ご話目 「となりのとなりにお買い物。」
―――土曜日。
それは、金曜日が終わったという開放感と、次の日も休みであるという
中学生としては最高の1日である。
「おっ!来た来た!綾一ー!」
今日は村内唯一の鉄道駅である小さな駅舎の下で集合とのことだった。
「悪い!待ったか?」
「ううん、全然大丈夫だよ!あと10分遅れたら大変なことに
なってたけど…。」
凪胡曰く、今日は陽菜乃との出会いを記念して、隣のそのまた隣町にある
ショッピングモールに3人で買い物に行くらしい。
「凪子ちゃん。どうして大変なことになるの?」
「あぁ、えっとね、陽菜乃ちゃんのいたところでは考えられないこと
だと思うんだけど、ここの電車1時間に1本しか通らないから、
乗り遅れると1時間も待つことになるんだよ…。」
「い…1時間!?」
これは田舎村ではすっかり常識であるが、やはり都会の
常識とはかけ離れているらしい。後に、電車の中で
東京では1時間に何本なのか?と聞いてみたところ、
「ラッシュの時は3分とか2分に1本」と返され、
「1時間に何本か」なんて質問をしてしまった自分に
とてつもない恥ずかしさを感じた。
―――「到着~!」
「なんだかんだで結構歩いたな・・・。」
「ちょっと疲れちゃった…。」
3人はショッピングモールに到着したが、ここまで徒歩で20分
という距離に、早くも「帰りもこれ歩くのか…。」という
怠さが…。
「あはは、みんな疲れちゃった?安心して、帰りはバスだから!」
「「何故ここまで歩かせた!?」」
「う…スイマセン。」
3人は休憩がてら、先にフードコートへ向かった。
いつもは満席であるが、時間的にも少し早めだった為空席が
まばらにあった。
「はぁ…やっと座れるよ…まったく…。」
「綾一って男の子のくせに本当に体力ないよね!」
「うるさい。バッファローみたいな体力のお前に言われたくない。」
「バッファローってなんだ!バッファローって!」
大声でこそ言い合ってはいないものの、周囲の目がこちら側に
集合しそうであることを察知し、陽菜乃がストップをかける。
「ちょ…2人ともここで喧嘩はまずいよ…。」
綾一は陽菜乃の声を聞き、ふと我に返った。
「あ、悪いな。でもいつものことだ。気にすんなって。」
「あっ、そうなんだ。喧嘩するほど仲がいいって言うもんね。」
陽菜乃は微笑みながら言った。
「べ…別に仲がいいわけじゃ…。」
凪胡は少し照れたような表情を見せる。見かねた陽菜乃は、
2人についての話題を切り出した。
「2人はいつからお友達になったの?」
「俺たちは…気づいたら一緒にいたな…。たぶん小学1年生の時
からじゃないか?」
「そうだね、本当、気づいたら友達になってたかも…。」
「へぇ…じゃあ、幼稚園や保育園は違ったんだ。」
…というか、そもそも村に幼稚園とか保育園てあるのかな…?
と思いながら、陽菜乃は再び問いかける。
「あぁ、私は隣町の幼稚園まで通ってたんだ。綾一はね、実は
幼稚園の頃は…」
「…おい、凪胡。」
「あぁ、ごめん。でも、悪気はなかったんだ…ごめん。」
凪胡は思い出したような素振りを見せると、途端に俯いて
表情を曇らせた。
―――陽菜乃は思った。詳しいことはわからない。だけど多分…
この人も・・・私と同じなんだ・・・。と。