信じて
─────────────消えた。消えてしまった。自分の眼の前から。刹那に。
レーヴェは虚しく宙を掴んだ手を力無く下げる。瞳から流れるモノが涙だと、気付くのに数秒を要した。
彼女は、笑っていた。最期まで。感じていた温もりが消失して行く。
背後を見れば、先程まで取り乱していたのが嘘のように仲間達は呆然としていた。一人だけ。クラウリアだけは無表情だ。妙な少女は、セレネが完全消滅すると同時に具現化を果たしていた。浮いたままだったが。セレネは『あの子をよろしく』と言っていた。俺達に、あの子供の世話を任せると言う意味合いだろうか?
考えても埒があかないと少女の傍まで歩む。
少女は、俺が近づいても怯えたりしなかった。じっと、セレネの消滅した場所を見つめ続けている。
『お兄さんは、セレネの事が大好きだったんだね。』
言われた言葉に、戸惑う。
『お兄さん、セレネが大好きだったんでしょ?』
もう一度、質問を繰り返され頷いた。
『セレネ、愛されてたんだ。良かった。』
嬉しそうに微笑む少女。笑った顔がセレネによく似ている。胸が痛くなり、レーヴェは視線を少女から逸らした。
「にゃ〜」
コウネが足に纏わりつく。心配してくれているようだった。
「レーヴェ。」
声が掛かる。ティーグが状況を飲み込めていないのか眼を瞬かせている。
「セレネは、何処に行ったの?」
「さあな。アイツは死んだ。けど、死んだ後の事までは知らねぇんだ。」
『セレネは、あの方の元に逝ったんだよ。』
「あの方?」
『あの世とこの世を支配下に置く人だよ。』
「誰だよ・・・・・・」
呟く。この少女はどうも話す論点がズレているように感じる。本人に自覚がないのか。
「あのエルフ、死んだのね。」
いつの間にか、隣に居たエマがぽつり、と言った。
『ううん。確かにセレネは死んだけどもう一回転生出来る可能性もあるから。』
「は?」
そんな話は聞いていない。てっきり、もう会えないと決め込んでいたのだが。
「あれ?知らなかったの?」
クラウリアの意外そうな声。どうやら、この生意気な吸血鬼は知っていたらしい。
『でも、転生出来る可能性はスゴく低いの。転生したい人は一杯居るんだけどあの方が中々承知しなくて。』
だからえ、あの方って誰だよ。というツッコミは胸中に押し留めた。
「つまり、セレネは転生出来るかもしれないんだな?」
エマ同様にいつの間にか傍に佇むリネスが尋ねる。
『そうだよ。だから、お兄さん達は信じてあげて欲しいの。セレネが転生出来るって。それが今、お兄さん達が出来る事だよ。』
「そう、なのか。」
妙な感じがするが、それが今出来る最善ならば仕方ないのだろう。空を見上げる。
「信じて待ってるからな。帰って来いよ・・・・。」




