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Kami-Ten!!  作者: 滝音小粒
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第7話:ヒモ



「ほう、お前がサイノス様への生贄と言う訳じゃな?」


「はぁ?」


「奴隷風情が神子様に口に話し掛けるな!」


「使者殿、我が国では人身売買は禁止しているのを理解しているかの? 捕縛されたくなければ黙っているのじゃな」


「し、失礼しました!」


「すまぬな、生贄というのは冗談じゃよ、我が神はその様な物は要求せんのでな。ターキット侯には総督の任は重すぎたかの?」


「その様な事はございません!」


 神子セッカが口に出したターキット侯は、正確には”前”ターキット侯の事だ。息子に家督を譲ってさっさと教国に降伏させ自分は国王と最期を共にするという政治的な手腕と”彼なりの”道理の通し方を買われた訳だが、そのやり方は、他の領主からは滅法評判が悪かった。


「私に男を宛がって機嫌をとろうと言うのが間違っているのじゃよ、私が望むのは銅貨一枚、麦の一粒でも多く税を集める事じゃからな」


「ですが、この男が神子様に献上されたとなれば政治的な!」


「政治的な意味が大きいか? ”リリーサの寵児”が私に跪くと言うのがどれ程の物じゃ? 今年生まれた赤子が大きくなる頃にはリリーサと言う存在自体が意味が無くなるじゃろうにな」


「・・・・・・」


 その”文字通りの意味で身体を売る”というアイデアを出したユーチェ自身も、神子がここまで言い切るとは思っていなかった。やはり、この辺りは人生経験の差と言ってもいいだろう。


 神子セッカの長い人生の中で、何人の知り合いが死んだのだろう? その知り合いの子供や孫であっても生きてさえいない場合も多いかも知れない。その人々の成長を間近で見ていれば先程の発言も当然と思えるのだろうか・・・。


「まあ良い、折角じゃから貰っておこう。男の”リリーサの寵児”と言うのは、はじめて見るが美しいのは確かじゃからの」


「ははっ」


 こうして、意図したのと微妙に違った形で”奴隷ユイス”は神子に献上される事になった。この一幕を傍観していたユーチェには、セッカ・サイノスが現在の総督を首にする事を決めた様に見えたが、あの使者達にはそう見えなかったらしく、役目を終えて一段落といった様子で聖堂から去って行った。


◆ ■ ◆


「さて、ユイスと言ったな。お前は今から自由じゃよ。そうじゃな、何か特技でもあれば使ってやるがの?」


「いえ、女性を相手する事を生業にしていたものですから、特技と言われましても・・・」


 ユーチェ自身の特技と問われると、実際に答えるのを躊躇われる。服飾関係の知識をセッカ・サイノスに披露するのは論外で、他にも領主としての経験も当然却下である。


「本当に性奴じゃったのか、神子に匹敵するほどの神力が全く無駄とは・・・」


「あの、神力と言うのは何ですか?」


「知らぬのか? お前が美しく居られるあの女神の加護とでも言えば良いかのぅ」


「加護? そう言われてもこの顔で得をした事は少ないのですが?」


 前回の邂逅ではセッカ・サイノスはユーチェの中の神力を感知出来なかったし、今回は神子に匹敵するというかなり控えめな表現でユーチェの中の神力を評した。これはセッカの神力感知能力が低いと言うより、何らかの力で神力が隠されていると推測出来るだろう。


 この世界中を旅して神力を回収して回った現在のユーチェの中には、全盛期の女神リリーサが地上に残した神力の殆どが収まっている筈なのだから・・・。


「ふむ、まあ良いじゃろ、女の相手をするのが得意だと言うならば、私の相手をして貰おう。最も身体が持てば・・・だがの」


「そ、それはどういう意味でしょうか?」


 男娼としてそれなりに経験を積んで、妙に詳しい知識を持っている為に、ユーチェは少々慌て気味に聞き返してしまった。Sな趣味などは可愛い物で、表沙汰になれば何処の国でも立派な犯罪者になる類の趣味を持っている貴族も実際に居るのだ。


「いや、妙な趣味は持っておらん、最近はあの身体が丈夫なのが取り柄の蛮族ばかりだったから、期待させて貰うとしようかの?」


「はい、精一杯お相手させていただきます」


 結論から言えば、神子セッカとユイスの相性は抜群だった。同じ神子同士疲れを知らずに行為に励む事ができ、ユーチェのテクニックもセッカを(修業の成果で!)満足させられるレベルに達していた。そんな訳で”図らずも”ユイスが神子様のお気に入りと聖堂内で認識されるまで左程時間が掛からなかったのは言うまでもない。


 神子の寵を独占する事になったユイスだったが、聖堂内部の人間からは白い目で見られる事が多い。昼過ぎまで寝ていて、人々の日課である鍛錬にも参加しないとなれば当然の評価だろうし、セッカがユイスに溺れる様な事があれば本気で暗殺されたかも知れない。(一度でもセッカの夜の相手をした事がある男はユイスを非難したりはしないが、表立って弁護する事も無かった)


 一見自堕落な生活を続けている様に見えるユイスだったが、それ程優雅な生活という訳でも無かった。神子の(夜の)相手をするのは同じ神子でも楽な事では無いし、セッカの他人には話せない悩みを聴いて助言したりもする。


 更に言えば、神子セッカと床を共にすると言うのは時々だが、冗談ではなく命懸けだったりもする、刺客に襲われる事があるからだ。さすがは戦女神の神子熟睡していても敵を感知すると目が覚めて撃退するが、ユイスにはそんな事は無理だし、下手をすれば人質になりかねないから自然とセッカが寝ている時間は起きている事になる。


 実際、ユーチェはもう一つ重要な、そして本来の目的で”ある事”をしているがそれは誰にも言えない類の事だった・・・。


◆ ■ ◆


 その事件が発生したのはユイスが聖堂要塞に来てほぼ2年が過ぎた頃だった。事件のはじまりは何時も通りの展開だったのだが経過は微妙に違っていたのだ。


 夜と言うより既に明け方に近い時間に神子の寝室の扉がゆっくりと開く。それに最初に気付くのは起きているユイスではなく眠っている筈のセッカだったのも何時も通りだった。


 何時もと違ったのは、殆ど一撃で刺客を仕留める筈のセッカがその日は何故か苦戦しているのだ。ユーチェにはこうなる心当たりがあった為にセッカの助けに入ろうとしたが、その瞬間寝室の窓のガラスが軽い音を立てて割れたのに気付き足を止める。


 ユーチェが目を凝らすと割れたガラスの破片と共に矢が落ちているのが確認出来た。窓のガラスと言ってもこの世界では透明度が低い代りに強度が高い物が使われていて簡単には割れない。それを割る矢の威力、そして腕を持つ刺客がミスをするとも思えない、つまりは次の矢が本命なのだ。


「セッカ、窓の外にも弓兵が!」


 不味いと思い、窓と刺客と争うセッカの間に身体を入れた瞬間ユーチェの左目を激痛が走り、ユーチェの意識を刈り取ってしまった。


◆ ■ ◆


「リオン、リオン! また私を残して逝ってしまうの!」


 強く身体を揺さぶられて意識を取り戻したユーチェの耳に入ったのは、聞いた事が無い女性の声で誰か別の男性の名前が呼ばれる声だった。未だに意識がはっきりしないユーチェには、何が起こったのか分からなかったが痛む左目を無視して右目を開くと、目の前には涙を流すセッカの顔が見えた。


 その表情は今まで見た事が無い程取り乱した物だったし、先程の声とも相まって、誰か別の女性が目の前に居るのかと錯覚してしまう。


「あの、リオンって誰ですか?」


「あ、大丈夫か、ユイス?」


「セッカ、本当に貴女の声なんですね? こっちの方が似合っていますよ」


「碌に戦えもしないのに無茶な事をするものではないぞ!」


 セッカの口調だけは聞き慣れた物に戻ったが、その美しい容姿に似合う透きとおる様な声はそのままであった。


「その話し方は似合いませんよ。ああ、顔に当たって良かったな」


「馬鹿者! 毒が塗られている可能性もある、効くかどうか分からぬが飲んでおくのじゃ!」


「毒? そう言われると頭が熱い気がします」


 何とか解毒剤を飲み終ると、ユーチェは再び昏睡状態に戻ってしまった。


 この事件は、旧王国総督が解任された事を恨み複数の刺客を送り込んだ事と、皇国側の刺客と示し合わせて事に及んだ事が事件を大きくしたと言える。毒味役を突破する為に強力な毒薬を微量一カ月間盛り続ける事で神子セッカ・サイノスの動きを悪くさせ、効果が出た所で後ろから狙撃するという手の込んだ計画だった。


 この計画は、予想外の妨害が入り失敗する事になり、前ターキット侯と現ターキット侯は死罪に処されターキット侯領も神子が直轄する事になった。


 一方皇国に対して、神子は具体的の行動に出なかった。未だその時期ではないと言うのが神子の言い分で、私情で戦争を起こす訳にもいかないと言うのが世間の噂だった。(皇国が刺客を送り込むのは今回がはじめてではないし、愛人が傷付けられたからというのは開戦理由には弱い)


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