アイザック再登場
宿に戻って気分を落ち着けよう、とのリネスの提案に異議を唱える者は居なかった。それ程皆、混乱していたし気持ちの整理が出来ていなかったからだ。
アイザックがやって来たのは、そんな時だった。
「いや〜、皆さん、お元気ですか?」
アイザックは、既にクラウリアから状況を聞いていた。それでいて、神経を逆撫でするような事を口にするのだ。
苛立ちを隠せず、俺は思わず舌打ちする。
「君は、私が気に入らないようですね。」
アイザックが眼鏡を押し上げながら俺を一瞥した。
どうも、この男は生理的に受け付けないのだ。
「アイザック様、これから私達はどのように動くべきだと思われますか?」
クラウリアは、仕事モードで尋ねる。
「そうですね〜その月の使者だという少女に会わせて頂けないと何とも・・・・・」
『私は、此処に居るよ。』
涼やかな声と共に、空中に少女が現れた。
「お話が早いようで。貴方の役目は何か解っていますよね?」
『私の役目は、この世界を護るコト。私にしか、出来ないコト。』
「具体的には、どのような事を行うのですか?」
『世界の大地に生命エネルギーを注ぐ。後、光と闇の均衡を保つ。』
「それだけ、なのか。」
リネスが、戸惑う。
『うん、それだけ。』
少女は、首肯した。
「随分と拍子抜けの内容ね。」
エマが、呆れたように呟く。
「ですが、月の使者にしか行えない重要な役割なのです。」
と、クラウリア。
『今まではね、セレネが代わりにその役目を果たしてくれてたの。けど、セレネも限界だったみたい。』
胸がキリリと痛む。セレネが、そんな役目を持っていたとは知らなかった。
ホントに何も知らないんだな、俺・・・・・・。そう思うと、堪えていた痛みが疼き出す。
彼女は、帰って来る。そう信じていても苦しいし、イタいのだ。
ずっと隣に居てくれると信じていた人が突然居なくなれば、誰でも戸惑いを覚えるだろう。
『でね─────────』
少女は、躊躇いがちに言った。
『私を、ある森まで連れて行って欲しいの。』




