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ドラゴンさんのお肉をたべたい  作者: 寛喜堂秀介


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108/125

その108 一難去ったその後で



 さて、一難去って一休み……と、いきたいとこだったけど、さすがにこの状況で休める気がしない。

 とりあえず、消耗しまくった魔力を回復するため、ネックレスに口をつけ、水竜の甘露をごくごくと飲む。



 ――薄い。



 そう感じるのは、それくらい魔力を消耗したからだろうか。

 このままじゃ全部飲み尽くしちゃうかもしれないし、今度は赤の神牛ガーランのブロック肉を取り出し、かぶりつく。


 噛むと、じゅわっと肉汁があふれてくる。

 天然のレアステーキ。震えるほどの美味さとともに、魔力がみなぎってくる。



「っふう……」


「た、タツキさん?」


「よし、全快!」



 くるりと振り返り、笑う。

 なんというか、みんな地獄でも見たような顔をしてる。

 まあ当然か。あんなしろものを見せられたんだ。むしろその程度で済んで僥倖だ。


 普通の人間なら、本気で死んでたかもしれない。

 あの、悪意に満ちた意志を、ただ向けられただけで。



「みんな、大丈夫そうでよかった」


「タツキさんのおかげですわ」



 アルミラが、ほっと息をつく。

 意外にもアルミラが一番大丈夫そうで、魔女二人の方は、まだショックから立ち直れてなさそうだ。



「えーと、二人とも、大丈夫」


「……ええ。ありがとうございます、女神様」



 声をかけると、影の魔女シェリルは、はっと我に帰り、頭を下げた。

 もう一方、槌の魔女リーリンちゃんのほうは、まだプルプルと震えてる。



「……姉様、ご無事ですか? しっかりしてください」



 シェリルが声をかけると、赤髪幼女はちょっと涙目になって言った。



「……もれちゃったのだ」



 気まずい沈黙が流れた。


 ……うん。

 よく見れば、へたり込んだリーリンちゃんのお尻の下に水たまりが出来てますね。


 まあ、あのレベルのドラゴンに敵意を向けられたら、チビるのもわかる。

 とくにリーリンちゃんは、相手の強さを察知する能力が高いのだから、おもらししても仕方ない。


 どう励ましたものか迷っていると。



「……姉様」



 妹のシェリルが、姉に対して優しく声をかけた。



「うー、シェリル……ごめんなさいなのだ……」


「謝ることなんてありません、姉様。仕方ありません。あれほど恐ろしい存在を目の当たりにすれば、常人なら魂すら砕かれていたことでしょう」


「シェリル……」


「さ、姉様。女神様の前で、いつまでもそんな格好で居るわけにも参りません。携帯ハウスでお着替えっ――するのだわ」



 だわ?



「わかったのだ! 着替えるのだ! ちょっと待つのだ。携帯工房に――」


「その心配は無用だ、です姉様。万一の時に備えて携帯ハウスには姉様用のお着替えがたくさん入っているのだわ! さあさあ姉様、は、はやくヌギヌギするのだわ!」


「待つのだシェリル! ハウスに! ハウスに入ってからにしてほしいのだ!」


「女神様、申し訳ありません。姉のお着替えを手伝いますのでしばしお時間をいただきます」



 必死な幼女に続き、だめな感じの妹が、ぺこりと頭を下げてハウスにインしていった。


 えーと。

 リーリンちゃんご愁傷様です。







 とりあえず魔女姉妹が携帯ハウスに入っちゃったので、どうしたものかと考える。

 なんとなくだけど、二人が出てくるのに少し時間がかかる気がする。着替えを手早く済ますなんて発想は、いまのシェリルには、ないに違いない。



「野良神様よ、無事なようでなによりだけど……こっちは音しかきこえなかったんだ。だいたい察しはつくけど、説明してもらえればありがたいんだけどね」



 と、通信羽根から声。

 そういえば、開局しっぱなしだったか。



「オニキスが馬鹿みたいに強い竜になった。で、トンデモない吐息ブレス吐いてきたから全力で防いだら逃げてった感じ」


「あの轟音は吐息ブレスだったかい……しかし、野良神様よ。あんた様が全力を出さねば防げぬとは……」


「ああ、とんでもない強さだった。それに、変な魔法も使ってた。あいつ、自分の影に潜って逃げてったんだ」


「ふむ、影に……? 影伝い……ではあるまい。生まれてすぐに影渡りを使いこなしてるとは……いや……」



 なにやら考え込んでいるのか、羽根からは唸り声しか聞こえなくなる。


 たぶん、得た情報からいろいろな可能性を脳内でシミュレートしてるんだろう。


 前置きなしに放置されても困るけど、まああの幼女の性分だ。仕方ない。

 苦笑しながらアルミラの方を見ると、彼女も同じような苦笑を浮かべていた。


 それが妙におかしくて、笑い声をあげかけた、そのとき。



 ――異様な感覚が、襲ってきた。



 体の一部に、どす黒いなにかが触れた感触。

 同時に、頭の中に、光に満ちた絵図面が浮かぶ。



「タツキさん?」


「……ごめん。もう大丈夫」



 心配げに問いかけてくるアルミラに、笑顔を返す。

 異様な感覚は一瞬だけだった。すでにその痕跡もない。

 それが、なにを原因にするものか、おぼろげながら察したけど、確信が無い。


 なので、くわしい人間に聞くことにする。



「オールオール、オールオール……というか、エレインくん、オールオールちゃんを現実世界に戻してくれないかな?」



 声をかけると、しばらく羽根の向こうでなにやらどたばたと聞こえてくる。



「……野良神様よ、すこしは落ち着いて考えさせてくれないかね」



 ややあって、銀髪幼女が羽根越しに話しかけてきた。



「エレインくんは?」


「床の上で寝てるよ。ここぞとばかりに掴みかかってきたんでね、電撃をお見舞いしてやった。意識はあるからなにかあるなら遠慮なく言っとくれ」


「なにやってんの国王様……」


「帰ったらお説教ですわ」



 私があきれてると、アルミラさんが、なにかを決心したようにぎゅっと拳を握った。

 いや、エレインくんの方でも、アルミラさんには言いたいことがいっぱいあると思います……まあ、私も人のこと言えないけど。


 おっと、忘れるとこだった。



「オールオール、いま、黒いなにかに触れられたような感覚があった。同時に、なんとなく絵図面が思い浮かんだ。地図だ。場所は、青の都市ライムングの北東」


「その言葉で確信したよ。起こった現象も説明できる……野良神様よ、あんた様は、アトランティエの地を祝福した。そのことで、アトランティエ全土が、いわば縄張りになった。だから邪悪な“力ある者”の侵入を感知できたんだろうよ」



 その考察は、私の推測といっしょだ。

 だから、一瞬だけ感知した対象を、捕捉外――おそらくはローデシア国内に逃がしてしまった。



「あんた様が感知したのは、おそらくオニキスだ。あれは地脈を通って南に逃れ……あんた様の縄張りに触れて、あわてて地上に逃れた、ってとこだろうよ」


「地脈? というか、あれがオニキスだったとしたら、移動速度、馬鹿みたいに速くない?」


「実際に感知したのは、彼女の意志が地脈を伝播したものだろうよ」



 私の疑問に、オールオールは答える。



「地脈は地中を走る魔力の通り道、と思えばいい。淡い魔力が流れているから、そこを通る者の意志は、驚くほど早く伝播するんだよ……もちろん、明確な意識というより、色彩に近い程度のものだけど」



 地脈の概念は、たしかあっちの世界でもあった。

 そこを流れてるエネルギー的ななにかが、こっちでは魔力ってことか。

 そういえば地脈って竜脈とも言ってた気がする。いや、だからなんだって話だけど。



「言っとくけど、あんた様じゃ真似できないよ。あれは生まれたての――魔法に近い状態の幻獣だから許される一発芸みたいなものさ。移動も自在じゃない。地脈が地上に顔を出す、限られた霊地にしか出られないんだよ」


「じゃあ、オニキスは、まだローデシアに居る……この地を祝福すれば、場所を捕捉できるってこと?」



 まあ、これは国王代理のシェリルさんに許可貰わないといけないだろうけど、たぶんいける。



「たぶんね。でも、じきに捕捉できなくなるよ」


「なぜ?」



 断言する銀髪幼女に、私は理由を問う。



「なぜなら」



 陋巷の魔女オールオールは答える。



「――なぜなら、野良神様たちへの恨みはすでに漱がれた。加えて、あれはあんた様から逃げようとしている――だったら、目指す先は、あれがもっとも恨みを持つ地に違いない」


「それは……?」



 魔女オニキスがもっとも恨みを持つ地。

 それは、この西部諸邦じゃない。彼女が何度も死んで、何度も絶望して、最愛の人すら失った地。



「西の地脈の果て、大山脈の向こう――大陸中央部さ……もっとも、大山脈を越えるのは、あれとて容易ではないがね」



 つけ加えて、オールオールは息をついた。






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