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1 男の回顧

夫視点からは、ファンタジー要素、超展開が多く含まれます。

 男は世界を呪っていた。


 仙界と『アシキモノ』の長きにわたる戦を終わらせるための兵器として霊長である大鵬たいほうの羽から作られた男は、何百年もの間戦い続け、多くのテキを倒してきた。

 しかし、仙界の勝利で戦が終わるとオヤは、生まれた時から当たり前のように行ってきた行為を批判し、男に大人しくすることを強要した。


 テキを滅ぼす。


 ただそれだけの為に男を作り、そういう風に育ててきたくせにその必要がなくなると手のひらを返したようにそれを否定した。

 破壊を否定することは、そのために生きてきた男の存在そのものを否定することであるというのに。


 男はそれが許せなくて衝動のままに、目に映るものをすべて壊した。


 壊して

 壊して

 壊して


 その末に、オヤと呼んでいた神の手によって罪人として捕らわれた。

 敵を倒すたびに褒めてくれた手で、頭を押さえつけられ、幾重もの枷をつけられ、深い深い地の底にある牢獄に体を閉じ込め、その魂を人界の女の中で生まれたばかりの胎に落とした。


 男が次に気が付くと、大陸のほぼ中心に位置する旋の王都にほど近い街の豪商の家の次男として生を受けていた。

 野心家で自信家のチチオヤと、金と宝石が大好きなハハオヤ、自尊心の強いアニの4人家族だったが、彼らはお互いに興味がなく、男は一人で動けるようになるまで家人によって育てられた。

 しかし、癇癪持ちで何かにつけて物を壊す次男は、次第に家人からも疎まれるようになり、唯一傍にいてくれたのは傍付の老婆だけだった。しかし、その老婆も6歳の時に事故が元で働けなくなり実家に戻ると、男の周りには誰もいなくなった。


 7歳になったある日、手のかかる次男にオヤが教育の一環として家庭教師を付けた。

 家庭教師の男は旋でも学者として名の知れた一族の出で、博識として名高い人物であったが、長い時を生きてきた男にとって彼の話はとてもつまらないものだった。

 くだらない事に時間を取られたくないと伝えると、儒教にある経典の解釈について答えられたらやめてもいいと言われたので、古い文の引用から自分なりの解釈を論じた。

 話終わると、学者はしばらく黙っていたが、いきなり大声を出すと、「なんで」「どうして」を繰り返し問うてきた。

 まだ幼いと言える子供の肩を強い力で抑えこみ、一向に離す気配のない学者に苛立ち、殴って気絶させると家を出た。

 気持ちを収めるために、街の近くにある山で剣を振るい気をまぎらわしてから家に戻る。怒られるだろうと予測していたにも関わらず、オヤ達が見たことも無いくらいの笑顔で、男を出迎えた。オヤ達の横には、学者がおり興奮したようにオヤに何かを言っており、彼らはその言葉にうんうんと頷いて「さすが私の息子だ」と称賛の言葉を口にした。

 今までの無関心から一転して好意的になった彼らの何か期待するような、モノを見定める様な目には覚えがあった。

 

 まだ、そう遠くない魂の記憶にある“オヤ”にテキを倒したと報告する度にむけられてきたものと同じだった。


 キモチワルイ


 それに気づくと頭の中にぐちゃっと泥水をかけられたかのような気持ち悪さに、吐き気がこみあげ、たまらず踵をかえして家の外に飛び出した。

 先ほどまでの怒りは、気持ち悪さにとって代わり、どこに行くのかも考えず、街の中を駆けた。そして男が逃げ込んだ先は幼いころ自分を育ててくれた老婆の家だった。

 老婆はいきなり現れた元奉公先の子供が青い顔をして家にやってきたことに驚いたが、何も聞かずに家に招き入れた。


 家に帰りたくないと、ぽつりと漏らした男に、もてなすことはできないが気のすむまでいるといいと老婆は受け入れてくれた。

 それから数刻も経たないうちに、家から迎えの者が来たが、老婆と暮らす旨を伝えてから追い払いその家で生活を始めた。


 老婆は年のせいで体力仕事はできなくなったが、美しい字が書けたので代書で生計を立てて細々と暮らしていた。

 男もそれに倣い、代筆の仕事を手伝い、家事を手伝い、仕事の合間の気まぐれで作った詩や物語を老婆に見せた。老婆はたいそう気に入ってくれて、本を他の人に見せてもいいのかと聞かれ、許可をだした。 そして、しばらくすると本を書かないかと依頼がきて、男は老婆が仲介するならとの条件でその依頼を受けるようになった。

 

 穏やかな生活は男が17歳になり、老婆が亡くなるまで続いた。

 

 老婆は亡くなる前に、せめて結婚して独り立ちするまでは、親の近くで暮らしなさいと男に言い、男はその言葉に従いある程度譲歩してオヤとも関わるようにした。なのに、オヤは何を勘違いしたのか、何かにつけて干渉してくるようになった。


 そして、男が18歳になった時、オヤが見合い話を持ってくるようになった。もちろん男は断ったが、オヤ‐特にハハオヤがしつこいくらいに足を運びどこどこの娘は塩商人の娘で、この娘は……などと聞きたくもない話を延々と聞かされうんざりとした日が3年ほど続いた。


 その日も懲りずにやってきたハハオヤから逃げるように朝早くから家を出ると、いらいらした気持ちのまま街をふぶらついた。

 途中、小腹がすいたので近くの茶屋で団子により、外に設置してある長椅子に座り何となしに街の城門から歩いてくる人買いの姿が目に入った。人買いの脇には子供がおり、これから遊郭に売られる不安からなのか、きょろきょろと落ち着きなく周りを見回していた。


(妓楼に入ったら結婚できず、一生籠の鳥だろうな……)


 そんな事を考えながら、なにとなしに子供の様子を眺めているうちに、男の中で頭の中にある考えが閃いた。

 

 結婚していないから、干渉される。だがオヤの望む結婚相手と結婚したら逆にもっと干渉されるし、そんな原因となった相手に我慢できるとは思えない。

 だが、もし相手がオヤの望まない相手ならそれを理由にココから出られる。

 そして、それにうってつけの存在が目の前にいる。

 

 その考えに至ると、男は立ち上がり子供と人買いに近づいた。


「それは、いくらだ?」


 この時、男は子供に運命を感じたわけではない。思い立った時にその場にいた。ただそれだけの理由だけで、人買いから子供を買い、妻にすることに決めた。

 これで成人と結婚の条件を果たしたことになるだろうと、子供を家に連れて行って報告すると、想像通りオヤはどこの出ともわからない子供の存在に反対し、男はこれ幸いと生まれ育った街を出た。


 男と子供はそれから街を渡り歩き、王都に居をかまえ一緒に暮らし始めた。



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