空からの来訪者
「ううっ・・・・・」
皆で倒れた女を覗き込んでいると、呻き声と共に女が薄っすらと瞼を持ち上げた。
「大丈夫?」
医師の資格を持つと言うティーグは女の脈を測りながら優しく声を掛ける。
「此処・・・は・・・・?」
「【ウィティリア】の近くの岩山だよ。」
「【ウィティリア】・・・・・」
女は、ぼんやりと名称を繰り返すと、ゆっくりと起き上がった。
「随分、遠くまで飛ばされたな・・・・一刻も早く戻らねば・・・・」
ぶつぶつと何事かを呟き、女は深呼吸した。
「済まない。世話を掛けたな。私は、急ぎの用がある。これで、失礼するぞ。」
そう言って、立ち上がると歩き出したがよろけて転びそうになる。ティーグが、支える。
「待って!急に動いちゃダメですよ。貧血を起こしてるんですから。」
「しかし・・・・・私は先を急がねば・・・・・・!」
「せっかちなヤツだな。んな、病み上がりな身体で何処行こうってんだ?」
「私は、探しているんだ、“カギ”を・・・・」
「“カギ”?」
皆、眉を顰めた。コウネが、ゆらりと尻尾を揺らす。
まさか、あの事件が繰り返されようとしている?私の中にあの記憶がフラッシュバックする。
泣き叫ぶ子供──────────血色の地面────────鏡─────
全てを失い、魂と身体が引き裂かれるあの痛みは、忘れる筈が無い。
イヤだ・・・・イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ
『りん』
「─────────セレネ!」
レーヴェの呼び声にハッと我に返る。
「何かしら?」
慌てて笑顔を作る。
「大丈夫か?」
心配げなレーヴェに向かって頷き掛けると、女に視線を戻す。
「それで、貴方はどうして空から降って来たの?」
黙って、眼を伏せる女を見て、
「言いたくないのね。解ったわ。じゃあ、名前は?」
質問を変える。
「リネスティア。リネスで構わない。」
「リネス、貴方の目的は何?どうして、“カギ”を探すの?」
「この世界は危機に瀕している。世界を救うのに必要なモノなのだ。」
「アレは、そんな夢みたいな代物じゃない。」
私は、否定する。
「何故、そんな事が解る?」
「私は、“カギ”を使って解き放った。でも、彼女は拒んだ。だから、“カギ”は隠した。」
「知っているのか!?“カギ”のありかを!?」
「ええ、私自身が封印したのよ。」
私は、俯く。
『この世界は、腐っている。』
少女は、言った。
「壊すの?」
『永い間、世界を見下ろしてた。でも、希望を見出せずに終わってしまう。』
「そう。」
『うん。でね、お願いがあるの。』
「?」
『私の代わりにこの世界を見てて欲しい。私が、目覚めるその日まで。
私の命の半分をあげる。それで、その力は抑えられるでしょう?』
少女は、笑った。キレイに、笑った。
「彼女が、拒んだ、だと?」
リネスは、戸惑いを隠せずにいた。
「そうよ。私はそれを受け入れた。私が、生きられるのは彼女のお陰。」
「納得出来ない。彼女の使命に反している。」
「だからこそよ。」
私と、リネスの間に張り詰めた空気が漂う。
「私達を置いてけぼりにしないでくれる?」
エマの不機嫌な声。
「そうよね。解らないわよね。ゴメンなさい。」
苦笑して、謝った。
「私は、探し続ける。何があっても。」
リネスの決意は揺らいでいない。
「リネスは、何処に行くつもりなの?」
「ふむ。とりあえずは覇国に向かうつもりだ。」
「俺らと一緒なんだな。じゃ、一緒に行かねぇか?」
「そうだな。私はこの辺りの地理に疎いし、同行させて貰えると助かる。」
「なら、決まりね。」
エマが肩を竦める。
「ゴメンね・・・・・」
私は、微かに呟く。
「・・・・・アヤツキ」




