話し合いか殺し合い
「此処ね・・・・・・」
私は、眼前に聳え立つ神殿を見上げた。白壁の神殿は天を貫くような塔を持ち荘厳な雰囲気を漂わせている。確かに、レリーフの彫られた大扉は開け放たれていた。
「何か、緊張してくるんだよね。」
ミリィアが、あははと照れたように笑う。
「そうか?俺は平気なんだけどな。」
レーヴェが、首を傾げる。
「君は、そういう所を直した方が良いと思うよ。」
「余計なお世話だ。」
「また、そうやって・・・・・融通利かないのも程々にしてくれ。」
「融通利かないのは、どっちだか。」
アルフとレーヴェの間に流れる微妙な空気。それを察してか、
「まあ、肩の力抜いて気楽に、気楽に〜」
とラゼンが明るく言う。
「貴方は、緊張感を持ちなさい。」
エマの鋭い指摘にラゼンが大袈裟に項垂れた。
「酷いわ、エマちゃ〜ん。フィオちゃんもそう思うっしょ?」
「別に。」
素っ気無い返答、ラゼンがっくり。
皆、笑い出した。肩の力が抜けたようで良かった。
「よし、皆、敵を発見しても攻撃を仕掛けず様子を伺ってくれ。あちらが、攻撃してきたら応戦して構わないからな。二人一組で、行動。ミリィアとティーグ、ラゼンとフィオナ、レーヴェとセレネ、俺とエマだ。」
イヴァーの指示に頷く。
「アルフは?」
私は、尋ねる。
「僕は、部下達に指示を出さないといけないから、一緒には行動出来ないんだ。」
「そう・・・・・頑張って。」
アルフは、笑みで返してくれる。
「行くぞ!」
「にしてもは、どっから捜せばいいんだか。」
レーヴェは、無雑作に髪を掻き上げる。私とレーヴェは、神殿の広間に来ていた。皆、バラバラの場所に散って行き、自然と此処を捜す事になったのだ。天井から水が滝のように流れている。
「さぁ?でも、捜す面白さがあって中々楽しいわ。」
「この状況、楽しんでるの、お前だけだろ。」
「そう、かもね。ふふ。」
「何、笑ってんだ。」
「いいえ、別に大した事じゃ────────」
私の声は、其処で途切れる。
「ゔ〜・・・・」
コウネが、身を低くし威嚇し始める。
「当たりクジを引いたのは、どうやら私達のようね。」
広間を支える白柱の後ろから眼鏡の男と、笑顔の少女が姿を現す。
「見つかってしまいましたか。残念です。」
男は、抑揚の無い声で言う。
「隠れんぼって歳には見えねぇが?」
レーヴェが不敵に返した。
「久しぶりだね、セレネ。」
少女を見て、私は絶句する。
「クラウリア・・・・・・・何故、貴方が」
「ゴメンね、セレネにも話せないんだよ、色々あって。」
笑顔を崩さずに、私の親友は言い放つ。
「クラウリア、感動のご対面に水を差すようですが、揉め事を起こさないで下さいね。任務は達成したんですから。」
「はーい☆」
男は、視線をこちらに向けた。
「申し訳ありませんが、お暇させて頂きますよ。無駄な戦闘は避けるようにとの命令ですので。」
「命令って、誰のだ?」
「さぁ、誰でしょうね〜」
とぼける男にレーヴェは舌打ちする。
刀を鞘から抜き、一気に男に肉薄する。
「穏便に済まそうと思ったが、やっぱり俺の性には合わねぇな!」
刀を右から左に薙ぎ払う。
「やれやれ。最近の若者は野蛮で、困っているんですよ。礼儀作法を弁えて欲しいものです。」
その攻撃をあっさり避けると男は嘆かわしげに首を振った。
「悪いが、俺の礼儀作法は『先制攻撃』なんだ。」
「素晴らしい作法をお持ちのようで。ですが──────」
男の眼鏡の奥の瞳が怪しく光る。
「───────救いようの無い愚者というのは、事実のようですね。」
男が、手を横に出すと光が男の手に凝縮し、槍が創られる。
「ならば、私が躾するとしましょう。噛み付く犬は早めに躾なければいけません。」
「望む所だ!」
「セレネ〜、すっかり大人っぽくなったんだね。ボク、吸血鬼だから全然成長しないんだ〜。」
無邪気に話すクラウリアだが、その手には大鎌が握られ邪悪なオーラを放っている。
「けれど、老いた事に変わりはないでしょう?」
「そーだね。それだけ戦闘の腕も上がってるでしょ?」
クラウリアは暗い光を瞳に湛える。
「だからさ、───────────殺し合い、しよ?」
《紅色、ヒイロ、私は何色?》
この手は 全てを奪うモノ 守るんじゃない 奪うんだ
氷の悲鳴 耳を塞ぐ ココロを鬱ぐ
真っ赤な景色 眼を閉じる 感情を閉じる
何も聞こえない 何も見えない
自分を騙し 騙された自分は 絶望に身を委ねた
この手を紅に染め上げて、私は何を望む?