捕獲失敗
レーヴェは、刀を構え直す。相手は、かなりの手練れだ。生半可な気持ちで戦うのは失礼と言うものだ。
レーヴェは、こんな状況に置かれても余裕を失わずに居た。幾度もの修羅場を切り抜けて来たからこそ、はっきりと解る。あの男は、強いと。
血が騒ぐ。こんな感覚は久しぶりだ。口角が、自然と上がる。
「楽しそうですね。」
隠したつもりだったが、男は見抜いたらしい。
「まぁな。不利な状況や強敵との戦い程、うずうずして来る。」
「とんでもない戦闘狂ですか。これは、面倒な敵と当たったようです。と、言いましても──────」
男は、眼鏡を押し上げた。
「──────私には、関係ありません。」
「あはは、さっすが〜っ」
楽しそうに大鎌を振り回すクラウリア。
私はそれを全て避け切ると、バックステップで距離を取る。
「そちらもね。」
息を整えつつ、笑みを浮かべて見せる。
「焦ったりしないんだ。面白くない。」
クラウリアが、眼を三角にしてむくれた。
「伊達に長生きしてないもの。」
私は雷の術を唱える。雷が、クラウリアに降り注ぐ。
「おっと。」
鎌で雷を弾き、クラウリアはあ〜あと溜息。
「つまんないなぁ。」
「っ!」
レーヴェは、反射的に空中に跳んだ。男の手から炎が放たれ、レーヴェが、居た場所に大きな穴が穿たれる。
「中々の反射神経。称賛に値しますよ。」
「そうかよ。そりゃ、どうもっ!」
不意打ちで、上から攻撃するが、槍で受け止められ、そのまま払い飛ばされてしまう。
「見え透いた手を使わないで下さい。」
体勢を立て直し、男と距離を取って着地した。
「見え透いた手、ね。おっさん、俺の攻撃、わざと避けずに受け止めただろ。ナメてんのか?」
「いえいえ。決してそんな事は──────────」
『プルルルル・・・・・・』
場違いな音が響き、男は言葉を切った。懐から薄く四角い機械を取り出す。
(あれは、隣国の連絡機器・・・・・・アイツは、隣国から来たのか・・?)
訝しげにレーヴェは眉を顰める。
連絡機器を耳に当て、男は誰かと話し出した。
連絡機器から、途切れ途切れに声が聞こえる。
『くだらん・・・・を・・・・いるのではある・・・な?』
「もちろんですよ。信用して下さい〜。」
『目的の・・・・・は・・・・に入れ・・か?』
「ええ。」
『ならば・・・・・・・、即刻・・・・・来い。』
「はい、了解致しました。」
男は、連絡機器をしまうと頭を振る。
「全く、あの方は千里眼の持ち主ですね。さて、主から撤収するようにとの命令ですので、私達は帰らせて頂きますよ。・・・・・・クラウリア。」
「はいさー」
クラウリアが、男の元に駆け寄る。
「では、この続きは、また後日。楽しみにしていますよ。」
「バイバーイ。」
クラウリアが、丸い玉を地面に投げつけた。玉から、煙が噴き出し、辺りは白煙に包まれる。
「クラウリア!」
「待て、眼鏡男!」
二人の叫びも虚しく、男と少女の姿は消え去ったのだった。
《セカイに、ウソを》
ウソついて ウソにまみれて
真実は虚実に変わる
虚実は真実に
そんなセカイは嫌だと 嘆く者が居る
けれど 変わらない 変わりっこないんだ
真実が存在し得る限り 虚実もまた存在するのだから
くだらない どうしようもない程 くだらない
こんなセカイ 壊してしまえたら 良いのに