妖怪チューゴロウ
チューゴロウが現れたのは1ヶ月前。突然のことだった。
ヤツは何故か僕を着け狙う。恐ろしい妖怪だ。
とにかく、今は身を隠さなくてはならない。ヤツがここに来るまで、そう時間はかからない。
僕はすぐにベットの下へと潜り込むと、ヤツの足音が聞こえる。
近い。ヤツはすぐそこまで来ている――ドタンッ!
大きな音が部屋に響く。
「うぃ~」
今のはドアを開けた音か! チューゴロウの鳴き声が聞こえる。
「うっ……」
同時にチューゴロウの放つ異臭が僕の鼻を貫く。
危うく咽そうになるが、グッとこらえる。
「うぃいい~」
チューゴロウがなにかを喚きながらバタバタと音をさせる。
これは、僕の本棚が荒されている音に違いない。
チューゴロウめ……絶対にゆるさん!
「うきいいいいいい」
チューゴロウが寄生を上げながら地団駄を踏む音だ。
チューゴロウは僕を見つけられないと悔しくて怒るのだ。
僕は前回――つまり、先週の金曜日にも身を隠し、チューゴロウの魔の手から逃れようと試みたが、荒されていく部屋を見るに堪えかねて自ら出て行ってしまったのだ。
だが、今日はそうはいかない。
今日こそは固い意思でチューゴロウから逃げてみせる。
しばらく待つと、音がしなくなる。
諦めて帰ったのだろうか。
いや、まだこの部屋はチューゴロウの異臭で満ちている。ヤツはまだここにいる。
「うう……」
声が聞こえる。何か呻いている。鼻を啜る音がする。
鼻を啜る音……?
僕はそっとベッドの下から部屋を除く。
「ちょっ、姉ちゃん! 何泣いてんだよ!」
「ふっ! 騙されたな!」
顔が何かに挟まれる。
「くらえー! ちゅー!」
ああ、今日も負けてしまった……
妖怪チューゴロウ。僕の自宅に住む妖怪。
彼氏に振られたショックによって、仕事帰り酎五郎を飲んでから弟にキスを迫る恐ろしい妖怪である。