第八話:品位の再定義
クロウの仕掛けたスキャンダルは完璧だった。王族会議の招集は決定し、アルフレッドは窮地に立たされた。すべては、リアとアルフレッドの「自由で奔放な愛」が、「王族の品位」という名の、最も堅固な壁にぶつかった結果であった。
リアは、自分がアルフレッドのキャリアを危機に晒したことに、深く責任を感じていた。
「私のせいで、アルフレッドの改革が……私の衝動は、結局、ただのワガママだったの?」
彼女は、アルフレッドが淹れてくれたコーヒーの香りを嗅ぎながら、自問した。アルフレッドは、彼女を責めるどころか、冷静にデータ分析を続けている。
「リア。君の行動はワガママではない。君の奔放さは、クロウが仕掛ける予測可能な罠を打ち破るための、最高の『不確実性』だった。だが、この『品位』の問題は、データや論理だけでは解決できない。これは、感情と伝統の問題だからだ」
「感情と伝統……」
リアは、ふと、クロウがいつも言っていた言葉を思い出した。
「リア。君の好きな薔薇の香りの香水も手に入れたよ。君の瞳の色に合う、深紅のルビーをあしらったペンダントと共に贈ろう」
彼は完璧なプレゼントを用意したが、リアが本当に欲しいものを知ろうとはしなかった。
「完璧な贈り物ではなく、心を動かす贈り物」
リアの賢い頭脳と、奔放な衝動が、ここで融合する。彼女は、クロウの「品位」という概念を打ち砕くための、計算された、最後の奔放な行動を決意した。
王族会議の前日。クロウが仕掛けたスキャンダルの中心にある、「塔の上で抱き合う写真」が、王都中の新聞でセンセーショナルに報じられていた。
リアは、王族会議に先立ち、王妃や王族の夫人たちが主催する最高格式の慈善晩餐会に、招待状がないにもかかわらず乗り込んだ。
周囲の令嬢たちが色めき立ち、クロウの陰謀を喜ぶ旧派貴族たちが嘲笑する中、リアは正面から王妃の前に進み出る。
「リア・ヴェールです。招待状なしで参りましたこと、お許しください。ですが、この場で、王族の品位について、一言申し上げさせてください」
会場は凍り付いた。誰もがリアが、「不品行」について、泣きながら言い訳をするものだと思ったからだ。
しかし、リアは堂々と、そして心からの熱意をもって語り始めた。
「私とアルフレッド様が、公務中に塔の上で抱き合っていたことは事実です。それは、私たちが王族としての品位を欠いた行為だと、世間は言うでしょう」
リアはそこで一度言葉を切り、会場全体を見渡した。
「ですが、王妃様。アルフレッド様は、東方で『王族の真の品位とは、領民の未来と幸福を向上させる実務にあり、形式的な豪華さにはない』と学ばれました」
そして、リアは懐から、クロウが贈った豪華なルビーのペンダントを取り出す。
「このペンダントは、以前の婚約者が私に贈ってくださった、完璧な品位の象徴です。ですが、これほど豪華な宝石を、飢えている領民がいる中で身につけることこそ、真の品位の欠如ではないでしょうか?」
彼女は、宝石を床に投げ捨てるようなことはしなかった。代わりに、彼女はそれを胸に抱きしめ、続ける。
「私たち二人は、夜中に塔の上で、『どうすれば、この国を、貴族の古い権威ではなく、国民の自由な熱意で豊かにできるか』を語り合っていました。私たちは、形式的な『王族の品位』ではなく、国民のための『実務の品位』を追求していたのです!」
リアはまっすぐ前を向き、会議室にいる一人一人の顔を見て続ける。
「私とアルフレッド様が築こうとしている新しい金融システムは、この宝石の価値よりも、何千倍も、何万倍も、国民の生活を豊かにする価値があります!王妃様、真の品位とは、夜中に塔の上で国民の未来を語り合う情熱にあると、私は信じています!」
リアの言葉は、完璧な論理で固められたクロウの陰謀を、「感情と情熱」という、彼が最も理解できない力で打ち破ったのだ。
彼女の瞳は真剣で、その奔放な行動の裏には、国民の未来と、アルフレッドへの真摯な愛があった。
王妃は、リアの熱意と賢明さに心を動かされました。彼女の瞳は、豪華な宝石よりも、リアの燃えるような情熱に釘付けになった。
「……リア・ヴェール令嬢。あなたのその奔放な熱意が、この国に必要な新しい品位かもしれませんね」
王妃のこの一言が、クロウの完璧な陰謀の終焉を告げた瞬間だった。




