ろく話目 「好きと悔しさ」
ショッピングモールでの買い物が終わり、駅へのバスに乗るために
バス停に向かう。
「・・・凪胡、そんなにたくさん買って大丈夫なのか?
そんな荷物多かったらバスにすら乗れないぞ・・・。」
片手に4つずつ。実に8店舗分の紙袋やビニール袋を持ち、のそのそと
歩く凪胡を見て綾一が言う。
「あ!なら綾一この3つもってくれない?」
「ったく…。わかったよ。」
「ありがとー」と言いながら渡されたピンクや赤などのいかにも「レディース」な雰囲気の袋。これを持って歩くのは実に恥ずかしい。が、「持つ」
と言ってしまった以上断わるわけにもいかない。
「凪胡って、お金持ちなんだね」
「あぁ、こいつの父は埼玉でそこそこ大きい企業の社長やってるらしいんだ。それに加えて母親は毎日この辺りの職場まで働きに来てるからな・・・。」
「すごい・・・!」
凪胡への質問に対して綾一が自然と答えたことに違和感はなく、
幼馴染っていいな・・・。と、陽菜乃は心の中で思った。
それと、以前話していた「しょっちゅう綾一の家に朝ごはんを
食べに行っている」という理由が理解できた。
数分歩くとバス停があり、ちょうどバスが停車したので乗り込んだ。
そして、来た時に降りた駅に着く。
「凪胡、時刻表見てくれるか?」
「はいは~い」と返事をしながら駅舎の壁に掛けてある時刻表を見る。
「あちゃ~、次の電車あと30分もあるよ・・・。」
「仕方ないよ。みんなでお話しして待ってよう?」
「そうだね・・・。待ってよっか。」
―――電車が来るまでの30分間、みんなでいろいろなことを話した。
陽菜乃が居た都会のエピソードや、村に伝わる伝説・・・。
陽菜乃にとって、仲の良い友達とたくさん話をするなんて初めてだった。
「あ、電車来た!」
「やっとか・・・。」
2両編成の列車のドアが開き、3人は乗り込み、席に座る。
「私ね・・・東京にいる時、こんな楽しいことってなかったんだ。
だから皆と会えて本当に良かった。」
「・・・そう言われると、こっちも嬉しいよ。」
「これからは、陽菜乃ちゃんは私たちの仲間。ずっと一緒だよ!」
2人の言葉に、陽菜乃は不覚にも頬に涙を伝わせていた、
それは「喜び」があふれたものでもあった。しかしその反面に
ある「悔しさ」がこの世の残酷さを陽菜乃に叩き込む。
―――彼女は分かっていたのだ。
この3人でいることがこんなにも楽しくて幸せなのに・・・。
もう、残された時間が残り少ないことを。