いち話目 「ひのきの村の幼馴染」
起床時刻の朝7時。いつも目覚まし時計が俺の脳を叩き起こす・・・のだが。
「うがっ!?」
全身に重圧がのしかかり、慌てて目を開ける。
「ほらほらほらほら!朝だぞー!新学期だぞー!まったく綾一は
農家の子だってのにどうしてこう元気ないかねー!ずっと村で暮らしてるのに
花粉症だし。」
勝手に人の家に上がり込み勝手に自室に侵入され、朝一番の怒りを放つ
「いや同じ建物に9年間も通ってたら新学期とか正直どうでもいいわ!
ていうか人ん家に勝手に上がり込むな!不法侵入で訴えるぞ!。」
「不法じゃないし!ちゃんとおばちゃんに許可とってあるしー!。」
・・・くそっ!母めぇっ!
朝からハイテンションな中学生、三弥篠凪胡は、幼馴染でもある。
この幼馴染が朝起こしにくるというあまりにテンプレート過ぎる流れはこれで
約160回目となる。実につかれる。
まぁ遅刻ギリギリのところでパンを咥えて家を飛び出すよりはいいが。
・・・なんて呑気なことを考えながら制服に着替える。
ここは「檜乃村」という田舎村。限界集落ともされているこの村は総人口約3桁。
そのため学校は小中一貫で、高校生になると殆どは村を出て都会の学校に
行く。残りの1割程は実家の農業や家畜の世話をして生きていく。
とはいっても、今この村にいる小中学生は、全部で15人ほどだ。
俺は今日から中学3年。今年中に進学か、村に残るかを決めなければならない。
要するに人生の大きな分かれ道というわけだ。
自室から出て階段を下り、リビングへと向かう。
「母ちゃん飯~・・・。って、お前何やってんだよ!」
―――幼馴染が俺の朝ごはんを勝手に食うの、約160回目。