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黄昏と猫  作者: 樹木
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「注意事項はそれだけか?」

「そうだな! 他にもなんかある気がするけど、ライトが遠出をするのはこれが初めてだからな。これ以上何が必要なのか俺にもわかんね」

「それで、どうするんですか? まずは王都に向かうんですか?」

「そうだ。トワイライトが同行してくれることを王に報告し、そのあとすぐに姫様を探しにいく」

「まさか、二人だけで探しにいくなんてそんなこと無いですよね」

 一瞬の沈黙がカーテンを閉め切り人工的な光で明るい(つまり電気)応接間に降りる。ジョゼが曖昧に微笑む。そんな、彼女に全く似合わない表情からも何かまずいことがあることが分かる。

「場所の見当はついている」

 答えになっていないことは彼女が一番分かっていた。協力をあおいでいる以上説明した方が良いということも。ジョゼは憂鬱そうに仰向く。いくら親戚とはいえ一般市民に王宮の恥を晒すのはキツいものがあった。

「姫様が行方不明なんて外聞が悪いだろう? それも狂言なんて。ただでさえ姫様は国民からの人気があまりないのに。それに下手に兵を動かしてカロンやプロキオンを刺激するのも本意でない」

「そりゃそーだけど、ってかさ、もうほっとけば?」

 その言葉にジョゼとライトはセルシスを振り返る。

「お前は…。親のくせに本当に気持ちを察することが苦手だな」

「そうじゃないでしょ。だって為政者でしょ。どう考えてもそのお姫さん、国のためにならないじゃない。それを排除する英断をしてこその国王じゃないのさ?」

「王族だって人間だぞ…。それを…」

 ライトがはっとした顔で手を打つ。

「ジョゼさん! お姫様と仲良しだったんですね!」

 その言葉にジョゼは渋い顔で押し黙る。それを見たセルシスもぽんと手を打つ。

「王族とは民のためにあれ、なんてお前が一番主張しそうなことだものな! そーかそーか」

 セルシスはジョゼに対してにやにやした顔を隠さなかった。そしてジョゼも顔を背けたりしなかった。

「…お前の息子、本当になんというか、厳しいな」

「鋭いだろう?」

 誇らしげに笑むセルシスにジョゼは疲れたような苦笑を滲ませながら組んだ手の甲に額を下ろした。そして、浅く息をつくとライトに向かい合う。

「助けてくれ。彼女は自尊心が高く我が侭で傲慢でどうしようもない方だが、彼女は幼馴染みで、私の耳を、尻尾をバカにせず、私にとって…。いや、ちがうそうじゃない」

 ジョゼの剣の様に鋭い視線がライトを射抜く。

「大切な、友達なんだ。どうか力を貸してほしい」

「最初からそう言えばうちの可愛い息子を貸してやるのもやぶさかではない」

 セルシスがふんぞり返るのを見てライトがさわやかに笑った。さわやかだったのだが本人の色が白すぎていまいち”花が咲くよう”とか”輝くよう”と形容できないことが何とも惜しい。

「さあ、お義父さんが快く送り出してくれる気になったところで、移動手段はどうしますか?」

「ああ、それなら心配ない」

 そう言いながらジョゼは他の2人を連れて玄関へ向かう。少し誇らしげに親子を振り返りながら扉を開け放つ。

「私が乗ってきたバイクが…」

 2人は蒼白だった。ライトなどは青白いを通り越してもはや紙のように白い顔色をしていた。その2人の引きつった顔を怪訝そうに見た後、ジョゼは視線を表へ向けた。


 時が、止まった。


 おそらく、大型のバイクがあったであろう家のすぐ前、教会へ向かう大きな通りには大勢の村民がしゃがみ込み何か作業をしていた。あたりにはネジやスパナ、ドライバーや、いやこれ以上は言うまい。ともかく、散乱していたのだ。散らばっている残骸の中にシートらしきものがみえることや、明らかなタイヤがあることから、これが彼女の愛車の成れの果てであることは想像に難くない。

「お、神父様! なんか置いてあったからやっちゃったよ!」

「珍しいね、神父様がこんなもの表においておくなんて。不用心だよ」

「やはり、久々にやると腕が落ちておるな」

 村人たちが口々に楽しげに声をかけるが、言葉を返せる余裕なんてない。ライトはびっしょり汗をかきながらおろおろとジョゼの顔をうかがい、セルシスはやはりこちらも凄まじく汗をかきながら死んだ目でうっすら笑んでいる。そしてジョゼは、ジョゼは微動だにしなかった。まるで岩の様に、呼吸すら忘れたようにじっと彼女が愛車を止めたであろう場所を凝視していた。


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