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黄昏と猫  作者: 樹木
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「ほんとうに助かりました。ありがとうございます」

「いいえ、大したことじゃないのにこちらこそ馬車にのせて頂いて」

 かしこまる女性にトワイライトは朗らかに笑った。

 ジョゼとトワイライトは今、この女性の馬車に相乗りさせてもらっているのだ。


 話は数時間前に遡る訳だが、話の続きを促されてもジョゼは家についてこの戸籍上の従兄弟にどう説明した者か考えあぐねていた。その間にも2人の足は止まらない(止めるわけにはいかない)わけで、結局うまい言い回しも、どんなところまで話してしまうかも思いつかずついに貸し馬屋までやってきてしまった。

 やってきたはいいものの、妙に空いている。と、いうより客はジョゼとトワイライトの2人だけのようだ。木製の大きな店舗には、しかし、受付の大きなカウンターの内側に従業員は1人しかおらず、その1人も閉店作業に入っているようだ。

「ごめんください、あの、馬を借りたいんですけど」

「はい?」

 従業員は驚いたように肩を跳ね上げ、振り返った。

「馬を貸してくれないか」

「や、すみません。ただいますべて出払っておりまして」

「ええ! どうしてですか?」

「知りませんか? 今王都に最強の龍使いが来ているらしくてその見物に皆馬を駆っていったんですよ」

「そうか、仕方がない他を当たることにする」

「ちょっと、お嬢さん。どこの馬も出払ってますよ。寄り合い馬車をつかっては如何ですか」

「すこし、考える。ありがとう」

 結局足を得ることは叶わず二人は店を出た。そして言葉通り停車場へは向かわず、手近な喫茶店のテラスへ腰を落ち着けることとなった。

「さて、どうしましょうか。私は馬車に乗るしかないような気がしていますが」

「そう、だな。全く行って帰るだけでこんなに時間を食うとは思わなかった。」

 トワイライトの言葉にジョゼも渋々納得。というのも寄り合い馬車ではどう頑張っても王都へ帰るのに6日はかかってしまう。姫が行方不明になってからすでに一週間経っているというのに更に6日とは。しかしそれでも徒歩よりは早いので選択の余地はない。

「しかたない、いくぞ。停車場はどこだろうか」

「こっちですよ、ジョゼさん」

 金を払い、二人は連れ立って茶店を出た。そのとたん、大通りから悲鳴が届く。そして悲鳴が聞こえてすぐに坂の向こうから暴走車が姿を現した。制御不能になっているようでジョゼとトワイライトの方へまっすぐ突っ込んでくる。

「トワイライト、脇によけろ!」

 ジョゼはトワイライトの腕を掴み引っ張るが、トワイライトはそれをやんわり引き離した。

「いいえ、私に任せて下さい」

 トワイライトはそう言うと車の進行方向の真ん中に立った。その手にはいつのまにか使い古されたような工具が握られている。

「私だってアインスの出です。これくらい」

 ぶつかったと、そう思った次の瞬間。トワイライトはその場に立ち続けていた。暴走車の姿はなく、あったのは綺麗に整頓された部品とそのまま残されたシートに座り込んでいる運転手と貴婦人の姿だった。

「簡単です」

 そう言ってジョゼに向かいにっこりと微笑むと、トワイライトは運転手に軽く声をかけ、貴婦人の前にかがんだ。

「お怪我はございませんか」

 笑顔で手を取りそう尋ねた。その言葉で女性もようやく我に返った様子でしきりに礼を告げた。

「ありがとうございます。ぜひ何かお礼を差し上げたいのですが」

「いえ、おれいなんて」

「こちらこそありがとうございます。我々は王都へ急いでいるのですがあいにく貸し馬も出払っていて、是非馬をお借りしたい」

 辞退しようとしたトワイライトの口を塞ぎジョゼは捲し立てた。その後ろでは暴走車を追って来たであろう使用人たちが部品の撤去作業に着手しはじめていた。

「ちょっとジョゼさん」

「いいだろ、借りるだけだし」

 こそこそと言い争う二人を気にするでもなく女性はおっとりと告げた。

「あら、わたしも王都へ向かうところでしたの。屋敷をでてすぐこの通りになってしまったのでいまから屋敷に戻り、馬車で改めて出発するつもりなのですが良ければ乗ります?」

 二人は一も二もなく頷いた。

 

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