異世界転生・西野:ep.6フランダースの犬編「パトラッシュ、その権利俺に売れ」
雪降るアントワープ、大聖堂の前で死を待つ少年と老犬。
その美しい悲劇の幕を、泥だらけのブーツで踏みにじったのは、異世界転生者・西野だった。
感動に耽るネロを「損切りの遅い無能」と一蹴し、パトラッシュの心肺機能に軍用犬としての価値を見出す。
几帳面な偽造工作でネロの絵を「聖画」に仕立て上げ、荒っぽい脅迫で教会と村の利権を強奪する。
「パトラッシュ、疲れたろ? ……俺もこの貧乏臭い話には飽きたんだ。金に換えてさっさと次行くぞ」
ルーベンスの絵の前で繰り広げられる、冷酷なまでの「幸福」の強制執行。
次に彼が降り立ったのは、19世紀ベルギー、アントワープの寒村だった。そこには、貧困と絶望の淵に立たされた少年ネロと、老犬パトラッシュがいた。
1. 絶望の「損切り」
雪の降る広場。ネロはコンクールに落選し、家も追い出され、大聖堂のルーベンスの絵の前で死を待とうとしていた。「パトラッシュ……僕ら、もう疲れたよ……」
その感動的なシーンに、西野が雪を蹴散らしながら割って入った。
「おい、ガキ。湿っぽえんだよ。死ぬ前にその犬の『動産価値』を計算したことあるか?」
ネロが涙目で振り返る。「西野さん……もういいんです。僕には才能がない。神様も見てくれない……」
「神様? ああ、あの上でふんぞり返ってるルーベンスのことか。あいつの絵なんてただの油絵具の塊だろ。それよりお前、その犬だ。こいつ、この過酷な労働環境でこれだけ長生きしてる。心肺機能が異常に高いぞ。これ、ブリーダーに売れば金になるし軍用犬として訓練し直せばさらに跳ねるな」
2. 荒っぽい「救済」
西野のやり方は相変わらず雑で、容赦がない。
彼はネロを教会の裏へ引きずって行き、几帳面な手つきで一通の書面を作成した。
「いいか。お前が描いたあの絵、あれを『薄幸の少年が死の間際に描いた絶筆』としてオークションにかける。俺がサクラを雇って値段を吊り上げてやる。その代わり、売上の9割はコンサル料として俺がもらう。文句ねえな?」
さらに西野は、ネロをいじめていた風車小屋の主・ハンスの弱みを握った。几帳面な調査で、ハンスが教会の寄付金を横領していた証拠を掴んでいたのだ。
「おいハンス。お前が寄付金をピンハネしてる帳簿、これ本物だよな? 告発されたくなければ、この犬を『聖犬』として崇める新しい宗教のスポンサーになれ」
3. アントワープの商標独占
数週間後、アントワープは一変していた。
西野のプロデュースにより、ネロの描いた「下手だが味のある絵」は、NFTならぬ「一点物の聖画」として貴族の間で高値で取引され始めた。
パトラッシュは、西野によって几帳面にブラッシングされ、金色のリボンを巻かれて「幸福を呼ぶ犬」として教会の入り口で客寄せパンダ(客寄せ犬)にされていた。
ネロは暖かい部屋で豪華な食事を与えられ、戸惑っていた。
「西野さん、僕、こんなに幸せでいいのかな……。でも、なんだか絵を描くのが仕事みたいで、楽しくなくなっちゃった……」
その言葉を聞いた瞬間、西野は飽きた。
「だろうな。お前の絵、需要に合わせた量産型に変えさせたからな。芸術性なんてゼロだよ。まあ、食えてるんだからいいじゃねえか。俺はもう、この田舎のミルク臭い空気には飽きたんだわ」
4. あっさりした決別と、新しいマッチへの着火
西野は、ハンスから絞り取った全財産と、ネロの絵の売上の大半を金塊に変えて鞄に詰めた。
「パトラッシュ、お前もいつまで『聖犬』のフリしてんだよ。適当なところで野良に戻れよな」
西野は、ネロが「行かないでください!」と叫ぶのを背中で聞き流しながら、几帳面な計画書の次のページを開いた。そこには「火薬の配合比率」と「マッチの燃焼効率」が書き殴られていた。
「次は北欧か。あそこには、マッチを使って幻覚を見せるヤバいドラッグディーラーのガキがいるらしいな」
西野はアントワープの港から、黒煙を上げる蒸気船に乗って、雪の降る北へと向かった。




