に話目 「転入生はまっかっか」
4月。村には桜が咲き誇り、相性の良い田畑の緑ともに村を
彩っていた。
「桜きれいだね~。ほら、あそこらへん。私たちが小学生の時植えた
やつだよね!。懐かしなぁ~。」
凪子は学校周辺の桜を指さして微笑む。確か数年前に、村単位で
桜の植樹活動を行った時のものだ。
「ってか凪胡、俺たちもう中3だぞ?朝起こしにくるとかいいから。
目覚ましかけてるし。」
「まったく~わかってないなぁ綾一は。これは習慣だよ習慣!」
お前の「習慣」の基準なんて知らんわ・・・。
と、口に出すと面倒なことになりそうなのであえて黙っておいた。
―――「おっはよーう!」
と、元気に挨拶しながら入っていく凪胡の後ろに付いて教室に
入る。実に恥ずかしい。
「あ、凪ちゃんおはよ~。ってあれ、今日も夫と一緒か!焼けますなぁ」
「誰が夫だよ」
と普通にツッコミを入れるが、通常の男子中学生であれば
一歩間違えると考えすぎてオーバーヒートするところであろう。
まぁ160回も同じことを繰り返していれば慣れるものは慣れる。
「はーいみんな席ついてー。」
超少人数学校特有の「中学教室」は、中学1年から3年までが
一つの教室で勉強する。
「えぇと、今日は転入生が来てるから・・・自己紹介、して
もらっていいかな。」
6名程の教室が、いつもとは違うざわつきを見せる。
「ね…ねぇねぇ綾一っ、転入生だって!どんな子かなぁ?」
「さぁね・・・凪胡みたいなうるさいのじゃなくて、
もうちょっとお淑やかな奴だったらいいけどな。」
凪胡の耳打ちに対して、ちょっと意地悪な対応をしてみる。
中学生主任が教室のドアを開け、「入っていいぞー」と
転入生を呼ぶ。そして少し耳を赤くして入ってきたのは・・・。
「きれい・・・。」
凪胡の口から聞こえたそれは、意識して口に出したのではなく
思わず感情が声に漏れてしまった。というようなものだった。
「えっと・・・西内陽菜乃です・・・。東京の池袋から来まし・・・」
「「い、池袋ぉ!?」」
・・・池袋。それはどんな田舎であれ、誰もが一度は耳にする
地名である。
「えっ・・・あぁ、はい。えと・・・家族の事情でこの村に引っ越し
て来ました・・・。あまり慣れない土地ですが、どうかよろしく
お願いします・・・。」
転入生、西内陽菜乃からはたった6人の相手にも関わらず
大きな緊張がうかがえる。
しかし、そんな彼女の緊張をよそに、誰が見ても綺麗なその
容姿と、「大都会」から来たという驚きの発言に、
一同は呆然としている。
「はい。じゃあ西内さんはそこの席ね。さっき説明したところから
授業始めるから、教科書準備しとくように。」
「は、はい・・・。」という素っ気ない返事と共に、
陽菜乃は席に着き、教科書を開く。その教科書には「数学3年」と
書かれていた。
「あ!隣だね!よろしく陽菜乃ちゃん!私三弥篠凪胡!
陽菜乃ちゃんと同じ3年生だよ!」
「あっ・・・どうも・・・よろしくお願いします。」」
綺麗な黒髪に透き通った声。輝く瞳に、綾一は珍しく顔を赤らめた。