何でもお見通し
訪れる重い沈黙に、クラウリアがきょとんとした。
「ダメ?」
「いえ、ダメってわけじゃないけれど・・・・・」
言葉を濁す。私は、てっきり“カギ”の催促かと思っていたが、クラウリアの頼みは私の予想を大きく裏切るものだった。
「貴方の目的は“カギ”を手に入れる事、じゃないの?」
「うーん・・・セレネは根本から勘違いしてるよ。」
「???」
「陛下の目的、それは“カギ”を使い、彼女を解き放つコト。解き放つのが、誰でも構わないと考えてる。自分でなくてもね。」
「けれど、王は“カギ”を寄越せと言って来たわ。」
「あれは、貴方が“カギ”を使う気が毛頭無いと思っていたから。でも──────────」
クラウリアの穏やかな瞳が私を見つめる。
「セレネは、決意したんでしょ。“カギ”を使うコトを。だから、私は、監視って名目で付き添い。」
「解って、いたのね。」
「当たり前。」
クラウリアは、にんまり。私は苦笑。
「でも、良いの?」
真面目な表情になり、問い掛けて来る。
「今更、自分の命が惜しいとは思わない。」
「彼女を解き放つって意味を理解してんの。」
「もちろん。私はもう充分生きた。逆に生き過ぎだわ。」
「それ言っちゃったら私は?私、セレネより長生きしまくってるんだけど。」
「貴方には、生きる目的を見つけた。私は、彼女のチカラ──────命を貸して貰っても目的を見つけられない。目的も無いのに、生きててもそれは抜け殻・・・・人形よ。」
私は、溜息混じりに言う。
「そっか。消えるの?」
「ええ。彼女の目覚め=私の消失、なんだから。」
「あの子がそれを望んだ?」
「さぁ、どうかしら。解らないわ。」
かぶりを振る。
「そーだね・・・・解らないよね。」
哀しみを帯びる声。二人は、深い溜息を吐いた。
その顛末を、静かに見ている者が居たと知らずに。
仲間を紹介する事になり、宿の一室に戻るとリネス以外の者から戸惑いと警戒の眼差しを浴びせられた。
諸事情を、本人の口から聞き皆顔を見合わせた。
「どういう風の吹き回しだよ。」
レーヴェの口調には棘があり、まだ完全には信用していないと窺い知れる。
「べっつに〜!」
ふざけた返答に、レーヴェはかちん、と来たが其処は堪える。
「いきなりは信用出来ないと思うけど、徐々に仲良くなろ!」
クラウリアは、実は根明である。本来の彼女はこのキャラだが仕事の時はスイッチでも入るのか、無表情、無言、冷徹と恐ろしい程までに豹変するのだ。いや、冷徹なのは元からか。
ふと、気になり、
「そういえば、アイザックさんは?」
と尋ねる。
「あの人は他に仕事が残ってるからそれ済ませてから来るって。」
「来るのね・・・・・・」
レーヴェの堪忍袋が切れないか心配になった。




