前編
前編・後編構成です。
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
ついてない、ほんとうについてない。
今日がたとえクリスマスだろうと、どっちにしろ今日分かれるはずだった彼氏に振られたとしても、どうしてこういう風になってしまったのだろうか。
半年近く会っていなかった彼氏に、振られて傷心したと勘違いした同期だが上司になってしまった奴を目の前に、うなだれる。この状況は非常に好ましくない。どうみてもこれはやばい。
橘 里佳子25歳。
こんなに落ち込んだのは入社して一番大きな失敗をしたとき以来だった。なにより記憶がなければどうにか逃げおおせるだろうけれど、しっかり覚えている上に、拘束までされているこれでは逃げられない。
まあ、逃げるなんてことしても無駄に等しいんだけれど。
それにしても今日は珍しく私もコイツも休みで…確かに今日が休みだからあれだけ昨日飲んだのだ。とはいえ頭は痛くないし、気持ち悪くもない。どっちかというと全身筋肉痛であることだけが問題だと思う。
川瀬 麻己29歳。
30歳にもならず、営業部の部長になったキャリア。自分にも周りにも仕事に関しては厳しいやり手だ。
久しぶりに使った筋肉が悲鳴を上げている。それもこれも手加減の「て」の字も知らないコイツのせいだ。
禁欲終わり、と呟きニッコリと笑った先にあったのは終わりの見えないセックスで。
どこにこんな体力を隠してたんだと悲鳴をあげながら何回も絶頂を味あわされて、挙げ句の果てには欲しがる言葉を言わされてやっと解放された。
「ただの変態か…」
自嘲気味に呟いて、周りを見渡すと、散らばったりせずきちんと畳まれた私のシャツとかけられたスーツ。身に着けているのは、下着のみ。
飲みに行くんじゃなかった…。
たっぷり30秒考えて、さっとスーツを身に着け、逃げるように部屋を出た。
ように、じゃなくて、逃げた、が正解だけれど。
マンションを出ると、意外と家の近くだったと分かり、とぼとぼと歩き始めた。
「あれ?里佳??」
呼びかけられて、声の方に視線を向けると、昨日別れたばかりの元彼である友晴が化粧ばっちりの可愛らしい女の子と、立っていた。
私とは、正反対の子。
うわ、またタイムリーに友晴と会うなんて、私今日ついてないな。
ため息を吐いて、無視して通り過ぎようとした、けど。
「とも~?知り合いなの~?」
「ああ、言ったろ?可愛げのない、幼馴染がいるって」
「ああ~!あの、おばさんぽいって言ってた人?」
…。
何なんだろうこの馬鹿たちは。
心の中とか、私がいなくなってからとかにその会話をできなかったのだろうか。
友晴は、親同士が仲がいいだけの幼馴染で、なんとなく私が面倒を見ていた。それで、何となく付き合って、浮気なのか本気なのかわからないことを友晴が繰り返すから、別れてあげようと思っていたのだ。
多分、その後今の本命に近いこの子と、くっついたのだろうとは思うけれど…
毎回思うんだけれど、そろそろまともな彼女作れないのかしら、友晴は!
ため息をついて、離れようとすると…
「あの~…もう、ともに近づかないでくださいね!幼馴染だからっていつまでもくっついていられると、うっとおしいので!ともがカッコいいのは分かるんですけど~、私の彼氏なので!」
と、大きな声で言われた。
やっぱり、この子馬鹿だわ。
友晴は、一般的に『カッコイイ』という分類に入れられるらしい。
たとえ、勉強や仕事が出来なくても、運動が出来なくても、運転が異常に下手でも。
友晴をカッコイイなんて、私は一度も思ったことがない。
もうこれは、25年生きてきて生涯に誓える、一度もない!
「あのね、私。
貴方の彼氏を一度もカッコイイとか、思ったことないの。
理想が高くて、可愛げない私は、上司のせいで目が肥えてしまっていてね、安心してちょうだい、私、好きな人がいるのよ」
本当に。
入社して以来ずっと、ずっと好きな人がいる。
だから、上司であるヤツとああやって関係を結んでしまったことをとても後悔しているのだ。
「…え?」
え?
友晴の口から、気の抜けたような声が聞こえて、顔を見ると、相当間抜けな顔をしていた。
なんて顔をしてるんだ。
「つ、強がって」
「ないわ。
本当なの。だから、昨日も謝ったけれど、友晴、ごめんね」
相手の気持ちは、わからないけれどこの気持ちをはっきり自覚できて、私の空っぽの心は温かくなる。だから、今、ちゃんと笑顔で、この馬鹿に向き合えるのだ。
「里佳子っ!!!」
いきなり手首をつかまれ、名前を呼ばれてびっくりした。
なんだと、振り返れば鬼の顔した、|川瀬(部長)がいて、自分がどういう状況でこの場にいるのか思い出した。
ひいっ!
「お前は、後でじっくり話しよう。
で、こちらの方々は?」
笑顔|(真っ黒だけど)を張り付けて、今の一瞬で存在を忘れそうになった、友晴とその彼女に振り返った。
「あー…の、こちらは幼馴染とその彼女さんです」
川瀬にビビりまくって強張った私の笑顔に、かっこよければ誰でもいいのか、見惚れている友晴の彼女、ふてくされているのか傷ついているのか複雑な表情の友晴。
空気最悪でしょうよ。
川瀬は、私の元彼が幼馴染だと知っている。しかも、飲み会などで一度去年だったかに、遭遇済みだ。
「どうも。
里佳子の上司の川瀬です、ご迷惑おかけしました」
さらっと営業スマイルで、挨拶を済ませ、私の腰をがっしりつかみ歩き始めた。
来た道を戻っているし…。
余計な足止めをくらい、さらには面倒なカップルの相手をして、最終的にはコイツに捕まるのだから、今日はついてない。
「さて、なんで逃げたのか、詳しく簡潔に話してもらおうか」
「詳しく簡潔に、なんて矛盾し」
「いますぐ抱きつぶすぞ、コラ」
ソファに長い足を組んでらっしゃる、川瀬様。
その前に正座をする私。ちょっと優しさ出てきて、クッションだけは敷いてくれたけれど、上からの圧力がものすごいのだ。
「なんで、逃げた?後悔、してんのか?」
少し悲しそうな顔をして問いかけられた。
「わ、たしは…」
後悔はしてる。
している、けれど…
躊躇している気持ちは、友晴とさよならして向き合えるようにと踏み出したあの時に、触れたものだった。
どうしても、あきらめられなかった。
好きだ、と。
同じ職場だと、上司だと、何度も思って…。
いっそ、暴露してしまえば、楽になれるかもしれない。
もう、何もなかった昨日には戻れない。
「後悔してる。
だって、私は川瀬が好きですか、ら。
入社して、みんなと同じようにあなたを好きになって、どうしようと思った。愛より、友情を求められていると分かったから、知らないふりをした。これからも、そうするつもりだったけれど、昨日…あんなふうにつながってしまったから。こうなるなら、先に思いを告げてしまいたかった」
「それが、聞きたかったんだ」
ふわりと、抱き寄せられた。