星に想いを馳せて
岩山を無事に越え、岩山の麓の街に到着した。
その頃には、私以外の仲間はすっかりリネスと打ち解け和やかな雰囲気だった。私とリネスの間はピリピリと張り詰めていたが。
「よし、今日はこの街で宿を探すか。」
自然とリーダーのようになったレーヴェが言う。
「そうね。ゆっくり休んで明日に備えましょ。」
私も同意し、その街で休む事になった。
「はぁ・・・・・・・」
夜。空では星々が煌き、街の家々から温かな光が漏れている。街の大通りはまだ賑いを見せていた。
私は眠る気になれずに、コウネと共にこの街で一番見晴らしが良い高台に来ていた。
鉄柵に寄り掛かり、空を見上げた。幾万もの星が瞳に映り、兄の言葉を思い出した。
『星ってさ、人の命の輝きだと思うんだ。人が精一杯生き抜いた輝き・・・・・だから、綺麗に光るんだよ。』
お兄ちゃんは、ロマンチストだった。捻くれた見方しか出来なかった私は理解に苦しんだが、何故かその言葉だけは心に素直に響いた。
私は、自然と笑みを浮かべた。コウネが首を傾げた、その時。
「楽しそうだな。そんなに星が好きなのか?」
ふらり、とレーヴェが姿を現した。こちらに歩いて来る。私は、レーヴェに視線を向けた。
「別に好きって訳じゃない。唯、気を紛らわせるには丁度良いの。」
「ふぅん。」
レーヴェは、私の隣に並ぶ。
「勝手に出歩かれると困るんだがなぁ、美人エルフさんよ。」
「眠れなくて。それで、此処に来て風景を眺めてたの。」
再度、空を仰げばレーヴェも吊られて空を見る。
「さっき、笑ってたよな?」
「ある人の言葉を思い出して、懐かしくなったの。」
「好きな男の言葉、とか?」
「半分は合ってるけど、半分は間違い。」
そう返答すれば、レーヴェが眉を寄せた。
「私ね・・・・・・・・・・・・兄が居たの。」
思い切って、話し出す。この話を人にするのは、初めてだ。
「兄は────お兄ちゃんはとても優しくて。大好きだった。」
レーヴェは黙って話に耳を傾けてくれている。
「私の家族は、お兄ちゃんだけ──────父も母も私が幼い頃に人間に殺された。・・・・・・・エルフ狩り、と称された虐殺行為にね。」
私は、怒りで歯を食い縛った。
「人間の魔の手から逃れて、エルフだけが住む隠れ里で暮らした。両親が居なくて、寂しがる私をお兄ちゃんがいつも慰めてくれたの。『大丈夫。お兄ちゃんが傍に居るからね』って。」
私はゆっくりと眼を閉じ、そっと胸に手を当てる。
「お兄ちゃんに、抱き締められながら眠ったものよ。あの温かさは忘れられない。」
其処で、私は言葉を切った。レーヴェは黙ったままだ。
「けど・・・・・・人間達は図々しく隠れ里を見つけて、殺しに来た。大半のエルフはあっさり殺された。家の隅で蹲って、ああ私は此処で死ぬんだ、そう思った。」
あの時の記憶、鮮明に覚えている。
「でもね、お兄ちゃんは諦めてなかった。必死に逃げ出そうとしたのよ。」
私は大きく息を吸う。
「結局、捕まってお兄ちゃんが殺され掛けた時だった。・・・・・・“黒乱”と呼ばれるエルフの能力が発動した。“黒乱”を持つエルフはごく僅か。まさか、私がその能力を発動出来るなんて知らなかった。私の意識に真っ黒な何かが入り込んで・・・・・・」
唇をきつく噛む。
「気付いたら、血溜まりに腰を抜かしてた。手が真っ赤で全身が血塗れになって、辺りには死体がたくさん転がってた。その中にお兄ちゃんも居た。駆け寄って体を揺すったりしたけどダメだったわ。頭の中がぐちゃぐちゃだったけど、一つだけはっきり解ったの。」
私は、深呼吸をして言う。
「私が───────────────────お兄ちゃんを、殺した。」




