届け、私の気持ち
身体中がイタい・・・・・。よりにもよって、どうして最期の夜があんな夜なの・・・・。
小さく吐息すると顔を上げた。皆に話さなければいけない。皆、どんな反応なんだろう?レーヴェは納得してくれた(と思いたい)が・・・・・。の、前に鍵を返しておこう。
朝食の席。談笑している仲間達を見回し、私は口を開いた。
「みんな、聞いて欲しい事があるの。」
不思議そうなティーグとエマ、リネス。クラウリアはポーカーフェイスの笑みだ。レーヴェは微かに苦しそうな表情をしている。
私は、自分の魂を還さねばならない事は伏せ、その他の事を話した。
話し終わると、朝食の席は異様な沈黙に包まれた。
クラウリアとレーヴェ以外の者は驚いたように私を見つめている。私は、静かに微笑む。
「ふふ、ビックリしたでしょう?」
ティーグが頷く。
「やっぱり隠してたのね。」
エマが、無表情に言う。
「エマ、もう君は・・・」
ティーグが、エマを嗜める。
「決意してくれて助かる。」
リネスが、冷たく言い捨てる。
「決まった事だしね〜」
相変わらず軽い口調のクラウリア。
黙り続けているレーヴェは、ずっと唇を噛み、何かに堪えているようだった。
「ゴメンね。」
私は居た堪れなくなり、レーヴェに謝った。
「何で謝るんだよ・・・・・」
弱々しくレーヴェは呟く。
「とにかく、ゴメンね。」
私は、もう一度謝る。
「・・・・・・っ」
彼は、もう何も言わない。唯、きつく噛み締められた唇から鮮血が零れた。
外に出ると、私はコウネを抱き上げ頬擦りしながら、囁く。
「コウネ、これからはレーヴェに可愛がって貰うのよ。」
「にゃん?」
どうしたの?と顔を見上げるコウネを撫で、首輪に付けられた鈴をそっと取り外す。背後では、仲間が見守っている。私は、振り返り明るく笑う。
『りりん』
鈴が、その柔らかな音を響かせる。
私は気持ちを切り替え、呪文の詠唱を開始する。
「【我 月の使者を封じし者─────────】」
鈴がふわりと空中に浮かび、蒼く輝き出す。鈴を中心に魔法陣が出現した。
「【此処に 汝を解き放つ 月の使者よ 我は 汝の顕現を望む 我は汝に魂を還す──────】」
呪文が、終盤に近づくにつれ、身体から力が抜けて行く。
後ろで焦ったような声が聞こえた気がしたが、何と言ったか解らなかった。
鈴と魔法陣が爆発したような蒼い輝きを放ったからだ。思わず、眼を瞑る。
そっと眼を開けると、魔法陣の中に少女が浮かんでいた。
「アヤツキ」
月の少女は笑顔で応えてくれる。私は、自分の身体に視線を落とす。透き通って行く身体。
「セレネ!」
名を呼ばれ、振り返ればレーヴェが歩み寄って来た。0メートルの距離。夜色の瞳には憂いが秘められている。指を絡める。額が触れ合い、私は瞼を閉じた。絡められた指と額から伝わる温もりに穏やかで幸せな気持ちになる。
「逝くんだな。」
震えている声。
「うん・・・・・最期にこんな幸せになれた・・・・・・・」
「俺は、苦しい。こんなの酷過ぎだろ・・・・・」
「もう少し───────もう少し、早く巡り逢えてたら、良かったかもね─────そしたら──────もっと、一緒に居られたかも──────しれない、ね」
言葉を紡ぐ事さえ、困難になりつつある。それでも、伝えたくて。私の気持ち、私の想い。全部。彼に届け、と願う。けれど。もう、彼に想いを伝える事は叶わない。
私は、額を離した。一歩後ろに下がる。
「セレネ」
愛しい人が私の名を呼ぶ。
「あの子の、こと、よろしく、ね」
レーヴェの手が伸び、私に触れようとした。その刹那。私の身体は光の粒となって砕け散る。
(さようなら、レーヴェ。私の一番大好きな人──────)
「セレネ・・・・・」
レーヴェの頬を雫が伝うのが、見えた気がした。




