最期の夜は、甘い夜
ならば、二人きりで話せる場所を探さねばならない。考えあぐねた結果、宿屋の空室を使う事にした。
僭越ながら、カウンターから鍵を拝借したのだ(一応、心の中で謝罪した)。アヤツキは、空気を読んでか姿を消した。
私は空室のベッドに腰掛け、レーヴェは窓際に立つ。開かれた窓から吹き込んでくる穏やかな風に私は眼を細めた。レーヴェは、外を眺めている。静寂の時。
「・・・・・・どちらから、話す?」
私は、一呼吸置いて問い掛けた。
「・・・・・・ん〜。セレネは、先に話したいか?それとも後に話したいか?」
「そうね。じゃあ、最初に話させて貰おうかしら。構わない?」
窓の外、満月から視線を外さないまま、レーヴェは頷いた。
私は、躊躇いがちに口を開く。
「・・・・・・これまで。これまで、私は孤独と仲が良かったの。お兄ちゃんを殺して。理解者はコウネだけ。そう割り切って他人と距離を置いていた。でも、あの日、貴方に出会って──────出会い方はとてもロマンチックとは言い難いけれど・・・・」
私は、ゆったりと髪を指で梳く。
「久しぶりに楽しい、って思えた。ギルドの皆も優しくて良い人達ばかり。旅も短かったけど今までで一番最高だった。」
レーヴェ怪訝そうな顔をこちらに向ける。
「何が言いたいんだ?」
「貴方と過ごせて、楽しかったって言いたいの。」
「お別れみたいな言い方だな。」
「だって、本当にそうだもの。明日、私は────────」
ぐっと唇を噛む。
「──────────────────消えるんだから。」
「どういう・・・・意味だよ・・・?」
レーヴェの低く潜められた声からは動揺が感じられた。
「私はね。ある女の子のチカラで生き続けて来た。」
ベッドから立ち上がり窓辺、レーヴェの隣に立つ。
「・・・・・女の子から命を借りて生きてたのよ。でも、今の世界はその女の子を必要としている。女の子を復活させるには、私が命を還さねばならないの。」
「・・・・・・・・!」
レーヴェが、悔しげに顔を歪めたのが見て取れた。
「だから、明日命を還す。お別れよ。」
「それしか方法、無いのかよ。」
「ええ。」
柔らかな笑顔で続ける。
「私は長生きし過ぎた。もう充分。それに──────消えてあの世に逝けばお兄ちゃんに会えるから。」
突然、レーヴェが私の腕を痛いぐらいに握り締めて来た。
「お前は・・・・・っ、お前は兄貴の事しか考えられないのかよっ!!」
声を荒げて怒るレーヴェに私は暫し絶句した。レーヴェの私の腕を掴む手が力無くぱたりと落ちる。ゆっくりと呼吸をしながら自分を落ち着かせているようだった。そして、私の瞳を真剣な眼差しで見つめて来る。
「・・・・・悪い。急に怒鳴られても、困るよな。」
平常心を取り戻し、何時もと変わらぬ冷静な声でレーヴェは言う。
「貴方が、怒った所初めて見たわ。」
微笑する。
「そうか?まあ、人前ではあんまし怒んねぇからな。」
私は、彼との距離を詰める。元々近かったので相手の呼吸音がはっきりと聞こえる。
レーヴェの耳元にそっと唇を寄せ、囁く。
「──────貴方の事、大好きよ。」
「!」
顔を耳元から離し、真正面の位置に戻す。笑みを浮かべてみせれば、微かに頬を赤くしたレーヴェは苦笑する。
「先に、言われちまったな。」
「え?」
抱き寄せられ、きょとんとしてしまう。
「俺も、お前の事好きだよ。俺の話はそんだけだ。」
「何で・・・・・・・」
私は、戸惑う。
「諦められると思った。貴方に想いを伝えてお別れしたかったのに・・・・っ。どうし、て」
「言っちまえば、一目惚れだな。」
「一目・・・惚れ・・・・」
「でも、セレネと過ごすうちに、どんどんセレネの色んなトコに惹かれてさ。何時の間にか、抑えようがないぐらい好きになってた。」
身体を離し、レーヴェの頬に触れる。黙って見つめ合い、どちらかともなく、唇を重ねた。レーヴェの舌が、口内に浸入し、私の舌を絡めとる。
「んっ・・・・・」
慌てて顔を離そうとするが、レーヴェは中々離してくれない。やっとの事で、接吻から解放され息を整える。
「はぁ・・・はぁ・・・・ダメ。これ以上・・・・したら・・・・歯止めが・・・・・利かなくなる、から。」
身体が熱い。ずっとレーヴェに抱かれていたせいだろうか。乱れた髪を整えようと、手を髪にやる。
その隙を取られ、ベッドに押し倒された。
「レーヴェ・・・・!」
そっと囁かれる。
「今日は寝かせねぇから、覚悟しとけよ・・・・?」
色気を含んだ声に私は小さく息を呑んだ。




