過去編 そのいち 「絶対絶命!?」
―――私は、周りから見れば、普通の中学2年生に見えるかもしれない。
でも、私は一つ、すごく気にしていることがあった。
「お父さん、今日も帰ってこないの?」
「そうね…今日はお父さんの誕生日だって言うのに・・・。」
私のお父さんは、人とは違った仕事をしていた。
「・・・ねえ、その、「極道」っていうのはさ・・・恐い所なの?
お父さんはそんなところに行くために、今日も帰ってこれないの?」
「ごめんね陽菜乃・・・。私が選ぶべき人を間違えて・・・。」
―――極道。反社会組織の組員である父は、家に帰ることは少なく、
1週間に1回顔を見る程度のものであり、父が向こうでどういった活動
をしているのかさえ私は知らなかった。
・・・ある日のことだった。
学校が終わると池袋の街を歩いて周り、日が暮れたら帰る。それが
日課のようになっていた。
今日もいつものように一人街を周り、時刻は流れ夜の7時。
そろそろ家へ帰らねばと思い、帰路の途中にある大通りにまたがる
歩道橋に上った。―――その時だった。
「このクソガキがぁぁぁぁぁ!!!」
一人の男が、ナイフを持って突進してきたのだ。
状況の判断はできないものの、本能が体を瞬時に突き動かし、
何とかナイフをかわすことができた。
突然置かされた状況にまったく理解のできないまま向き直り、
自分に刃を向けた人物をしっかりと目に焼き付ける。
男は30代くらいだろうか・・・?そしてなぜか
顔や長袖のパーカーから覗く手首には、痣や切り傷、擦り傷の
ようなものが見える。
それに、膝やナイフを持つ手も震えている。
自分でも不思議なくらい冷静な判断が取れていた。だが
緊迫した状況そのものは変わらない。
「死ねえええっ!」
再び男が突進してくる。まずい、逃げられない!誰かっ・・・!
陽菜乃は恐怖に震えながら、人生で初めて「死」を覚悟したのだった。
―――刹那。
「うっ・・・!」
男はバランスを崩してナイフを落とし、口から血を吐きながら
陽菜乃の前に倒れた。
「あ、あなたは・・・あなたはいったい何なんですか!?」
突然の出来事に大きな恐怖を覚えたが、目の前の男が
倒れ、「もう攻撃はしてこないだろう」と判断したことで
心の中に「怒り」という感情が生まれる余裕が生まれた。
「お前の・・・お前の親父のせいだ・・・。絶対にっ・・・
許さねぇっ・・・!」
「私のお父さん・・・?」
父は極道である故、父やその周りの人間に何が起きてもおかしくは
ないだろう。
だが自分の父が理由でここまで人がボロボロになっているなんて…。
その時、男が再びゆっくりと起き上がりながら口を開く
「だから・・・お前を殺して・・・ゲホッ・・・お前も・・・
殺すっ・・・」
血を吐きながら精一杯の怨念を陽菜乃にぶつける。
「や・・・やめてっ!」
男がナイフを振り上げ、陽菜乃の首をめがけて一気に
振り下ろそうとする。
逃げなきゃ・・・殺される・・・。でも足が動かない・・・。
さっきは冷静になれていたのに、なぜか恐怖が大きくなっている。
嫌だ、死ぬのは嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
「いやぁあぁぁぁぁぁぁあああぁあぁああぁああぁ!!!!」