第六話:タッグ結成! 新しい時代への船出
婚約破棄から数週間後、リアは王都の一角にある、瀟洒で新しいデザインの建物の一室にいた。ここはアルフレッド王子が新たに設置した「王室商務・文化刷新局」であり、リアは正式に「特別補佐官」として勤務を始めていた。
「リア、君の父上は本当に驚くべき人物だ。クロウ公爵の完璧な法的文書を、たった二日で『王室への迷惑料』として相殺してしまった。あの手腕こそ、この国に必要とされる新しい実力だよ」
アルフレッドは、デスクに山積みになった、王室に届いた新しい商取引の提案書に目を通しながら言った。
「ふふ、父は商売にかけては天才ですから。父から学んだのは、『価値観が硬直しているところにこそ、最大の利益が眠っている』ということです。クロウ様は、その硬直した価値観の象徴でした」
リアは、クロウ様から贈られた金色のミルではなく、アルフレッドが留学先から持ち帰ったシンプルで機能的なミルで豆を挽き、淹れたコーヒーをアルフレッドに差し出した。
「それで、アルフレッド。今日の議題は?」
「ああ、これを見てくれ」
アルフレッドが示したのは、王国の古びたギルド制度に関する報告書だった。
「クロウ公爵のような古い貴族は、このギルド制度を利用して、特定の商売を独占し、新しい商人の参入を妨げている。東方商国では、これは『不当な競争妨害』として厳しく罰せられる」
「つまり、クロウ様を倒すには、彼の権力の源である『非効率な制度』を破壊すればいいのね」
リアは目を輝かせた。彼女の奔放な衝動と、アルフレッドの合理的な知識が、見事に噛み合い始めていた。
二人の新しい仕事は順調に進み始めたが、クロウの影は確実に忍び寄っていた。
クロウは、リアの父子爵が出資していた新しい航路を開拓する商会に対し、公爵家の権力を用いて銀行からの融資を全てストップさせた。子爵家を経済的に追い詰め、アルフレッドとリアの後ろ盾を潰そうとしたのだ。
アルフレッドは、報告を受けて冷静に言った。
「これは『古い常識』の典型的な手口だ。王家の名前で銀行に圧力をかければ解決するが、それではクロウ公爵と同じだ」
しかし、リアはコーヒーを飲みながら、規格外のアイデアをひらめいた。
「アルフレッド、銀行に頼る必要はないわ。東方商国には、『個人間の投資契約』や『クラウドファンディング』という仕組みがあったでしょう?」
「リア、君は……!」
リアのアイデアは、王室や銀行を通さず、王都の一般市民や、クロウの支配を嫌う独立商人たちから、小口の投資を募るという、この国では前代未聞の試みだった。
「航路開拓は、成功すれば市民にも安価な輸入品をもたらす希望よ。クロウ様が『庶民は黙っていろ』と言うなら、私たちは庶民の力を結集すればいい。私は、王都で一番人通りの多い広場で『東方新航路の夢を売る令嬢』として演説するわ!」
王室特別補佐官が、街頭で資金調達の演説!?
アルフレッドは驚きを通り越して笑い出した。クロウ公爵の完璧な常識では、絶対に予測不能な行動だ。
「いいよ、リア。その奔放な計算、僕の知識で最大限にサポートしよう。君の行動力と、僕の『東方の新しい金融知識』があれば、クロウ公爵の古い資金封鎖など、ただの古い紙切れになる!」
こうして、リアとアルフレッドは、クロウの仕掛ける完璧な復讐を、リアの衝動的な奔放さと、アルフレッドの新しい常識というタッグで、次々と打ち破っていくことになるのだった。




