどう考えてもアウトでしょ。

 そりゃアルミラさん激怒するわ。そんなに金髪が好きですか私も好きです。なのでアルミラさんは渡しません。



「タツキ様、おひさしぶりです」



 しょんぼりと席に着くエレインくんを見てると、ユリシスの一行がやってきた。

 ユリシス王――ユミスくんに続いて、ユリシスの双璧、マクシムス家の牙の魔女、トゥーシアさん、娘で私の友達の、女勇者ファビアさん。そして双璧のもう一方、マルケルス家からは、当主の娘、クラウディアさん(百合っ娘)が来てくれた。



「王様、みんな、来てくれてありがとう」



 インチキおじさんは来てない。

 王と双璧が一度に国を空けるわけにはいかないから、留守を引きうけたみたい。王大好きなインチキおじさんらしいと思う。

 かわりにトゥーシアさんが来てくれたのが、地味にうれしかったり。



「女神様、今日はお招きいただきありがとうございます」


「ファビアさんも、来てくれてありがとう。どうしてもみんなで食事したくてさ。ファビアさんには絶対来てほしかったんだ」



 友達だからね、というと、ファビアさんはなにやら感動してる様子。



「女神様……光栄です」



 うん、百合っ娘ちゃん、別に取る気は無いから病んだ瞳で見つめてくるのは止めてください。神様だって怖いんですよ!


 一通り挨拶をすませると、また来客を告げる声。

 やってきたのは、青の都市ライムングの太守代理にしてリディちゃんの父親、マルコイさんだ。

 そしてマルコイさんが抱えてるのは、長い尾羽を持つ、凛々しい目つきのニワトリ――神鳥ドルドゥだ。



「女神様、此度のお招きに感謝を。我らが守護神鳥ドルドゥ様をお連れいたしました」


「タツキ殿、会えてうれしいのであーる! コケーッ!」



 マルコイさんが四角い頭を下げると、ニワトリさんが羽根をばたつかせて再会を喜んだ。私も会えてうれしいです。


 と。



「むむっ!?」


「ほむ?」



 ふたつの視線が交わる。

 ちょうど奥から出てきたペンギンさんと視線が合ったのだ。

 ニワトリとペンギン、ふたりの鳥類が邂逅する。その、結果。



「コッコッコッコ――コケーッ!!」


「グァッグァッグァッグァ――グァーッ!」



 共鳴した。

 なんだこの現象。



「二人とも、食事の席では大人しくね。じゃないと齧るよ」


「――はいである!」


「――おじゃ!」



 注意すると、ふたりは直立不動で大人しくなった。よしよし。



「女神様、どうかお手柔らかに……」



 マルコイさんが、冷や汗かきながらふたりをかばう。

 なんというか、ニワトリさんとペンギンさんがキラキラした目でマルコイさんに縋ってる。なんだこの動物パラダイス。







 ニワトリさんたちが来て、席はほとんど埋まった。

 残る席は四つ。そのうちふたつは、給仕をしてくれてるリディちゃんとペンギンさんのものだから、招待して来てないのはあと二人。



「――来たのだーっ!!」



 と、最後のお客様が、元気な声を上げてやってきた。

 着慣れない感じの赤いドレスを着た、赤髪をお下げにした幼女――槌の魔女リーリン。

 黒いドレスを見事に着こなし、隣の赤髪幼女をフォローしている、黒髪の少女――影の魔女シェリル。



「女神様! 女神様! ひさしぶりなのだ! 御馳走と幻獣の素材がリーリンを待ってるのだ!」


「女神様、お招きいただきありがとうございます」


「リーリンちゃん、来てくれてありがとう。シェリル、忙しい時に呼んじゃってごめんね」


「いえ、新たな王も、腰が定まってきたところです。わたしの不在にも、慣れてもらわなくてはいけませんし、いい機会です」



 シェリルはそう言って微笑んだ。

 常人並の寿命しかなくなったシェリルは、政務を次代、次々代に引き継がせる準備を、着々と進めているのだ。


 さて、これで全員がそろった。

 そのことを、給仕さんあたりが告げたのだろう。

 奥の厨房から、満を持してクレイジーコック――ロザンさんがやってきた。

 ロザン?さん?みたいな外見――いやもうすでに竜人めいた外見になってるけど、ロザンさんは平常運転だ。



「さあ、みんなそろったな! 料理を運ばせてもらうぜ!」



 神様とか王様とか魔女とかがそろってる場所で、あたり前だけどロザンさんはぜんぜん物怖じしてない。

 いや、魔力持ちのこいつらに料理食べさせて幻獣、魔獣料理をさらに究極に近づけてやるくらいは絶対思ってる。そこに惚れるし憧れる。ロザンさん素敵。



「さあ――」



 料理が、つぎつぎとテーブルに並んでいく。

 私の前に並ぶのは、各種ドラゴンの肉の盛り合わせに唐揚げ、ムニエル、ローストビーフ、焙烙焼き、刺身など、幻獣料理のラッシュだ。黒竜もステーキになってる。テンションあがる!



「ほかの料理にも、変異を起こさない程度に希釈した幻獣の出汁を利かせて整えて・・・ある。今日は楽しみな」



 ロザンさんマジで実験する気だ!

 まあみんな強い魔力持ちだから大丈夫だろうけど……というかロザンさんが食べる人が困るような料理を作るはずないから絶対大丈夫だけど。たぶん自分の体で実験してるし。


 そうこうしてるうちに、テーブルに料理が並びきった。

 以前やった満漢全席方式だ。まあ、私のゾーンの食べ物に手を出すと死ぬけど。

 少量ならアルミラも大丈夫だけど、ニワトリさんは地属性のに当たったらヤバそうなので大人しく他のを食べといてください。ペンギンさんは、自分の体で実験してみるなら止めないけど、やめといた方がいいと思います。



「さあ、みんな、今日はよく来てくれたね」



 料理がそろったので、私は立ち上がってみんなに挨拶する。

 給仕さんがてきぱきと、みんなの杯にお酒とジュースを満たしていく。



「この一年。本当にいろんなことがあったね。多くの人が死んで、三大国みんなしっちゃかめっちゃかになった。でも、みんなが必死で頑張ってくれたから、ギリギリで踏みとどまれた」



 私も、それなりに力になれたと思う。

 でも、私は異邦人だった。この世界のことをなんにも知らない、野良の神様だった。


 アルミラが、エレインくんが、ここに居るみんなが、自分の愛する国を守ろうと戦わなかったら、私は戦乱の世を、ただ見ているだけだったかもしれない。


 だけど、そうはならなかった。


 三大国の守護女神。

 人の姿を持ち、人の意志を持つ私がその地位に着いたことで、国という形がどう変質するのかはわからない。

 ひょっとしたら、戴くは神にして王の中の王、君臨すれども統治せず、みたいな、変な形の連邦国家が出来ちゃうのかもしれない。


 そんなことを考えながら、私は言葉を続ける。



「これは、みんなで勝ち取った平和だよ……だから、みんなで食事を楽しもう。いっしょに楽しめることを喜ぼう……この喜びが、ずっと続くことを祈って――」



「乾杯」と、声を上げる。

 皆が続いて、杯を空けていく。


 それから、料理に手をつけて。

 あまりの美味しさに、歓声を上げながら、隣を見る。

 隣では、アルミラが、似たような様子でこちらを見ていた。



「美味しいね」


「本当ですわ」



「料理は心だ」ってロザンさんは言った。

 気分良く食べる料理は、同じ味でも格段に美味しく感じると。


 本当にそのとおりだ。

 アルミラが、なによりも大切な友達が、側に居る。

 同じ料理を楽しんで、感動を共有している……最高だ。



「タツキさん、つぎはなにをお取りしましょう?」



 アルミラが尋ねてくる。



「えーと、じゃあ――」



 笑顔で、子供のように、私はその言葉を口にする。



「ドラゴンさんのお肉が食べたい!」


「ドラゴンさんのお肉をたべたい」、完結です!

最後までおつき合いいただいて、ありがとうございます!

楽しんでいただけたなら、励みになりますので、下の項目から応援していただけるとうれしいですっ!

感想、評価、また応援していただいた皆様、本当に、心の底からの感謝を!


本編で語りきれなかった部分 (オールオールがらみとか)に関しましては、外伝での補完を考えております。準備が出来ましたら投稿させていただきますので、あわせておつき合いいだたければ幸いです!

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