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「いつになったらきてくれるのよ!」
女はヒステリックに叫びながら傍にあった豪奢な花瓶を床に叩きつけた。それだけでは気がすまないのか次々と部屋にある高価な調度品をあたりにぶちまけていく。
「うわあ、荒れてるねぇ」
からかうように声をかけながら黒髪の男が入ってきた。歌うように柔らかな口調だが、目は酷薄で冷たい。
「だってもう4日よ!? 4日なのよ!?」
女は見事な金の髪を振り乱し、品のある顔を憤怒に歪ませる。調度品の残骸を踏みつけながら彼女は吼えた。
「ジョゼなら、もう、わたくしがどこにいるか、見当がついているはずなのに!」
どうして! どうして! と、彼女は男に詰め寄る。
「うるさいなあ、僕が知るわけないだろ。あんまりうるさくするようだと売春窟にでも売り飛ばすからねわがまま女」
甘やかされて育ち、一応はわがままの自覚がある女はひとまず口を閉ざすことにした。それをちらりと横目で確認し、まだ破壊されていない本棚や暖炉の上からものを取り上げた。
「何を、していますの?」
幾分落ち着いた様子で女は尋ねた。男は切なそうにいくつかの本を抱きしめたまま女を振り返り、ひとつのフォトフレームを差し出す。
「僕の可愛い可愛いご主人様さ。怪獣に踏み潰される前にナイトがお助けに参上仕ったってわけ」
「な、怪獣ですって!?」
憤る女は無視して男は写真を眺める。写真の中の少女がまるでそこにいるように、酷薄そうな目を甘く和ませて。
「あんた、顔だけはあの子に似てる。僕の永遠のご主人様に。だからこんな、ばかな話にも乗ってあげたんだから。感謝してよね」
それだけ言うと男は長く癖のある黒髪を翻し、フォトフレームといくつかのアルバムを大事そうに抱え部屋を後にした。
「なんなのよ。わたくしのジョゼのほうがずっとずっと」
女は唇を噛み、王都の街の灯を見下ろした。
「早く、来て…。わたくしのジョゼ」
「ねえ、きっとあいつを殺してみせるよ」
ろうそくの炎だけで光をとっている薄暗い部屋で男は写真に口付けた。
「大丈夫、あの女は王女様なんだってさ。あの女の騎士の前で僕が今度こそ本当にあの女を浚ったら? 今度は命の危険をほのめかしたら? 王はあいつにすがると思わない? ここはカロンほどあいつの手駒が多いわけじゃない。大丈夫やれるさ」
うっとりと少女の写真に微笑みかけ、机の上のずたずたに裂かれ原型を留めない写真を手に取り弄ぶように揺らす。
「こいつを殺すついでにあの女には夢をみさせてやってもいい。きっと叶わないあの女の恋の夢」