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緋鏡烈狂  作者: 翡翠蝶
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彼岸花

ふっと眼が覚めた。いや、覚めたというのとは正しくないだろう。何故なら、私は既に永遠の眠りについたのだから。辺りは、彼岸花の咲き乱れる野原だった。何も覚えていない。唯、自分が死んだという事実だけが漠然と記憶を支配していた。なのに、私は、此処を知っている。どうしてか確信があった。

此処は─────────────

『セレ』

声。私の愛称を呼ぶ懐かしい声。その愛称で呼ぶのはたった一人しか居ない。記憶の一部分だけが喚び醒まされる。私の愛しい人。

「お兄ちゃんっ・・・・・!」

弾かれたように、声の主を捜す。居た。遠くて近い場所に。優しく微笑み掛けている。

無意識に駆け出していた。風に彼岸花が揺れる。

速く。早く、もっと疾く。走れ。だが、どんなに走っても兄の居る場所には辿り着けない。

やがて、兄はこちらに背を向けた。手を伸ばす。必死で。

「お兄ちゃん!」

ああ、そうか。私はこの場所を確かに知っていた。夢想の中。深い深いユメの中で知っていたんだ。

涙が頬を伝う。

夢では兄は一度もこちらを振り向かなかった。だが。

ゆるりと兄が振り返る。私は叫んだ。

「置いて行かないで!私も連れてって!」

それは、私の悲願。兄とずっと、ずっと一緒に居続けられればそれで良い。だから・・・・・・だから・・・・!

『ダメだよ』

え・・・・?呆然とする私に兄は哀しげに笑う。

『セレには、もう大切な人が出来た。お兄ちゃんは必要ない』

「何で?何でそんな事、言うの!?私にはお兄ちゃんしか居ないのに!」

涙でぐしゃぐしゃになった顔で訴える。

『違うだろう?彼が居るじゃないか。』

彼?誰の事を言っているの?混乱で何もかもが解らない。私の大好きな人はお兄ちゃんなんだよ?

でも、何故か脳裏を過る誰かが居る。

“セレネ”

呼ぶ。呼ばれて嬉しそうに笑う私が其処には存在していた。

私は悲鳴を上げた。解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない解らない

誰?私の名を呼ぶ貴方は誰?答えてくれないの?

いつの間にか、眼前には鏡。鏡に映る私。昔も、こうやって鏡を見ていた。鏡を見なくなったのはいつからだったか。

「あ・・・・・・・あ・・・・・・いやぁああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

劈くような絶叫を上げ私は蹲った。耳を塞ぎ、眼を閉じた。何も聞きたくない。何も見たくない。

さっきから、私を呼ぶ声と脳裏を幾度も過る記憶に混乱と焦燥で狂っていた。

頭が痛い。ココロがイタイ。お願い、コタエテ。

アナタハ ダレナノ?

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